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生きてて良かった

 「お母さん!」

「桐!貴女、助かったの?!ああ、良かった、本当に良かったわ。」

「泣かないで、お母さん。助動詞使いの杜若(かきつばた)くんが助けてくれたの。鬼は成仏したわ。」

「鬼を祓ったなんて……!それは、娘を助けていただき、もうなんとお礼していいのやら。本当に、ありがとうございます。」

「いえ、ほとんど助動詞たちのおかげですし。助けてくれた「ず」と「けり」は森に帰っちゃったんですけど。」

「桐、無事だったのか。村のもんを助けていただいて。ありがたや、ありがたや〜。」

「ばば様!この方が話してたら助動詞使いさんよ。村に泊まって行ってもらって良いわよね。」

「もちろんじゃ、桐。宿の支度は出来とるだでな。皆、桐の命の恩人じゃ!しっかりおもてなしするのじゃぞ。」

俺、結局文法書と睨めっこして叫んでただけで体張って戦ってくれたのはずとけりなんだけどな。でも、この先ずっとこんな感じだろうし、慣れちゃって良いのかな。

「むー、むっむ!」

 その後、俺とむは村の宿に泊めてもらい、お風呂と夕食もいただいた。

「杜若くん、入っても良いかな?」

「え、桐さん?良いけど。」

音も立てずに襖が開く。借りた浴衣で休んでいた俺は少し緊張してしまった。

「昼間は村の皆がいて、ゆっくりできなかったでしょう?長居はしないから少しお話ししたくて。」

「長居しても全然、気にしないで。」

「あのね、私、今日お父さんのところに行っていたの。火葬ができない小さな村じゃ、中にお墓を作れなくて、森の中に土葬するんだ。」

桐さんのお父さん、亡くなってたのか。

「お父さんが死んじゃったのは何年も前のことだし、もともと体の弱い人だったから、鬼は関係ないんだよ!でも、遺言って言うのかな、最後にお父さん『寂しくてもすぐにこっちに来ちゃいけないよ。お母さんをよろしくね。』って言ってたから、だからね、助けてもらえて本当に良かったなって!村の皆がいるとはいえ、お母さんにはもう私しかいないんだもん。私、生きてて良かった。ありがとう、杜若くん!」

「桐さんが村に戻った時、お母さんが泣いていたのはそんな経緯もあったんだな。俺、桐さんの声聞いて駆けつけたんだけど、その時意外と距離があってさ。よく声が届いたなって思ったんだ。桐さんが今生きているのは桐さんが諦めなかったからだよ。良かったな、俺たち生きてて!」

そうか、助動詞たちが戦ってくれるからどこかで甘く見てたけど、鬼と対峙するってことはやっぱり俺にも命の危険があるわけで。今日のけりみたいに俺がしくじったら助動詞たちがやられていくんだよな。……勉強、してみるか。

「それじゃあ、私そろそろ部屋に戻るね。夜にお邪魔してごめんなさい。」

「おう、おやすみ。」

「おやすみ。」

桐さん、深い夜ではないとは言え、男の部屋に来るのは気をつけたが方が良いかもしれないぞ。

「あれだけ叫べる桐さんなら大丈夫か。」

「むー!」

 「それでは、お世話になりました。」

「杜若くん……ご武運を。」

「おう、ありがとう。」

「杜若様、本当にありがとうございました。」

「いえ、桐さんのお母さんもお元気で。」

少しゆっくりして行ってはと桐さんのお母さんは言ってくれたけど、村のばば様に他の村だって困っているのだからと宥められていた。どうやら鬼退治というだけあって、イメージは転移前の世界の桃太郎っぽい。鬼は本土に上陸して村々から金品や女子供を奪ったり畑を荒らしたし、場合によっては病を運んでくるのだと村の人たちに教えてもらった。それを俺は助動詞をお供に鬼ヶ島へ。むは犬っぽいし、けりは鳥系だったから次は猿っぽいの出てこないかな。

「そういえば、む、お前はずっと一緒に来てくれるのか?」

「むー!!」

むは忠犬というやつかもしれない。きび団子を食べて帰っていく助動詞たちと違い、俺と一緒に来てくれるらしい。

「む、これ食べるか?桐のお母さんが作ってくれたきび団子。」

「む〜!」

お前、さてはきび団子が欲しいだけか?まあ、良いけどさ。

「これ、うまいな。鴨さんが持たせてくれたものとちょっと違う気がする。村の特色っていうのかな。」

「む〜!!」

きび団子巡りというのも楽しいかもしれない。俺は割と甘党だ。

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