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87・決闘

 ようやく始まる戦いに観客? 達も盛り上がってきた様だ。

 こんな事で大騒ぎなんて、俺が思った通りに娯楽が少ないのだろうか?

 いや、曲がりなりにも国のトップクラスの武人の戦闘が見れるのだ、興味があって当然か。

 聞き耳を立てるとどちらが勝つでは無く、俺が何秒持つかが賭けの対象になっている様だった。さっきから五秒、十秒との声がやたらと多い、たまに一秒なんて声も聞こえる。

 好き勝手言いやがって、負けるとしても十秒以上は粘ってお前等に損をさせてやるからな。


「じゃあいいわね、始め!」


 リーナが決闘の開始を宣言すると、何処からか大きな音のドラが鳴る。用意がいいな。


 サジタウルはいきなり先制する事はなく、力を抜いたゆったりとした様子で片手で剣を構え俺を凝視していた。

 ……ヤバいな、その風体を見ただけで分かる。やっぱり強いや、こいつ。


「あっさり終わらないでくれよ、ランド君とやら」


 そう言い白い歯を見せて笑いかけるやいなや、一瞬で間合いを詰め上段から高速で剣を振り下ろしてきた。

 早ぇえよ! 俺は手にしていた黒い大剣を盾に、稲妻の様なサジタウルの剣を受け流す。


「うむ、いい反応だな」


 サジタウルは嬉しそうにそう呟くと、振り下ろした剣を下から振り上げる。攻撃の為ではなく単に俺を後ろに下がらせる為の行為だろう。

 かと言っても死角から剣が振り上がってきたので、気が付かなければ下半身から真っ二つにはなるがな。

 サジタウルは完全に様子を見ている、いや遊んでいるのかな。

 だって俺に攻撃を仕掛けたのは片手に握った剣だけで、もう片手は剣に添えたりする訳でもなく、盾や他の武器等も持たずに完全にフリーの状態だったからである。

 お前が相手なら片手で十分だ……って事かな。


「総指揮官目当てに観客が沢山来ているのに、直ぐに終わったら申し訳ないからな」

「はははっ、いい心がけだ」


 俺の自虐ネタに乗っかって来るサジタウル。さぁ、どうしたものか。


「じゃあ、ウォーミングアップを兼ねて、少しペースを上げるとするか」

「……お手柔らかに頼む」


 ははは、本気どころか準備運動前の様子見って事だったか。こりゃあ、まいったね。

 一瞬サジタウルの身体が揺れると、一瞬の間に俺に近付き今度は横薙ぎに剣を振り抜いた。先程より数段早い。

 奴の剣は俺の持つ大剣に弾かれ、残念ながら俺の胴は上下が分かれずに済んだ。ふぅ、やれやれ。

 返す剣でしつこく攻撃を何度も加えるサジタウル、更に剣の速度と重さが増していく。


「ほう……」


 剣舞の様な美しい動きに見合わない重い剣の攻撃を、たっぷり数分間叩き込まれた後、奴は満足そうに口の端を釣り上げ呟いた。


「予想以上だ、俺がまだ一度も攻撃を当てられないなんて久しぶりだ」

「そうかい、喜んでもらえて光栄だよ」


 俺の嫌味に更に口の端を上げ、嬉しそうな顔になるサジタウル。何がそんなに嬉しいんだ。この戦闘狂め。


「では、そろそろ本気で行くが、いいな?」

「あ~。嫌だと言っても本気を出すんだろ?」

「勿論だとも」


 予想外の俺の奮闘に観客は大いに盛り上がっていた。

 途中視界にセーラやリーナの姿が見えたが、二人共余裕たっぷりに俺達の決闘を観戦していた。双方共お互いの支持する者が勝つと信じ切っている顔だ。

 ちなみにクラリッサとリタは顔が引きつっていた。そりゃそうか。


「そろそろ、その余裕を無くしてあげよう」


 サジタウルが間合いを取り、少し下がる。

 余裕? ああ、よそ見しているのがバレていたか。

 サジタウルは剣を地面に突き刺し、後ろに背負っていた大弓を取り出した。こいつやっぱり弓使いだったか。いや知っていたけどね、ずっと弓を背負っていたし。


「遠距離攻撃は卑怯なんて下らない事は言わないよな?」

「それじゃ、魔法も駄目になるから言わないさ」


 そう俺が答えるや否や、目にも止まらない高速の矢が飛んで来る。

 おいおい、一度しか引いて無いのに数十発の矢が飛んで来るなんてどういう事だよ!

 魔法で強化された魔道具、つまり魔道弓と魔法の矢だよな、うん知ってた。

 避けれる矢は避け、避けるのが難しい矢は大剣を横にして盾の様に矢を防いだ。


「おいおい、またノーダメージかい? やるねぇランド君」

「手加減してくれてるお陰でね」

「バレてたかい? いや失言だった、君ならそのくらい分かるか」

「過剰評価されても困るよ」

「はははっ、言ってろ」


 サジタウルは再度弓を引くが、さっきより引きが大きい。確実にさっきより強力な矢が飛んで来るのは間違いない。

 放たれた矢は先程より、倍の数で尚且つ速度もさっきよりも早い。

 これは完全に避け切れないな、とは言え当たりそうな矢は角度をつけ鎧で弾く事で直撃は間逃れそうだ。


ガキィ――――ン!


 高速の矢に隠れながらサジタウルが剣を振りかかり、襲い掛かってきた。クソッ、矢は囮か。

 矢を避ける事に気を取られていた為、直ちにサジタウルの剣を受け流す行動に移行した俺は、奴の放った矢を数発食らってしまった。

 一応防御結界も張っていたんだが、最初の数発で破壊されてしまっていた。

 魔力の乗った強力な矢だったが、レオナールから貰ったこの黒い鎧は殆んどの威力と効果を軽減し、俺の肩や腕に刺さっているのは今や只の矢と化していた。普通の矢になっても痛いものは痛い、兜で俺の表情が見られなくてよかったよ。


「驚いたな、今のを避けたのは数えるほどしかいないのだがな」

「よく見ろ、避けられて無いじゃないか、痛ぇ……」


 矢を抜きながら『治癒』の魔法を唱える。血を流す事なく傷を癒す、どうやら毒等も無い様だ。


「回復の魔法か、ちまちま体力を削っても効果が薄いな、では……」


 サジタウルは再度距離を取ると、改めて弓を引き直し攻撃に移ろうとする。


「【雷矢】【分裂】」


 俺は隙をついてサジタウルの攻撃を少しでも逸らそうと魔法を放った。

 初期に憶える下位ランクの魔法だが、呪文が短く使い勝手はいい。

 普通なら威力はお察しの通りの大した事は無いのだが、高レベルの者が唱えればその分だけ威力や効果は高くなる。

 俺の放った【雷矢】は本来は単発の魔法だ。だが【分裂】の魔法を重ねる事により威力は多少落ちるが、雷の矢を増やすことができる。

 都合、数十本の雷の矢がサジタウルに襲い掛かった。

 しかし高レベルで高い魔法防御を持っているサジタウルには、雷の矢は接触する前に、無効化されてしまっていた。


「チッ、やっぱり効かないか」

「俺の真似のような魔法だが、残念だがその程度では俺に傷一つつける事は出来んよ」


 そう言いつつニヤリと笑い、矢を放つサジタウル。

 弓を引いたのは一回では無い、正面は元より左右と上方にも次々と矢を放つ。

 しかも今回も一発放てば途中で数十発に分かれて、俺を串刺しにしようと襲い掛かって来る。

 正面から襲った矢の後、更に時間差で左右や上に放った矢が弧を描き、ほぼ同時に俺に降りかかってきた。 クソッ逃げ場が無ぇ!

 流石に避け切れず数発矢を受けた、例の如く張り直した防御結界は最初の数発で破壊されている。

 畜生、このままじゃじり貧だ。

 反撃を企てようとして矢を放った先に居るサジタウルに視線を向けるが姿が見当たらない。

 また剣で攻撃を仕掛けてくるかと思い、身を固めるがそうでは無かった。奴は高速で移動をし、死角から次々と先程の様な矢の雨を絶え間なく降り注いできた。

 狡ぃな、矢が無限に有るんじゃないのか、アレ。

 正直、余所見をしてる暇はない。

 観客の騒ぎに紛れて「陸さん!」と俺の本名を叫んでしまってるクラリッサ達の悲鳴が耳をつく。俺がやられれば次はクラリッサ達も目を付けられるかもしれないしな。

 まぁクラリッサ達の為じゃ無く、俺自身の為にやられるわけにはいかない。こんな下らない事で命を落とすなんて、御免被る。

 必至に矢を叩き落としたり回避を試みるが、何せ数が多い。

 致命的な急所への攻撃は防いだが、それでも数十発の矢を受け外から見ればハリネズミの様な姿になっているんだろう。回復の魔法を唱える暇も与えてはもらえなかった。

 矢の嵐が止むとサジタウルが高々と片手の腕を上げ観客の声援に応えていた。

 勝利を確信した様子でゆっくりと俺に近付いて来る。

 俺はと言うと大剣を杖代わりに身体を預け、膝をついていた。


「あっけなかったな、もう少し手応えがあるかと思ったんだが」


 俺が生きているのは分かっている様だが、戦意を失っているように見えたか……。

 このまま生かして返してくれるならそれでもいいか。

 刺さった矢は痛いが魔法で完治できるしな。ただセーラに後で何と言われるか……そっちの方が怖い。

 どうしようと迷っているとリーナがサジタウルに駆け寄り、奴に抱き付いた。

 うむ、そう言う関係なのか? まぁ俺には関係ないが。


「流石サジタウルね、それに比べてこいつはだらしないのね、もういいわ殺しちゃいましょう」

「いいのですか、この者を下僕にするのでは?」

「いいのよ。こんな弱い奴程度なら替えは沢山いるし、セーラの悔しがる顔が見れるもの、あはははっ」


 前言撤回、やっぱり戦闘続行に決定した。ふざけんな魔王の娘!

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