60・子爵
海側に居るという十二将に会いに……と言うか戦いに行かねばならないのだが、その道中の途中にステアの町があるわけで、別段この町に用事があるわけではない。
ちなみに海側と言ってもサウス男爵の居た海峡がある方ではない。大陸の反対側にも海があるらしい。
まぁ、本当は行きたくないので寄り道は大賛成だがな。
『お前達何をしている?』
「あら、レオナールじゃない」
町の入り口でセーラの迷宮で俺を訓練していた、あの金獅子とばったりと出会った。
金獅子ことレオナールはこの姿の俺達を知っている。
何故なら今、俺が身に着けているこの黒の鎧なんだが、以前セーラから貰った黒の鎧ではなく、この金色のライオンから貰った別物の黒い鎧なのだ。
非常によく似ていてるデザインの鎧だが、前のは黒一色だったのに対して、レオナールから貰った鎧は金色のラインが入っていた。デザイン自体は気に入っていた上に更にカッコよくなって、俺としては嬉しい限りだ。しかも見た目がほぼ同じなのに防御力は段違いに高い。
それともう一つ大きな違いがある。
この鎧、実はもう一つの形態があって白の鎧に色も形も変化するのだ。白い方の鎧の方も中々カッコが良い。
黒の鎧の状態では聖属性に耐性が、逆に白の鎧時には暗黒属性に耐性が僅かながら高くなるとか。
ちなみに言うと、俺にセーラの迷宮で殺されるかと思うくらいの修行をつけていた金色のライオンが、十二将金獅子のレオナールだと知ったのはつい最近だ。今考えると訓練する相手としては、在り得ないチョイスだよな。訓練で死んでいてもおかしくないだろ?
俺達がアリアス達と模擬戦をしていた時にふらっと現れて、苦戦していた俺にこの鎧をくれたのだ。性能が良くて非常に助かった。それでも凄い苦戦が只の苦戦に変わった程度だが。まぁ十二将が相手で体感で変わるくらいなら凄い性能の鎧だって事だけどな。
『む、小僧随分成長したようだな、そちらの嬢達も、だが何で変装しておるのだ? ここは儂の配下が治める領地、比較的安全な中立の町だぞ?』
「いや、勇者だとバツが悪いかと思ってさ」
『気にする必要は無いと思うがな、既に何組かの勇者の一行がここに居るからな』
マジか?
……とは言っても俺は他の勇者とは、仲の良い奴はあまりいないからな。この姿の方が関わり合いが無くて都合が良いと思うのだ。
『それよりセーラ、セナラナの塔の次の解放はまだ先だぞ』
「ああ、そうだったわね。サクッと蟹と蠍と魚を倒したら行くとするわ。その頃には解放しているでしょ」
『そうか、あいつ等と戦うつもりか……程々にな、それとは別に相談したい事がある、少しいいか?』
「え~」
金獅子レオナールに引きずられて、セーラは町の中央の屋敷に連れられて行った。
この町を好き勝手に回っていろと言われ自由行動となった俺達。
リタは予想通りはしゃぎ回り、クラリッサは故郷と同じ中立地帯の町という事で興味津々だ。
はぁ、宿でゆっくりしようと思っていたが、両手をしっかりと拘束されて逃げ出せない。仕方がない、気が乗らないが付き合うとするか。
……どうでもいいがセナラナの塔ってなんだろう?
この姿なら誰にも絡まれないと思っていたら、すっかり忘れていた。あいつ等の存在を。
「お、お前等!」
勇者海とイケメンズの皆様である。
見るとイケメン五人だけでリリィは居ない様だ。
「誰だ?お前等知り合いなのか?」
そして何故だかいる勇者空、こいつも連れのアニーがおらず見事にボッチだった。
「知合いなものか! あの時の屈辱を今晴らしてくれる!」
「お、喧嘩か俺も混ぜろよ。こいつ等魔族を殺せばいいんだな」
海のパーティと空が協力して俺達を取り囲む。あっという間に人だかりができて俺達は注目の的だ。
「町中で争うつもりは無い」
俺がそう言うが聞く耳を持つ奴等では無い。
六対三で不利なように見えるが、レベル差があり過ぎて俺一人でも何とかなりそうだ。
だが慢心はしない、俺は大人しくクラリッサとリタの力を借りる事にする。
この二人も今更後に引けない事態が分かっている様だ。既に俺とは一蓮托生だな。
それにいざとなれば転移魔法で逃げるので問題無い。
そうこうしてる間に抜刀した海達と空が剣を振り上げる。
「お待ちなさい! 貴方達何をしているのですか! 私の領地での騒ぎは、このステア子爵が許しません!」
カールした紺色の髪の目付きのきつい、自らをステア子爵と名乗った美女が数十人の騎士を従え俺達を包囲した。
「僕は勇者海だ、僕が誰だか分かっていて止めるのですか!」
「おもしれえ、こうなったらそこの魔族の姉ちゃん達もかかって来い! 相手になるぜ!」
全く馬鹿ばかりである。
「すまんが絡まれただけだ、行っていいか?」
「馬鹿言うな、貴様達も同罪だ大人しくお縄になれ!」
俺が無罪だという事、及びこの場から去りたいという要望は通らず、どうやら許してもらえそうにない様だ。
「り……じゃ無くてランドさん、どうしましょう」
クラリッサはこの姿の名をちゃんと覚えていた様だ。中二病っぽいのでできればやめてほしいが仕方がない。
「どうもしない、ただ俺達に危害を加えるなら反撃はやむなしだ。な? クーラ、リタリタ」
俺も今の姿の名で二人を呼ぶ。正直慣れんし妙な感じだ。
演技をしてるというより学芸会を披露している気分だ、全くもって恥ずかしい。
それにしてもこのステア子爵と子爵の後ろに控えている騎士達、かなりの高レベルだ。鑑定で野次馬達のレベルも確認するが、そちらはそうでも無い。
ステア子爵の一団がだけが強いだけで、この町の者全員が強いのではなくてホッと胸を撫で下ろす。
魔族領全体として見れば、まだ比較的人間に近い町が高レベル揃いの民ばかりだったら、この先は困難しかない罰ゲームの旅になる所だったからな。
ステア子爵が手を掲げ騎士達に俺達を拘束する為の合図を送る。
案の定、勇者海とイケメンズ及び勇者空は健闘はしたが騎士達に拘束された。
このレベル差では海や空では勝てない事は分かっていた。
海、空、何やってんだよ、お前等もう少し真面目にレベリングしろよ……。
騎士達は俺達を捕まえようとするが、勿論大人しく捕まるつもりは無い。
やれやれ、今度は逆に騎士達が俺達を拘束するにはレベルが足りてない。
あっという間に俺達三人を拘束しようとした騎士は、皆蹲って動けなくなった。
「ふんやるわね、どこの配下の者かは知らないけど、この町じゃデカい顔させないよ」
ふむ、いずれかの十二将の配下だと思われている様だな。
セーラの名を出していいものだろうか? やめておこう余計に話がややこしくなるような気がする。
余程自分の力に自信があるのか、子爵自ら俺の前に立ち塞がってきた。
だが鞭を振り回して何度も攻撃を仕掛けてくるが、俺に当たりはしない。
「領主自らのお相手痛み入るが、そろそろやめないか?」
「黙れ、領主自らだからこそ余計に手を引く事は出来んのだ!」
そんなものか、仕方がない。
俺はしなる鞭の攻撃を全て避けながらステア子爵に近付いて行く。
「ば、馬鹿な何故あたらん……グッ」
巨大であってもアリアス達の攻撃の方が遥かに早い。
俺にはステア子爵の攻撃は止まっているとまでは言わないが、スロー再生の様な感じで見えている。
そして一気に背後に回り込み一撃、彼女の意識を刈り取った。
主が敗れてどうしたものかと迷った様子の騎士達に子爵を預け、勇者共々去れと命じる。
騎士達はそれに従い一目散にこの場から去った。
すっかり主であるステア子爵がやられ逆上してくるかと思ったが、意外と冷静な騎士達だ。
あの騎士達も子爵の暴走に手を焼いていたのでないだろうか。去り際に隊長らしき騎士が、俺に対し軽く手を上げ会釈していたからな。
ステア子爵と違い、俺達に敵対する気は無いと分かっていてくれたようである。
それにステア子爵の言った通り俺達が他の十二将の配下だった場合、面倒な事になりそうなのは普通なら分かるものだしな。
……海達と空? ああ、あいつ等連れていかれたぞ。
あの馬鹿達は暫く牢屋にぶち込まれていればいいんだ。どうせアニーとリリィが助けてくれるだろうしな。




