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92/122

92・咲 4

 アルメリア王国に着くと、私達は本来の目的である聖なる武器を得る為に、城の宝物庫へ向った。

 流石は城の最深部にある宝物庫だ。

 警備している騎士達は死角が出来ない様に配置されており、とても厳重な警備が敷かれていた。

 厳格な顔つきをした騎士達が守る扉を抜け、この国の宝が詰め込まれている立ち入り禁止区域内に入る。

 この先は王城に努めている者はおろか、王の付き添いが無ければ例え王族であっても入ることが出来ない場所なのだ。

 広い宝物庫に入り、武具が収められている区域に来ると、目の前には綺麗に整列された二十余個の聖なる武器が並んでいた。

 相変わらずの神々しさだ。

 二十余個の聖なる武器は様々な種類がある。剣、槍、弓、鞭なんてものまであった。


「咲には、鞭なんて似合うんじゃないのか」


 失礼にも大場君が私にそう言った。

 いや鞭が悪い訳じゃ無いよ、ただ私が持つと似合い過ぎるのだ。

 以前ネットで偶然見た昔の……それはもうボンテージ衣装にバタフライマスクを付ければ女王様と呼びたくなる程に……。

 私が大場君を睨むと「おお怖い怖い」と言って司馬君の背中に隠れてしまった。

 そう言うのは心の中で思うだけで、口には出さないでほしいんだけど。私だって傷つくんだよ、分かってる?

 さて、気を取り直して……うん、成程ね、武器を見ると一目で分かった。

 武器が薄っすらと輝いて見えるのだ。

 これが武器が主と認めても良いという事なのか、きっとそうなんだろう。

 無論、全部が光っている訳ではない。

 ちなみに鞭は光ってなかった。残念だったね大場君。まぁ、光っていても手に取るつもりはなかったけどね。

 万が一、鞭しか光ってなかったら仕方無いけど、幸い他の武器が何個か光っていた。

 私は光る武器の中から細身の剣を手に取った。

 うわぁ、私の手に吸い付くように馴染む剣。


「咲はレイピアか、俺はこれだ」


 司馬君が物語に出てくるような、如何にも聖剣といった長剣を……って聖剣か、その聖剣を高々と掲げた。

 司馬君らしいチョイスだ。


「いいんじゃない、似合ってるわよ司馬君」

「俺はどうだ、咲?」


 私が司馬君を褒めると大場君も武器を片手に私に見せつけてきた。

 彼の手には銀に輝く槍が握られていた。槍を選ぶとは効率やら有効性を重んじる彼らしい選択だ。


「いいと思うわよ、大場君も似合ってる」


 私がそう言うと照れたように笑う。とても嬉しそうだ。

 他の人にもこういう態度が取れれば、彼はもっと好かれるかもしれないのにね。でもまぁ、これが彼という人間なのだから仕方がない。


 私達が宝物庫から出ると、例の柏木君に冤罪をかけた張本人、エリザベート第三王女と鉢合わせした。

 彼女は柏木君への詫びとして宝物庫へ入る許可と聖なる武器を与える様に王に嘆願したのである。

 流石にそれは受け入れられなかった。

 しかし彼にそこまでしようとするとは、彼女に一体何があったのだろう? 

 柏木君はまだ見つかっておらず捜索中らしいが見つかり次第、式を上げると喚いていた……は? 式って?

 ……聞かなかった事にしよう。うん、私は何も聞かなかった。


 アルメリアで新たな力を手にした私達は、キングスに戻りながら時折モンスターを狩り、勇者専用の武器の使い心地を試していた。


「凄い、凄いです勇者様!」

「素晴らしいですな、勇者殿」

「流石は伝説の武器です、それを扱う事が出来るなんて勇者様はやはり特別なんですわ」


 など……パーティメンバーだけでなく、支援部隊の方々からも歓喜の声が上がっていた。

 いや、武器が凄いだけで、私達が凄い訳じゃ無いんだけど。


「これならきっと魔王軍の幹部にだって勝てる、十分に戦えるぞ!」

「それどころか魔王だって倒せるだろう、今の俺達ならな!」


 ……え? 何言ってんの貴方達。

 別に私達が強くなったんじゃなくて、武器が強いだけよね。自信を持つのは良い事だけど慢心は駄目だよ、司馬君、大場君……。


「まずはキングス王国軍が行う、アルティメイトモンスターの討伐に参加してみましょう」


 そう私が進言すると、大場君が肩に担いだ銀色の槍をポンポンと動かしながらニヤリと笑った。


「このまま俺達だけで討伐に行かないか? どうせあいつ等は足手まといになるからな」

「それは駄目だ良二。俺達はキングスの王と約束したから、それを反故にする事は出来ない」

「冗談さ……真面目な奴だな」


 え~本当かなぁ~、私達が賛成すれば喜び勇んで行きそうな感じだったけど?

 何はともあれ、キングスの王国軍とアルティメイトモンスターを倒しに行く事になっているんだから、大人しく同行するのがいいと思うけど。

 あの人達、別に手柄を横取りしようとかじゃ無くて、単純に勇者と共に戦えることを誇りに思っているようだしね。

 あっ、でもキングスの王子は勇者の事を良く思ってないようだったな。

 あれだけ大きな王国と言う名の組織だ、いろんな考えの人が居て当然か。


 私達はキングス王都に戻ると、討伐準備の為に忙しく働く王城の方々を横目に、邪魔にならないように訓練に勤しんだ。

 聖なる武器を手にする前に、キングス王国近衛隊長のガイと言う人物と手合わせをした事があるが、その時は私達三人は彼に勝つことが出来なかった。

 あれから私達は強くなったのでもう一度手合わせしたかったが、残念ながらその機会が訪れる前に、討伐の準備が完了してしまったのだ。

 いずれ機会もあるだろう、まずはアルティメットモンスターの討伐が先である。

 私達は山脈の麓で発見されたアルティメイトモンスターを討伐する為に、王自ら率いる王国軍約一万と共に出発したのだった。

 ちなみに一万と言ってもその二割程が輜重隊や工作隊、その他の人員で、実際に戦闘に参加する兵は八千程らしい。

 十分な補給も出来る国内なのでこの数で済んでいるが、万が一他国や魔王領に進行する時は約半数が非戦闘員になると言う。

 遠征とは思っているより大変なのである。

 ゲームや漫画の様に無限、もしくは大量に収納できる魔法や能力があればいいのだけど……え、あるの? でも使える者が過去に何人か居ただけで、相当高レベルの魔法スキルを持っている人しか使う事ができないんだって……残念、いつか私も使えるようになったらいいな、便利だし。


 <>


 私は、いえ私達は甘く見ていた、甘く見過ぎていた。

 何を? 魔王軍幹部十二将のアルティメイトモンスターをだ。

 そいつの名はアリアス、巨大な羊のモンスターだ。

 言い伝えによると、本来は万のモンスターを引き連れ、国を領をそして城を襲ってきたモンスター中のモンスターだ。

 ただ今回は単独で動いている様で、討伐のチャンスと王国側が判断したらしいのだ。

 私達に気付いて無いのか、それとも最初から相手にされて無かったのか、陣形を完璧に決めた王国軍の攻撃を、まるで鬱陶しい虫を払うような感じで軽くあしらわれたのだ。

 はっきり言うと、全く相手にもされなかった。一万弱の大軍がだ。


「クソォ!」


 司馬君が聖剣を手にアルティメイトモンスターに切りかかるが、敵が大きい為に足下にしか剣が届かない。

 その剣も魔力を帯びた硬い体毛に跳ね返され全くダメージを与えられなかった。

 ならば魔法は? さっきから魔法使いが攻撃魔法を撃ち続けているが、強力な魔法障壁で守られていて着弾さえしない。

 ……全く打つ手無しである。

 それでも王国軍はワラワラと巨大モンスターに襲い掛かるが、当のモンスターは意に介さず、虫を踏み潰すように兵を踏みつけて行く。

 奴が通った後には地獄絵図の様な光景が広がっていた。

 この世界で戦う事を決めていた時から覚悟はしていたが、いざその残酷な光景を見てしまうと目を背けたくなる。

 戦いにもなっていない状態で一方的にやられ続け、兵の約三分の一の死傷者を出したところで王が撤退命令を出した様だ。

 私はと言うとモンスターに蹴られ意識を半分失いかけていて、兵を蹴散らしながら真っ直ぐ王都に向かって行く、アルティメイトモンスターを眺める事しか出来なかった。

 敵は一体で、尚且つ倒した私達に止めを刺さないでいてくれたおかげで、死ぬことは無かった。

 いや止めを刺す必要も無かったのは明白だ。それ程、私達は相手にされていなかった。

 ただただ鬱陶しいだけの存在だったのだろう。

 そのうさ晴らしに兵を踏みつけ、王都に向かった敵である巨大なモンスター。

 古の様に城を破壊するつもりだろうか? あれ程のモンスターなら王都ぐらい壊滅させてもおかしくは無い。

 キングス王国軍は十二将のアルティメイトモンスターに手を出したばっかりに、自らの国を失う事になるのかもしれない……。

 薄れゆく意識の中で、私は漠然とそう思ったのだった。

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