表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/122

56・戦闘

「クラリッサ、あの大羊に遅延、暗闇、麻痺、等の弱体魔法を可能な限り放て、レジストされても構わない!」

「は、はい」


 既にクラリッサは自らの魔法力アップの魔法を唱え終えている。魔法使いなら戦闘前には当然使用する魔法だ。

 どれか効いてくれればいいのだが。いかんせん今のままでは勝率は低い。


 俺はクラリッサとは反対に味方に強化魔法だ、攻撃力や防御力及び素早さ等を上げる魔法を全員にかける。

 アリアスは余裕をかましてその巨体をゆっくりと反転させていた。その隙に俺達は可能な限りの強化魔法と弱体魔法を唱え続けた。


「おっ」

「やりました!」


 何とクラリッサの放った弱体魔法の内、数個が大羊にかかっていた。クラリッサのレベルを考えれば快挙である。

 アリアスは一介の冒険者が唱える弱体魔法など効きはしないと、高を括っていたのだろう。

 受けた弱体魔法を不快に感じていたようで、大きく雄叫びを上げた後、頭を下げ角を突き出しながら体当たりを仕掛けて来た。


ガキンッ


 巨大な角を剣で受け流す。流石にあの体躯を受け止めるなんて事は出来ないしな。

 攻撃を受け流され、急停止しようとしたアリアスが足を踏ん張ると、その下の地面が陥没した。

 クラリッサの魔法で落とし穴を空けていたのだ。

 アリアスは見事に頭から大穴に落ちた。余程俺達の事を舐めていたんだろうな。

 穴に落ちたアリアスにリタが矢を打ち込む。

 セーラから貸し与えられた魔法弓はアルティメイトモンスターのアリアスが相手であっても、いかんなくその力を発揮し確実にダメージを与えていた。

 俺が思ってた以上に効いていたようで「ブモーッ」と変な鳴き声を上げ、怒りに満ちた顔で穴から飛び出て来た。

 這い出るのではなく、飛び出て来たのだ。リタは一瞬の出来事に反応が遅れアリアスの足に蹴られ跳ね飛ばされた。


「ウグッ!」


 うおっ、ちょっとヤバイ当たり方したな……。

 リタは弧を描き俺の斜め後ろに落下してくる。

 俺は素早く落下地点に向かいリタを受け止めた。受け止めた瞬間血を吐くリタ。地面に叩き付けられていたらマズかっただろう。

 間髪容れずに俺の唱えられる最大の治癒魔法をリタにかけ、回復させた。


「あ、ありがとう、陸様……」

「……気にするな、大丈夫か?」

「う、うん……まだいけるよ」


 強がってはいるが、少しすまなそうな顔のリタの頭を撫でてやる。

 顔を少し赤らめて嬉しそうだが、なに戦力低下は避けるべきと思っただけだ。いや、言葉には出さないぞ、俺は空気が読めるからな。


「【猛炎】」


 クラリッサが杖を高々と掲げ魔法を放った。荒れ狂う炎が大羊を包み込む。

 炎が収まると若干焦げ付いてはいるが、あまりダメージを受けてないアリアスがニヤリと笑った。

 余裕を見せてわざとゆっくり歩いて近付くアリアスに、クラリッサは次の魔法の詠唱に入った。


「くっ、【猛雷】!」


 複数の稲光が轟音を上げて大羊に落ちる。

 ブスブスと焼けた匂いがするが、大羊は歩むスピードを落とすことなく、俺達に近付いて来る。その顔は余裕で不敵に笑っていた。


「そ、そんな……これでも駄目なの?」


 ダメージ自体は入っているから無駄ではないが、あのクラスの呪文で倒すには何十発、いやひょっとすると何百発も放たないといけないかもしれない。

 ふむ、俺はクラリッサの放った呪文の上位版を使う事が出来る……試しに撃ってみるか。

 勝ち誇る様にゆっくりと歩み寄るアリアスに呪文を唱え放った。


「【轟炎】」

「ブモ?」


 先程のクラリッサの炎より広く大きな炎に飲まれる大羊。

 炎が大羊に集約され、青っぽい渦巻く巨大な火柱がアリアスを包み込んだ。

 余裕をかましていたアリアスが、阿鼻叫喚で前後左右に走り回る。

 炎が収まると全身黒焦げの大羊の丸焼きがそこに在った。

 ズズンと大きな音をたて、倒れるアリアス。

 ……意外と効いたな、魔法。


「凄ぇ、陸様!」


 リタは大喜びではしゃぎ回る、いやそんなに嬉しがらなくてもいいんじゃないか?

 クラリッサは驚いた顔をしながら、俺の顔を覗き込んだ


「……あ、あの陸様?」

「何だい、クラリッサ」

「陸さんって自分で剣の方が得意だって言ってますけど、魔法の方が明らかに才能ありますよね。師匠……賢者ケビン様の所にいた時から思っていたのですけど……」


 え、そうなの? そんな自覚全然無いけどな。

 確かに接近戦に持ち込まれる前に魔法で何とかしようと魔法を多用しているけど、才能があるなんて思った事も無かったな。

 俺、クラリッサにおだてられているのか?


「ブモモモモッ!」

「げっ!」


 雄叫びを上げ目の前に迫り来る大羊。

 いつの間に復活したのか、真っ直ぐ俺に突撃してきたアリアスの攻撃を何とか剣の腹で受けて、激突の威力を逃すように自ら斜め後ろに飛ぶ。


「陸さん!」


 俺の名を叫ぶクラリッサからは、派手に跳ね飛ばされたかに見えただろう。

 直撃を避けたが流石は魔王軍十二将、腕に足に激痛が走る。多分折れているだろう。

 すぐさま回復魔法で治癒をする。

 リタにかけた完全回復では無く部分回復なので一段低い治癒魔法だが、これで十分だ。

 魔力の無駄使いは敗北に直結する、尤もケチり過ぎて死んだりしたら意味が無いが。

 アリアスは自己再生の能力か、もしくは魔法でもかかっているのか、焦げ付いた真っ黒な姿では無く、ある程度白い毛皮が復活していた。


『おのれ人間、もう手加減せんぞ』


 その割にはふらついていて、今一足元がおぼつかないアリアス。

 まぁ、こっちも奴の事は言えないが。


「人間相手に真剣になるなよ、大人気ない」

『ぬかせ!』


 アリアスに大ダメージを与えた轟系の魔法は詠唱が長く、再度呪文を唱える暇は与えては貰えなかった。

 仕方がない、轟系は魔力も大量に消費すると割り切って使用は諦めよう。

 その後は泥沼の戦いだった。

 自分で言うのも何だが俺達はかなりしぶといし、アリアスは尋常でない程にタフだった。


「ぐはっ」

「ぶもっ」


 最終的に俺とアリアスが共倒れ、クラリッサは魔力を使い果たして気を失い、ボロボロで無傷とはいかないが、逃げながら隙を見て地道に攻撃を続けていたリタ一人が辛うじて最後まで残る事ができた。

 ……パーティとしては俺達の勝ちだろ?


 <>


「皆さ~ん、よく頑張りました~」


 満面の笑みで俺達を迎えるセーラ、本当にいい性格をしてやがる。

 回復魔法で怪我も治っているが、戦闘による精神的疲労は抜け切れるものでは無い。

 俺の横でぐったりしているクラリッサ。

 ……ふふふ、おれの苦悩が分かったか、セーラと一緒に居るという事はこういう事なのだ。


「さて、アリアス。これに印を下さいな」

『むぅ、仕方がないですな……』


 セーラがいつもの様に豊かな胸の谷間から、何かを取り出した。

 今回はそんなに大きな物では無い。冒険者カードを二回くらい大きくした厚手の紙の様な物だ。

 長方形で角の一か所に穴が空いていて、そこに首にかけるような紐が付けられていた。

 それにアリアスが何処からともなく取り出したハンコをセーラが受け取り、カードに印を押す。

 ……これってまるでアレだよな?


「いいわね、スタンプシートが埋まっていくのって。さぁ、じゃんじゃんスタンプラリーをこなしていくわよ~」


 そのまんまだった……。

 なんだよスタンプラリーって、セーラお前ふざけているのか?


「あの、セーラさん、それ何だい? スタンプシートって言ってたけど」

「ふふふ、これに加護印を押します、そうするとこのスタンプシートを通し陸さんに加護が授かる仕組みです。本当は身体の何処かに刺青の様に印が浮かび上がるのですけどね。しかもこのスタンプシートに押した小さな印ではなく巨大なやつが、そんなの嫌でしょ?」


 むぅ、それはそれでカッコよさそうな気がするが……。


「代わりにそれに刻まれるって事か、印が無くても加護自体は俺に与えられているんだよな?」

「はい、刺青みたいな印自体は授けたしるしみたいなものですからね、これをしないと加護印が数多く増えた場合、全身刺青みたいになっちゃいますしね」


 うん、それはちょっと嫌だな。


「ん? 加護印?」

「そう、それが加護、一番低い加護なんですけど、効果はそれなりに高いですよ」

「ああ、確か海と一緒に居たリリィとそんな話してたな」

「ええ、十二将は殺すより倒して加護印を貰う方がいいんですよ、本来魔族側の強化方法なのですが、人間の勇者であってもその強化は可能なんです」


 つまり強くなる為の裏技みたいなものか。しかも本来敵である十二将の力を借りて。

 印が一番低い加護って事は他にも加護があるんだな。


「ちなみにアニーとリリィの分は先日私達で話し合って、お互いに印を押し合いました。なので、もうずいぶんと陸さんは強くなっている筈ですよ」

「そ、そうなんだ……」


 セーラ達によって勝手に強化されていたようだ。

 そうじゃなければ十二将アリアスとまともに戦えるはずがないよな。

 セーラはスタンプラリーうんぬん言っているが、俺は魔王軍十二将をコンプリートする気なんて毛頭ないからな。今回みたいなギリギリの戦いなんてもうしたくないぞ。

 俺の様に魔王軍幹部に付きまとわれてる、空や海も同じような事をさせられているのだろうか?

 セーラはくるりと回ってクラリッサとリタににっこりと微笑む。


「勿論クラリッサさんの分とリタちゃんの分もありますよ~」

「あ、ありがとうございますセーラさん」

「わーい、これでまた強くなれるんだな、ありがとうセーラ姉!」

「うふふ、陸さんの為にも頑張ってね~二人共」


 セーラは再度俺に向き直り……。


「全部埋まると抽選でいい物が当たりますよ~楽しみですね~」

「抽選なのかよ!」


 思わず突っ込んでしまった。

 と言うか、全部の加護を集められる奴なんていないだろ? 常識的に。


 そういや鑑定魔法で自分を見てみたら、いつの間にか能力値に+表示が付いていたな。あれって加護で強化されたって意味だったのか、成程。

 ちなみに俺とクラリッサとリタとでは能力値の上昇率が違っていた。クラリッサとリタの二人より、俺の方がより強化されている。

 これはアレだな。現時点で俺はセーラ、アニー、リリィ、アリアスの四つの加護印を持っているが、クラリッサとリタはセーラとアリアスの加護印しか持っていないからなのだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ