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川デケェ

 村に着けば泊めてもらえるって、村に着かなきゃ野宿だよな。全然見えて来ねぇんだけど、今日大丈夫か?

「むっ!む!」

「鬼か?」

「むー!」

鬼じゃないのか?

「あ、おい、む!」

あいつ、勝手に走っていくなって。

「よしよし、お前人懐っこいな?野良(のら)むじゃないのか?」

あ、人か。おー、すげぇ川。

「すみません、うちのむが。こんにちは。」

「ああ、どうも。この子、人懐っこいですね。」

「むぅ!」

「えっと、お客さん?川渡って行かれます?」

「あ、もしかして船頭さんですか?じゃあお願いします。」

そうか、こんな大きい川、橋なんてかけられないから舟と船頭さんがいるんだ。

「では、15貫文になります。」

「あの、俺お金持ってなくて。きび団子しかないんですけど。」

そういえば、鴨さん、お金はくれなかったな。

「まぁ、見ない顔だし初利用ってことで良いですよ。きび団子を一つもらっていいですか?」

「どうぞ。」

「ありがとうございます。帰りにこの川渡る頃には15貫文持ってきてくださいね。」

「すみません、ありがとうございます。」

「むも一緒に行きますよね。では、船の上ではしゃいでしまわないように抱えてもらってて良いですか?」

「分かりました。ほら、おいで、む。」

「む〜!」

「揺れますから、じっと座っていてくださいね。」

「はい。よろしくお願いします。」

前の世界でも船とか2回くらいしか乗ったことなかったけど、こういう舟は初めてだな。にしても、川デケェ。

「船頭さんはずっとあの小屋で暮らしているんですか?」

「ええ、そう頻繁に人が来るわけじゃないけど、誰かがいないとこの川を越えられませんので。でも、自分はこの生活を気に入ってますよ。舟の上に生涯をうかべ、なんたらかんたら老いをむかふる物は、日々旅にして、旅を栖とすってね。」

「うる覚えじゃないっすか。」

「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」

「この声はっ!」

「おっ、鬼だ!」

「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」

ぬ!いや、でも、あいつ、ここに来れんのか?見た目は蛇だぞ。

「ず!来てくれ!頼む!」

「はや舟に乗れ。日も暮れぬ!!!」

「今、舟の上だっつーの!うわあ!船頭さん!」

鬼とはそこそこな距離があるのに、起こした波で舟をひっくり返されちまった。むは腕の中にいるけど、どうしよう。こんな川の真ん中で、息がっ。

「ぬー!」

「っぷはっ!げほっ、げほっ、げほっ。あ"ー。」

助かった。

「むっ、むっ」

良かった、むも生きてるな。

「お前は?」

ワニ?!おお、なんかデカいぞ。人2人背中に乗せてるなんて。

「ぬ!」

「ぬ?なのか?」

でも、ずは蛇だよな。

「お前、俺たちを岸まで連れて行ってくれるのか?」

「ぬ〜!」

鬼は、見失った。まずは船頭さんをなんとかしないと。とにかく助動詞に助けられたな。

「船頭さん、船頭さん!」

「む!む!」

「んっ、ぐへっ、げほっ、げぼっ。」

「良かった、船頭さん、目を覚まして。」

「ここは?」

「反対側の岸です。このぬが背中に乗せてくれて。」

「ぅおう!ぬ!お前、良いやつだったのか。ありがとうな。」

「ぬぅ!」

「船頭さん、ぬを知っているんですか?」

「はい、助動詞は人を食ったりしないけど、この大きさでしょう。舟がひっくり返されるんじゃないかって、あんまりよく思っていなかったんですけど、まさか逆に助けられるとは。すまないな、今まで誤解していて。」

「ぬ〜!」

「鬼はもう近くにいないみたいです。」

「良かった。でも、用心するに越したことはないでしょう。私も今日は小屋ではなく村の実家に帰ります。一緒に来ますか?」

「お願いします。どちらにせよ、村を頼らせてもらう予定だったので。」

「むー。」

「ごめんな、む。きび団子は川に流された。もう少し辛抱してくれ。」

「ぬ〜。」

「あ、ありがとうな、ぬ!」

ワニの姿をした声低めの「ぬ」は川の中へ帰って行った。

「では、我々も鬼が戻って来ないうちに行きましょうか。」

出典 「奥の細道」

   「東下り」伊勢物語

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