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「このファイルには成績表のコピーが入っています、航空学校時代の全年度分、揃っています」
「す、すごい量……」
「夏合宿のレポートもあります」
「そこまで……あれ、でも、貴方のものは?」
「それは使わないので実家に置いています、不要なものを置いておくのは非効率的です」
ファイリングされた成績表のコピーたちに目を通しながら、ナスカは「本人はもう失くしてるのもあるだろうなぁ」なんて思った。
というのも、将来を誓い合った仲となった今もなお、エアハルトが自分の過去の情報を晒したことはほとんどないのである。もちろん何も知らないわけではない、が、少なくとも学生時代の成績表なんてものは見せてもらったことがない。
「他にも何かありますか?」
「もちろんです。何からお見せしましょうか、音声テープ、録画、サインに写真、新聞の切り抜き――種類は様々です」
ベルデは少しばかり誇らしげだった。
「そうでした!」
突如、彼は何か思い出したような声を出す。
「一番はというと、やはりこれではないでしょうか!」
「何ですかそれ」
彼が棚の隙間から取り出してきたのは古そうなビデオテープ。
「1930年十二月九日、クロレア国営テレビの夕方の番組で放送された頑張る若者特集です」
「ええっ、古い……。その時多分私まだ生まれてないです」
「アードラーさん十八歳」
「若ッ!!」
ナスカはくらくらした。
一体どれだけ前の番組なのか……。
「凛々しくもまだ初々しい時代ですね」
「あ、そうなんですか」
「食堂のシーンで番組が差し入れたうさぎロールケーキではなく敢えていつもあるねこぱんを取っていて惚れました」
そして、と、ベルデは話を次へ運ぶ。
「他にも、ここからこのあたりまで、全部録画です」
「二十くらいはありそうですね」
「もっと多いかと。途中からは記録媒体も少し変わって収納しやすくなりましたね、薄くなりましたから」
「時代を感じますね……」
廊下では口数が多くなかったベルデだが、今は次から次へと言葉を紡いでいっている。
やはりエアハルトの話になると急激に活発化するのだ。
「そちらのアルバムみたいなものは?」
「よく聞いてくださいました!!」
いきなり大きな声を出されたものだからナスカはかなり驚いた、それこそ息が止まりそうなほどに。
彼は嬉しそうに分厚いアルバムを取り出し開いてナスカへと向ける。
「これは写真です!!」
いやそれは分かってる、と思いつつも、ナスカは取り敢えず笑みで返す。
「サイン入りもあります」
「コピーですか?」
「いえ! これは直筆サイン入り写真です!」
「わ、本当だ、書いてありますね」
「こちらは学生時代講義の手伝いのためにいらっしゃったアードラーさんに頼んで書いていただいたもの、そしてこちらはこの待機所に来てすぐの時にお願いして書いていただいたものです!」
左右に二つ並んだサイン入り写真はどちらもツーショット。
ベルデが学生だった頃の写真の中のエアハルトはそれなりに穏やかに笑っていたが、もう一方の写真の彼は真面目に写ってこそいるもののかなり退屈そうな顔をしていた。
もっとも、ベルデはベルデでどちらも無表情に近いのだが……これは多分緊張していたせいなのだろう、とナスカは勝手に推測した。




