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9.委員長

 目の前に魔法使いギルドが見えて来た、クラリッサが今日向かった場所だ。


「ん、あれ? ここってクラリッサ姉が行くって言ってた所?」


 クラリッサ姉って呼んでいるのか。リタは黒歴史君の所に居る本当の姉と、クラリッサを重ねて見ているのかもしれない。


「そう言えばそうだったな」

「はは~ん陸様、クラリッサ姉が気になってんだな?」


 ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込むリタ。

 当然だ! 気になるに決まっているだろ。俺と別れて別行動だぞ、一体何を企んでいやがるか分かったものではない。

 クラリッサは同じ魔法使いのいる魔法使いギルドに行ったんだ、今頃仲間と俺を足がつかぬ様に亡き者として、金を奪おうと画策しているやもしれないのだ。

 大方「隣町に来るのに何日かかってるのよ、さっさとあんなヘタレの金を頂いて新たなカモでも見つけましょう」……そんなところか?

 はっはっはっ、残念ながら金は殆んど無い……こともないが、かなり少ないぞ。リタ関係で散財して財布代わりの布袋が軽いこと軽いこと。

 いや、そういえばここは奴隷商のあるイースだ、俺の所持金が少ないなら最悪俺を奴隷に落とし、売りつける算段でもしているかもしれん。

 万一にも勇者を売る事が出来ればかなりの値がつくだろう。

 やり方は分からん。だがこの世界の人間では無い俺に、知らない合法的な方法があっても不思議ではない。

 そんな最悪の事態を考えるだけで落ち着かない。いてもたってもいられなくなる訳だ。

 俺の傍にいなくても、俺に心的ダメージを負わせるクラリッサは、全く恐ろしい女である。


「まぁ気になるのは本当だな」

「ふ~ん、あたしさ、陸様とクラリッサ姉はお似合いだと思うぜ」


 冗談は止めてほしいものだ、俺の精神がもたない。ここは誤魔化すに限る。


「ははっ、俺みたいに冴えない男にクラリッサは綺麗過ぎて似合わないよ」

「あ~、前にあたしが言ったこと気にしてたのかよ。アレは訂正するからさ、陸様はいい線いってるって、気にすんなよ~」


 ふん、バレバレのおだては要らないぞ、俺だって鏡を見たことはある。客観的に見て、俺と美少女のクラリッサが釣り合う筈がない。もし付き合う事があるとするならば、どう考えても何か別の理由があるだろう。

 ただ、その理由が分からない、もしかすると金だけじゃ無いのかもしれないな。そうなると勇者的な何かか? それなら俺以外の勇者でもいいんじゃないのか? 手玉に取り易そうに見えたか?……う~ん理由が読めん。

 考えても分からない以上、全てに対してより気を引き締めていかねばなるまい。


「そろそろ別の所に行くか、リタ」

「寄って行かなくていいのか、陸様?」

「ああ、気になっただけだからな」


 よく考えればクラリッサに見つかって下手に勘ぐられたら事だからな、今はいいだろう。

 と、思っていたら入り口からクラリッサが出て来て、俺と顔を見合わせた。


「り、陸さん?」

「やぁ、クラリッサ。もう用事は終わったのか?」

「ええ、ひょっとして陸様、私を迎えに来てくださったのですか?」

「い、いや、たまたまリタと散歩中にここを通っただけだよ」

「そうですかリタと……はっ! リタ、その服はどうしたのですか?」

「え~と、陸様に買ってもらった」


 そう言ってリタは俺の腕に抱き付く。おいおい何をしてるんだか……ん?

 クラリッサが頬を膨らませ不機嫌に俺を睨みつける。


「狡いです! 私も陸さんからプレゼントしてほしいです!」

「い、いやリタはあまり服持ってないだろ?」

「不公平はいけないと思います!」


 拗ねた顔をしながら上目遣いで俺を見上げるクラリッサ。中々破壊力のある可愛さで俺の顔に近付く。

 くっ、こいつ自分の可愛さを武器にしてやがる、いいだろうその誘いに乗ってやろうじゃないか。

 ……結局リタの服を買った店に戻り、リタより高い服を買わされた俺。俺はクラリッサに屈した訳じゃ無い、そう投資なのだ、まだ見ぬ先にある投資……そうだろう?


 クラリッサの服は白を基調とした色に桜色の装飾、リタの服とデザインが似ている為、一見するとお揃いにも見える。

 見るだけなら美少女二人が微笑んで衣服を舞わせる姿は、中々良いものだった……俺が金を出したのでなければな。


 <>


 冒険者用の装備に着替えた二人を連れ町の外に出る、勿論モンスターを狩る為だ。出費が大きかったので少しでも稼がなければ。

 クラリッサ達と会話を交わしながら、目的にしている狩場まで移動を開始した。


「ギルドでお会いしてた方は城で勇者様の従者になっていた方なのですが、最近解雇されたらしくて……」

「まさか、この町に来た時に会った女の勇者の解雇した奴ってそいつの事か?」

「多分そうみたいです。困った方みたいですね、お互いに」

「ん? お互いとはどういう事だ」

「解雇された方達、どうも勇者様から報酬を取っていたらしいです。しかも自分達は格安で引き受けるからお得だとか言って。でも、それではパーティメンバーでは無くて護衛料になりますよね、王からお金は十分頂いている筈なのに」


 ……ちょっと待て十分なお金だと? 

 以前に王から前もって貰っていたとは聞いていたが、そんなに多い金額なのか? どういう訳か今まで俺がお金を出してばかりなんだが……クラリッサの懐は少しも痛くは無かったという事なのか。

 だが、俺に報酬を要求してこなかった分、クラリッサはまだマシだった訳だ。そのお陰でクラリッサは少なくとも俺には信用してもらえたと思っているだろうが、そうは問屋が卸さないのだ。

 そう……俺は騙されたりはしないのだ。


「……そうか、じゃあそいつは以前クラリッサが言っていた要注意の冒険者だったって事だな」

「はい、当の勇者様はそれを知っていたのかは知りませんが」


 冒険者はそう簡単に信用するなって事だな、全く油断も隙も無い。俺を見てニッコリとほほ笑むクラリッサを見て、改めて俺はそう思う。

 この少女は一体何を目的に俺と共にパーティを組むのだ? フンいずれ尻尾を掴んでやる。


「なぁアレ、前に陸様と話してた女じゃないのか?」


 リタが前方を指差し、そう俺達に告げた。

 見れば委員長が男の獣人二人に押し倒されていた。真昼間からお盛んな事だ、せめて人目の無い所でやれ。


「何か様子がおかしいですよ、陸さん」


 よく見ると必死で抵抗して嫌がる委員長、確かに変だ。あの獣人達奴隷だろ? それともそういうプレイでもしているのか?


「行くぞ」


 ええい、嫌な予感がする。俺は二人を連れ委員長の下へ駆け出した。

 近づくと違和感が、ああイケメン獣人達の首に首輪が無い。


「貴方達何をしているのですか!」


 男獣人達は邪魔に入ったクラリッサに剣を向ける、いくらレベルが高いクラリッサでも魔法使いだ、まともに剣を受けさせるわけにはいかない。

 俺が間に割り込んで攻撃を止めた。


「す、すみません陸さん、ありがとうございます」

「ああ、気にするな、それより」

「はい」


 クラリッサは呪文を唱え始めると、分が悪いと踏んだか男獣人達は背を向けて逃げ出した。それを追おうとするリタ。


「待てリタ、追わなくていい」


 リタが追っても返り討ちにあうのは目に見えているだろう、無茶をするなよ。

 半ば呆然としていた傷だらけの委員長に回復魔法をかけてやる。


「おい、大丈夫か」

「な、何で?」

「はっ?」

「何で、せっかく奴隷から解放させてあげたのに、何でよ……」


 ああ、あの獣人の奴隷達を解放しちゃったか、そりゃそうなるよな。


「クラリッサ肩を貸してやってくれ、男の俺がやるとセクハラになるからな」

「セクハラですか? よく分かりませんが了解しました」


 委員長をイースの町まで送り届ける。その日はクラリッサ達と一緒に宿に泊まらせた。

 翌日ようやく話が通じる程に落ち着いた委員長と、朝食を共にしながら話をした。

 困った事に有り金全部取られたらしい、やれやれ。


「貸しだ、いつか返せよ」


 そう言って金貨を握らせてやると、驚いた顔で委員長が俺を見つめた。

 委員長は金貨をつき返そうとしたが、今の自分の状況を思い出したらしく、「借りておくわ」と素直に答えた。

 彼女はこれから、このイースの町を拠点にするつもりなのかは分からない。やり直すつもりで王都であるアルメリアに戻るなら、日中に森を通らずに大回りの街道を通れば、比較的安全に行ける筈だし、どちらでもいいだろう。

 委員長は大げさに俺に礼をすると宿から去って行った。

 また懲りずに奴隷を買うつもりじゃ無い事を祈る。まぁ金貨一枚じゃ奴隷は買えんと思うがな、リタは例外として。


 まだ朝食をモグモグと食べているリタを見て俺は思いにふける。

 アレは……委員長は下手をした未来の俺だ。

 ……リタに刺される事が無いように、打てる手は打っておかないといけない。


「陸さんは優しいんですね」


 リタへの対抗策を考える俺に、柔らかな笑顔でクラリッサが話しかけてきた。

 ふふふクラリッサ、俺はお前達冒険者にも油断はしないぞ。

 あの金貨は俺に改めて気を引き締めよと教えてくれた、委員長に対する感謝の気持ちだ。それにやる訳では無い。必ず返してもらうし借りを……恩を売るのは俺にとって悪い事では無い筈だ。

 しかし本格的に資金が危なくなってきた。入って来る金額に対して出て行く金の方が多いのだ。これからは金になるモンスターを中心に狩ろうと思う。


 食べ終わったリタを見ながら俺は立ち上がる。さぁ、新たな気持ちで冒険に旅立つとしようか。

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