ギリ4個あった
お前たち、どうしてここに。いや、あの時のやつらとは別個体か?見た目じゃ見分けが付かないのに何か違う気する。
「む!っむ、む!」
「あ、おはよう。みんなも、おはよう。ありがとうな、駆けつけてくれて。」
その後、昨日の出来事を引きずっているのがバレているのか、助動詞たちは珍しく俺についてきた。
「む、さてはお前、昨日のこと話したな?」
「むっむー。」
「まあ、いいけどさ。」
これは大所帯になってしまった。でも、今はなんだか心地いい。人間だけで見たら一人旅だけど、そばにいてくれる奴がいるのって大事なんだな。
「む!」
「さなンめりと思ふに、憂くて、開けさせねば、例の家とおぼしきところにものしたり。」
出たな、鬼!女性を俵担ぎで攫う鬼、村の畑を荒らす鬼!!!
「行くぞ!未然形接続、打ち消しの助動詞「ず」の已然形!!!」
「ねー!!」
「みんな、知り合いの助動詞がいるなら呼んでくれ。終止形接続、推量の助動詞「めり」の終止形!!」
「めりぃ!!!」
「なりっ」
豚なりの仲間か!あれは、山羊?
「連用形接続、完了の助動詞「たり」の終止形!!!」
「たり!!!」
「けりっ」
「ぬっ」
ちっこい鳥だ!けりは大型だけど、たりちっさいぞ。ぬも心配そうだ。あ、でもめっちゃつついてる!効いているっぽい!
「憂くて、開けさせねば!!!!」
「ぅわあ!っ」
爆風?!立っていられずに尻餅をついた。鬼が払い退けただけで良かった。叩く気で来られてたら、俺っ……!
「なり!なり!」
「猪なり?」
くっそ、まだ助動詞が足りないんだ。猪なり……「さ・なン・めり」か!
「おう、頼む!猪なり!連体形接続、断定の助動詞「なり」の終止形!!」
「なりー!!!」
「ものsh……!」
やった。俺の古典の教科担任、こだわりを持っいて助かった。古文なんてスピーキング要らないのに教科書の丸読みのとき、やたら言ってたの思い出したぜ。
「平安時代の平仮名には「ん」がありませんので、あめり、かめり、ためり、なめりはンを補って、あんめり、かんめり、たんめり、なんめりと読んでください。」
って、たンめりは「たり・めり」、なンめりは「なり・めり」か。
「ずー。」
「たりっ!」
「めりっ!」
「なりー。」
「ああ、お前たち、ありがとう。」
助動詞達しかいないとはいえ、腰が抜けたまま叫ぶだけって、カッコつかないなあ。俺はなんとか立ち上がったが、まだ心臓がバクバク言ってる。
「はい、きび団子食えよ。」
あぶね。ギリ4個あった。これで3個だったら困っていたな。
「む、悪いが、もうないぞ。」
「むぅ!」
少し落ち着かないまま歩き出す。きび団子をぺろりと食べた後も助動詞たちは一緒に来てくれた。
早く次の村に行こう。きび団子もないし、また被害が出るかもしれない。村についたところで、こいつら皆、入れてもらえるかな。
「あっ、え、村というか、街だ。」
最初に出発したような、割としっかりした街が見えてきた。都ほどじゃなくても、都市の一つなんだろうか。
出典 「うつろひたる菊」蜻蛉日記