7・仲間?
可愛くなったリタを一応褒めておく事にする。
理由は勿論、友好的な態度を示し彼女等の俺に対する不信感を和らげる為だ。
「ああ、よく似合っていて可愛いよ、クラリッサが選んでくれたのか?」
「はい、陸さんのお好みに合って良かったです」
「あ……あたしが、か、可愛い……?」
フフンと、どや顔のクラリッサと、褒められる事になれていないのか赤くなるリタ。よし好感触だ、二人共満更では無い様子である。
……だが金額もそれなりだった。まぁ、装備をケチって俺が直せない程の怪我でもしたら、どうもこうも無いからな。先行投資として考えることにしよう。
ギルド依頼であるモンスター討伐の成功報酬や、モンスター素材の買取金があって良かった。
リタはあの黒歴史君が連れていた奴隷の中ではチビの方だったが、身体は他の娘程には瘦せ細ってはおらず、年相応の体格をしていた。
腰に短剣を差し、背には弓を担いでいる。
「あたし剣より弓の方が得意なんだ。あいつは剣しか握らせてくれなかったけど」
あの錆びた刃物は剣とは言わないぞ、リタ。
しかし不得意な得物を持たせて戦わせるなんて、効率の悪い戦い方をしてたみたいだな、あの黒歴史君は。
リタが前衛ではないのが残念だが仕方ない。
いやそもそも、あの小柄な身体で前に出られても怪我が心配だしな。当たり前のことだが戦力の低下は極力無い方がいい。
「リタとパーティを組むにはどうすれば良いんだ?」
「陸さん、リタの奴隷契約書をお持ちですね、それが冒険者カードの代わりをしますので、後は私としたようにすればパーティが組めるはずですよ」
クラリッサの言った通りにやってみる、確かカードを重ねて……おっ、ちゃんとパーティ登録されたようだ。
分かってた事だがやはり奴隷のリタは持ち物扱いらしい。全くここは碌な世界じゃないな。
「おい、陸……様、言っとくけど、あいつみたいにあたしに手を出そうとするなよ、あたしは玩具じゃないんだからな!」
「分かってる、少なくとも後五年はそんな気にならないから安心しろ」
「何? 前のあいつは男の殆んどは幼女が好きだって言ってたぞ、陸……様は違うのか?」
アホかーーっ!
あの黒歴史君なんて事を言いふらしていやがる。
確かに俺も多少はロリコンの気があるのは認めるが、恥ずかしくて口には出せんぞ!
それに流石にリアル幼女は無いわ~うん無い。
……いや、まぁ個人の性癖は自由なので否定は良くないか。だが元の世界なら犯罪者だがな。
こちらとしてはクラリッサの目があるので、ここは明確に否定しておくことにしよう。変態扱いされれば今後の駆け引きにも影響するからな。
「リタ、それは違うぞ。前の主人のあいつは自分の性癖が普通だと思い込んでる只の変態だ。普通の男はクラリッサ位の女性じゃないと相手をしないからな」
「り、陸さん? 私……なんかでよろしいのですか……嬉しいです……」
いや、俺は付き合うならクラリッサ位の年頃の女性がいいと言ったつもりなんだが。
クラリッサは赤らめた顔を両手で覆い座り込んでしまった。気のせいか頭から湯気が出ている気が……。
それにしても流石はクラリッサ。その可愛く照れる仕草は、何も知らなければ一発で男を落とすことが出来る位に強力だ。そう何も知らなければな。
最近は趣向を変えて色仕掛けで俺を揺さぶりにきている様だ。無論その手には乗らんがな。
「そ、それはそうとリタ、陸さんの事はきちんとつっかえずに陸様と呼びなさい!」
「は~い」
「返事は短く! 良いですねリタ」
「は、はいっ」
いつの間にかクラリッサの顔色が一変していた……こ、怖い、リタも直立不動で冷や汗を流している。
黒歴史君の命令には反抗していたようだが、何故か主人契約を結んでないクラリッサの言う事を聞く奇妙な状況になっている。
まぁ、俺は呼ばれ方なんて余程変じゃ無ければどうでもいいのだがな。
さて、今回からは俺よりレベルの低いリタがパーティに居る訳だが、流石に危険度の高い森の奥に行くのははばかれる。
黒歴史君はそんなレベルの低いリタ達獣人の少女達を連れて、森の向こうの隣町まで行ってた様だが大丈夫だったのか? 実際リタを含めあの獣人の少女達は傷だらけであったし、同じ勇者の黒歴史君は回復魔法を小まめにかけている様子も無かった。
少女と言えど獣人族は人族より丈夫らしいが、無理をさせるのはどうも気が進まない。
経緯はどうあれせっかく手に入れた戦力だ、無駄に散らすのは愚の骨頂であると俺は思う。第一それにそんなことになれば、勇者の癖にパーティメンバーも守れない無能と言われるのは目に見えているからな、俺はそんな愚か者にはなるつもりは無い。
「リタも武器に慣れないといけないし、今日の所はギルド依頼の薬草採取兼小型のモンスター討伐でもするか?」
「え~陸様、つまんねぇ~よぉ、もっとガンガンいこうぜ」
「こらリタ、陸さんはリタの事を思ってそう言って下さるのよ、そんな言い方は失礼でしょ!」
ふむ、どうしたものか、リタは森の方へ行ってみたそうである。
「クラリッサはどう思う? 森の方まで行っても大丈夫だと思うか?」
「……そうですね、そこまで過保護になる必要は無いと思います。実際に他の勇者様達は気にせず隣町まで行き来しているようですし」
そうか、どうやら慎重になり過ぎていたようだ。
だが別に過保護にしている訳では無い、ただ単に戦闘に慣れる期間は必要と思っただけだ。急ぐ旅でもないし、リスクは低い方がいいに決まっているからな。
「分かった、じゃあ今日は森を抜けて、隣町まで行ってみることにするか」
「はいっ」
「そうでなくちゃ!」
ふっ、隣の町に行くのに何をそんなに喜んでいるのやら。俺は初めてだが君らは何度も行った事があるだろうに。
……はっ!
よもや俺を森の中で襲うつもりなのではないだろうか? い、いや森の道といえど人通りは少なくはないし、リタは奴隷で俺に手出しできない筈……。
二人の顔を見ると楽しそうに他愛の無い話をしていた。
いかん疑い出すとあの無邪気に見える顔の裏に、邪悪なものが潜んでいる気がしてきた……そうだ俺は気を緩め過ぎていた、何があっても対応できる様に油断しないで気を引き締めて行こう。
実際に森を抜けた事が無かったので、どれ程の道のりかと多少の不安もあったが、よくよく考えてみれば隣町へ移動するだけである。
確かに小さな子供だけでは危ないかもしれないが、低レベルとは言え冒険者が恐れる程では無い行程だった。後で知ったのだが安全に隣町に行きたいのなら、かなり遠回りにはなるが、森を迂回しての街道もあるそうだ。
隣町に続く森の道は、大したことは無いと言ってもモンスターは出る、確かに城から出た所に居るモンスターよりはかなり強いが恐れるほどではない。
リタも最初は多少もたついていたが、僅か数回戦闘をこなすだけでコツを掴んだ様で、今ではそれなりにパーティに貢献している。
「慣れたもんだな、リタ」
「へへ、前のあいつの所でも、あたしが一番モンスターを倒してたんだぜ! 武器は剣だったけど」
だからあの錆びた刃物は剣とは呼ばないぞ。
しかしそうか、リタはある程度の戦闘経験をしてきたんだったな。
それにしてもレベルに比べて動きがいいな、元々センスがあるのか、もしくは獣人という種族がそういうものなのだろうか?
モンスターに止めを刺すリタを見て、つい思いにふけてしまった。
……経緯は知らないがリタ達は人に捕まり奴隷として売られていたのだ。当然人を恨んでいるのは間違いない。しかも俺は前の主人と同じ勇者ときたものだ、少なくとも好かれる要素が全く無い。
嬉しそうな顔で倒したモンスターから矢を引き抜くリタ、その横たわるモンスターが一瞬自分に見えた……。
そうだ、いつから俺は奴隷は裏切らないと思い込んでいた?
考えてみれば、実際にリタの所有権は前の主人の黒歴史君から、俺に移っているではないか。これから先、リタが他の誰かの奴隷にならないとは限らないのだ。
万一何らかの原因でリタの主人が別の誰かに移り、その主人が俺を害しようとする奴だったらどうだろう? リタにしてみれば俺は奴隷に落とした人間と同族であり、酷い目に遭わされた勇者と同じ職である。成程、俺は都合のいい復讐相手になるよな。
考えすぎ? フンッこんな世界だぞ、用心に用心を重ねても足りないくらいだ。
俺にガッツポーズを取るリタを見て、一瞬背筋が凍る思いがした。
い、いかん、ここで怖がる様子を見せればチョロい奴だと俺を見下すだろう。油断させるには良いが、奴隷契約が効いている現状ではあまりいい手とは思えない、ここは平然とする方がいいだろう。
「よくやったな、リタ」
「えへへっ」
頭を撫でてやると破顔させて喜んでいた。
黒歴史君の前でもこんな顔をしていれば、痛めつけられる事も無かったかもしれないが……いや、あいつなんか歪んだ性格してそうだしそれは無いか。
「あ~ズルいです陸さん、私も褒めて下さい」
何ですと? 何を言い出すかねクラリッサさん。
もの欲しそうに頭を突き出すクラリッサ、あ、あざとい……。
仕方なく反対の手でクラリッサの頭も撫でる。俺の目の前で少女二人が頭を撫でられウフフ、エへへしている構図。何だこれ?
俺が当事者では無く、もしこんな砂を吐く光景を見たなら「リア充爆発しろ!」と泣きながら駆け出す自信がある。
だが俺は少女達のそんな見え見えの手には乗らない、そう俺は騙されないのだ。
全く二人共俺を油断させる為にご苦労な事だ。