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分相応に人を頼った方が良い

 「次平(よしひら)、ただいま。」

「兄さん?!どうしたの。おかえり。」

「お義兄(にい)さん!おかえりなさい。」

「お伊勢さん、こんにちは。川に鬼が出たんだ。もう去ったみたいだが、今日は泊まっていっていいか。」

「まあ、鬼?!」

「村の方には来ていないから大丈夫だよ。」

「兄さんが無事で良かった。それで、そちらは?」

「あ、俺、杜若(かきつばた) 太郎っていいます。こっちは助動詞のむ。初めまして。」

「そういえば、名乗っていませんでしたね。私は一業(かずなり)です。こちらは弟の次平と嫁のお伊勢さん。次平、杜若さんは鬼に遭遇した時に舟に乗っていたお客さんだ。」

「兄さん、杜若 太郎さんって、助動詞使い様じゃないか?鬼退治をしてくださっているから村に来たら丁重にお迎えするようにって詔が出ているんだよ。すみません、杜若様。兄は小屋暮らしですのでそういうことに疎いのです。」

「それは、何も知らずにとんだ失礼を。」

「いえ、お気になさらず。鬼は倒せませんでしたし。」

「それでも、兄はこうして無事でした。村に宿の準備がされているはずです。そちらにご案内しましょう。」

鴨さん、天皇陛下直属って言ってただけあってすごいんだな。もう村まで情報が行き渡ってるなんて。

「あの、申し訳ないんですけど、きび団子っていただけませんか?川に落ちた「む」に食べさせてやりたくて。」

「それでしたら、私がお作りいたします。」

「お伊勢さん、ありがとうございます。良かったな、む。」

「むー。」

お伊勢さんが、きび団子ができたら部屋まで運んでくれるというからお言葉に甘えることにした。今の俺は鬼を逃した一文無し。例え助動詞使い様なんて呼ばれ方しようと、分相応に人を頼った方が良いだろう。

「そういえば、さっきのワニ、多分「ぬ」だよな。文法書見たいのに、川で濡れて破れそうだ。乾かした後に読めるようになるのかな。」

「杜若様、次平です。家内が作ったきび団子をお持ちしました。入ってもよろしいですか?」

「はい、どうぞ。」

「失礼します。これで大丈夫でしょうか?」

お伊勢さん、張り切って作ってくれたんだな。持っていた分は今頃川でどんぶらこだろうし、ありがたい。

「はい、ありがとうございます。」

「むっ、む!」

「分かってる、ほら、む、良かったな。大丈夫か?」

「む〜!」

「よしよし。」

「お気に召したようで、何よりです。家内の作るきび団子は美味しいでしょう。私も好物なのですよ。」

次平さん、多分胃袋を掴まれたタイプだな。

「ところで、そちらのふにゃふにゃになっている書物は?」

「あ、これですか?古典の文法書です。って、えっと、鬼退治の時に助動詞たちに力を借りるための呪文が書いてある本なんですけど、持ったまま川に落ちまして。」

「それは……!あの、杜若様、よろしければ、その書物を預からせていただけませんか?もしかしたら複製できるかもしれません。」

「本当ですか?!」

正直、これがないと助動詞なんて完璧に頭には入っていない。さっきの「ぬ」についても確認したいことがあった。

「お願いします。ちょうど、乾いたところで読めるのかなって心配していたところなんです。」

「承りました。できる限り、最善を尽くします。」

「ありがとうございます!」

良かった。これで、あの鬼を倒しにいけるかもしれない。この村に来ないかどうかも心配だけど、桐さんの村に行かないかだって心配なんだ。もし次平さんが複製してくれたら、こちらから鬼に向かってみよう。でも、まずは、腹が減っては戦はできぬって事で俺もお伊勢さんのきび団子を1つ貰おうかな。

「いただきます。」

「むー!」

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