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やがてナスカの手もとに差し出されたのは、紙を貼り過ぎて驚くほど膨張しているスクラップブックだった。
ベージュのがさがさした表紙にはベルデのサインが控えめに書かれているだけ、しかし一枚めくればそこはもうエアハルト祭りである。
白黒の記事が大量に切り貼りされていて、スクラップブックの中の世界は何もかもがエアハルトに染まっていると感じられるほどだ。
「……エアハルト図鑑?」
ナスカはページを眺めながら思わずそう呟いた。
「そうですね! 自分で言うのも何ですが、最高の出来です!」
嬉しそうに胸を張るベルデを目にして。
ナスカは改めて平和な今を想い、それと同時に、こうして生きていられる運命に感謝した。
愛する人も、自分も、それに目の前で嬉しそうにしている彼も――何か一つでも違っていればすべて消え遠い幻となっていたかもしれなかったのだ。
でも、嵐の果てに、ここへたどり着けた。
もうそれだけでいい――そう思うほどに、何もかもが愛おしい。
「いいですね、こういうの」
意味もなく目を伏せて、静けさをそっと抱き締める。
「ずっと誰かの記憶に残ってゆく……」
「それを言えば貴女だって英雄でしょう」
「でももう過去のことです」
「そうでしょうか。今も探せばどこかには貴女に憧れている人が……」
ベルデがそこまで言ったのを聞いた時、ナスカははっとした。
記憶に残るのは悪いことではない。
でもそれを自分に当てはめて望むべきかと問われれば――そうとも思えない。
「いない方がいいです、それは」
果てに、答えた。
「もうそういう時代でないので」
上手く言えなかった、そう思っていたナスカだが、その表情からベルデは彼女の心を悟ったようだった。
「そうですね、分かりました。……では! まだまだありますがざっくり分類の中ではラスト! 音声テープです!」
まだ続くんだ、しかも当たり前のように。
ナスカは心の内だけで苦笑する。
「一番のおすすめはこちら! 飛行中鼻歌を歌っていたら操作ミスで全部漏れていた時の音声テープになります」
「えええ……」
「と、変わり種もありますが、基本的には普通のやり取りのものが多いです。重要な内容の部分はカットされているものも多いですが……その辺はさすがに仕方ないですね」
「それって、聞き返すこととかあるんですか?」
「ありますね」
「ええっ」
「眠れない夜なんかにぴったりですよ」
そんな感じで、解説してもらうだけでかなりの時間が経過してしまった。
ちなみに、今日の話に出てきたデータのほぼすべては、コピーをとって実家にも置いてあるのだそう。
それを聞いたナスカは口を大きく空けて「徹底してる……」とこぼすことしかできなかった。
◆終わり◆




