97・アナ 1
アナ視点のお話です。
「じゃあリタの事はよろしく頼むわねアナ……元気でね」
「う、うん、ルナお姉ちゃん……」
私が今のリタよりもう少し幼かった頃、お姉ちゃんのルナは魔王軍の兵士として徴兵されていってしまった。
お父さんとお母さんは随分前に軍に入ったっきり帰って来ておらず、生きてるかどうかも怪しかった。
自分もまだ子供なのに、更に幼い私とリタを親代わりに育ててくれたルナお姉ちゃんは、今日私達を置いて軍の人に連れていかれてしまったのである。
決まっていた事とは言え、悲しくて辛くて涙が止まらなかった。
何も知らない小さなリタは泣いている私を気にしてか首を傾げ、悲しい時にいつも自分がそうされているように小さな手を伸ばし、私の頭を撫でようとしていた。
妹に慰められるなんて駄目なお姉ちゃんだ……もっとしっかりしないと。
幸い小さいながらも住む家はあるし、この辺りの家の人達は私と同じ境遇の人が多い。
食料は配給されるし、困ったことがあればこの辺りを管理してくれている宿泊施設の館長ラウドネルさんが相談にのってくれるので、少しは安心だ。
ともかく甘えられるルナお姉ちゃんはもう居ない。
リタの為にもしっかりしないといけないのだ。泣いてる暇はない……うん、頑張ろうと思う、でも今日は駄目だ……明日からきっと頑張るから……。
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「凄ぇ姉ちゃん! どうやったらそんなに強くなれるんだ? 大人の人でも姉ちゃんに勝てるの殆んどいないしさ、あたしももっと修行して姉ちゃんみたいに強くなるんだ!」
「ふふふ、私がリタと同じ年の頃は今のリタ程強くなかったわよ、きっとリタは私より強くなるわね」
訓練所で私とリタは修行に励む。
この町では魔王軍の兵士になる為に午前中は戦闘訓練に当てられ、午後は食料確保の為に農作業や狩り等を行うのが日課となっていた。
早いもので、もうすぐ私もここを出て行った頃のルナお姉ちゃんと同じ年になる。
つまりリタと別れ、私は兵士として魔王軍に徴兵される日が近いという事だ。勿論私に拒否権は無い。
リタは私を強いと言ってくれるが、本当は強くなんかはない事は私が一番分かっていた。
ただ、リタを心配させない為に私は必死で頑張ってきただけなのだ。
中身はあの時の……ルナお姉ちゃんが兵士になる為に連れていかれたあの日から何も変わっていない、泣き虫のままの私なのだから。
ある日突然に戦闘訓練が中止になり、私達はいつも午後から行う農作業等を一日中することになった。しかもその日だけではなく、毎日だ。
……まるでこのシーマの町が普通の町になった様な感じだ。
ここに住む私達も少しだが穏やかな気持ちにさせられる。
私は何度か仕事で日帰りだが他の町に行ったことがあるから、余計にそう感じるのかもしれない。
町の者の中には、この町から出た事もない人もいて、兵士の訓練をしているこの町が当たり前の、ごく普通の町だと思っている者も少なくないのだ。
リタは私が外に出た時の話を目をキラキラさせて聞きたがるので、町の外から帰る度に話してあげていた。
そのお陰でリタはこの町は特殊な町だという事は理解している様だ。
急に訓練を止めたのは、どうやらこの町に魔王軍の大幹部の方がいらっしゃって町で兵士を育成させるのを止めさせたらしいのだ。
いつもお世話になっているラウドネルさんの話によると、現在人間と戦争をしていない今の状況は、そんなに大量の兵士を必要とされていないそうなのだ。
でもこの町の様に兵士を育成させてる町がここの他にも何ヵ所もあるらしい。
何故そんなに兵士が必要なのか? その理由を聞いて私は凄く驚いた。
この町を含む、この辺りの領主様ザザビール伯爵様と隣の領の別の伯爵とは大変仲が悪く、魔王軍同士で諍いをしているそうなのだ。
いや、諍いというのは違うかな、実際に死人が出る戦闘、つまり領主同士が戦争をしているのだ。
そんな事の為に獣人の兵士を大量に育成し戦わせていたらしい。私とリタの両親も姉のルナお姉ちゃんも……。
そんな時に、その魔王軍の大幹部の方が来て無駄に兵士を育成することを禁じたらしい。これは相手方の伯爵も同じだそうだ。
大幹部の方の話では、諍いがあるなら魔王様の兵士を使わず己達で戦って決着させよとの事だ。
それはそうか、魔王軍の兵士は魔王様の為にあるもので、伯爵様同士が争う為の道具では無いのだから。
ちなみにその大幹部の方だが、私は見たことが無いがリタはその姿を偶然見たらしく、凄く綺麗な女性だったと言っていた。
ところがそんな平和な日々も長くは続かなかった。
次第に戦闘訓練が再開され、数か月する頃には元に戻ってしまったのだ。
でも、今度は兵士育成を止めさせた大幹部の部下の方が視察に来られて、あっさりと兵士を育成させていることがバレ、直ぐに中止となった。
今度こそ平和な町になったと思った矢先、この町を取りまとめている士爵様が新しい事業を開始すると言って、私達は地獄に落とされることになった。
アルメリアという人間の国で魔王様を倒すべく、勇者という者達が何十人も召喚されたらしい。
召喚? よくは分からないが、別の世界から呼び出された特別な人間らしい。
その勇者が奴隷をよく買うんだそうだ。その影響かそこに住む人間も奴隷を多く買う様になり、短期間ではあるが非常に儲かるらしい。
……つまり兵士になれなかった私達は、人間の国に奴隷として出荷されたのである。
そう、言葉通りに誇りも尊厳も無い、只の商品として。
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不幸中の幸いと言うべきか、私とリタは離れ離れになる事がなく同じ奴隷商に売り飛ばされた。
かなりの人数が居たので凄い確率だったが、まだ安心はできない。
そう、これから買われる御主人様に一緒に買われるとは限らないのだ。
いや、むしろ別々に買われる確率の方が圧倒的に高い。
私を買ったのは黒い髪に黒い瞳の少し小太りな勇者様だった。
「おっ、こいつ等姉妹か? いいじゃねぇか姉属性に生意気な獣耳少女最高じゃねぇかよ、ふひひひ」
リタはまだ幼いながらも美形でしたが、跳ねっ返りな性格のせいで販売価格が凄く安かったのです。
奴隷商はリタを売りつけるチャンスだと思ったのか、私とリタをセットで勇者様に売りつけました。
人の中には生意気な少女が好きだという変わり者も居るという事でしたが、どうやらこの勇者様はその変わり者の様です。
いえ、それ以上の変わり者でした。
なんとこの勇者様、私とリタの他にタイプの違う少女達も買ったのです。しかも全員私より幼い子ばかりでした。
……勇者様はモンスターと戦う為に奴隷を買っているんじゃないの?
一人二人なら分かります、その……勇者様を癒す為ですよね、主に身体で……。
ですがその勇者様は戦闘力の皆無な少女達を買っています。
私とリタは兵士になる為に人一倍訓練に明けくれ、町の外でモンスターと戦った事だってあります。
ですが、その他の獣人の少女達三人は全く戦闘経験がありませんでした。
しかし一体何処からお金が湧いて来るのでしょうか?
確かに戦闘力の高い、即戦力の獣人の奴隷は金貨百枚以上する筈ですし、重労働をする丈夫な獣人は少なくても金貨二十枚~三十枚はします。
実際にその金額で買われた人達を見て来たので間違いありません。
私の様なまだ成人になっていない少年少女達は、精々金貨十枚程度です。
そう、自分で言うのも何ですが、いかがわしい目的で買われ、使い捨ての奴隷、それが今の私達なのです。
その奴隷を五人も買えば金貨五十枚もします。
実際はリタはおまけで金貨一枚でしたし、リタより幼い子は金貨五枚程度でしたので、もっと安いですが……。
他の勇者様との会話で、王国から勇者様に与えられたのは金貨十枚と聞いて驚いたものです。
私を買った勇者様はどうやってお金を手に入れたのでしょうか。
そんな私達を矢面に立たせ、モンスターが弱った所を勇者様が止めを刺すという戦闘を繰り返します。
勇者様のそんな狡い行動よりも、もっと切迫した問題がありました。
私達には十分な武具が与えられていなかったのです。
鎧どころか厚手の布の服に、刃こぼれした短剣……いえ、これは剣とは言えない只の刃物ですね、それだけが私達の武具だったのです。
私やリタはそれでも何とかなります、ですが他の子達はそうはいきません。
そして遂に少女の一人が命を落としました。
勇者様、いえ勇者はその子を捨てて、なんと新しい奴隷を買いに行ってしまったのです。
……え、私達は本当に使い捨てだったのですか?
それと、勇者はお金をまだ持っていたのですね? 新しい奴隷を買うくらいの、お金を。
お金が無いから私達の武具を安く頼りない物にしていた訳じゃ無かったと知って、とてもショックを受けました。
リタはそれに反抗して勇者に抗議しましたが、直後奴隷の首輪が締まり苦しみだします。
私は必死に勇者に謝罪し、リタを許してもらいました。
こんな事が何回繰り返したのかは分かりません、あの方と会うまでは……。




