49・エリザベート 1
エリザベート視点のお話です。
私の名はエリザベート・アユ・アルメリア、誇りあるアルメリア王国の第三王女だ。
我が国は世界で唯一、世界を救う勇者を召喚できる国として、他の国に一目も二目も存在を置かれている国なのだ。
私はそこの第三王女として生を受けた。
国を継ぐ兄は非常に優秀で私は将来兄の助けに、しいては国の為に働きたいと幼い頃から考えていた。
二人の姉は私と違い如何にも王族の淑女と言った感じで、既に公爵家と伯爵家に嫁に出ていた。当然次は私の番の筈なのだが……。
自分で言うのも何だが、私はかなりのじゃじゃ馬なのだ、それに今のところ結婚は考えていなかった。
花嫁修業より剣の稽古の方が楽しい私は、縁談の話が来ても騎士団と共に訓練に明けくれていた。
最近は王である父や、口うるさかった宰相も諦めたようで何も言わなくなった。ただ王妃である母からだけは、未だに女の子らしくしなさいと口うるさく注意を受けている。
先日十数年ぶりに勇者召喚が行われた。
召喚されたのは異世界の少年少女達で皆黒髪に黒い瞳だった。
それに男女こそ違うが皆揃って同じ服を着ていた。異世界ではそれが普通なのだろうか? 何とも不思議な者達だった。
最初のうちは色々不具合もあった。了承も無しにいきなり見ず知らずの異世界に呼ばれたのだ、仕方の無い事だろう。
だが彼等彼女等には我が国の為、延いては世界の為に魔王の軍勢と戦ってもらわねばならん。
言葉は幸いにして召喚時の翻訳の魔法が発動し、意志の疎通はある程度取れたが、彼等の常識と我々の常識の違いのせいか、衝突も多少なりにはあった。
だが、結果として彼等の協力を得ることに成功した我々は、彼等勇者の為に資金と国の有能な猛者を彼等の従者として用意した。
ここで従者を得られなくても国の運営する冒険者ギルドで仲間を探せばいい。その為の資金なのだ。
ただ、私はこの時、考え違いをしていた。
いや知らなかったのだ。国の為、世界の為に戦う勇者に支払われる資金の額とその待遇を……。
彼等には一人当たり金貨十枚と、騎士では無く兵士に与える程度の装備しかもらってなかったのである。信じられない事だ。
私がそれを知ったのはかなり後の事だ。彼等の母国の言葉で言うと後の祭りである。
しかしそれは勇者全員にでは無い、国だって馬鹿では無いのだ。
鑑定士を使い基礎?能力の高い、将来有能な者数名に国の聖騎士と宮廷魔導士クラスの仲間を与える。つまり彼らが本命の勇者達だ。
その他の勇者は期待されてはいない……悪く言えばハズレ勇者達だ。だがそれを本人達は知らない。言える訳がない。
せめてもの情けとして用意されたのが、従者としてそこそこ有名な冒険者達と資金、金貨十枚だったのである。無論従者達にも資金は払ってある、この可哀想な勇者達よりかなり多い額の資金が。
そんな恵まれていない勇者が奴隷に手を出すのは、仕方のない事だったのかもしれない。
当時の私はそんな事情も知らず、勇者の癖に奴隷を仲間にするとは何事だと、安っぽい正義感を胸に勇者に罰を与えてしまったのである。
そう、それが敬愛する勇者陸様と私の最初の出会いだったのだ。
……ただ、その時の私は犯罪者として陸様を牢に入れてしまったのだが……。
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「やってしまった――――!」
彼等の言葉で言うと、後悔先に立たずである。
賊から襲われていた村を救い、教会も認める勇者になんて酷い事を私はしてしまったのだろう。
確かに本命である勇者達は既に海を渡り、隣のキングスの国に足を延ばしているらしいが、彼らは基本的に国や冒険者ギルドの要請で、モンスターを討伐するだけで町や村等の治安活動はまずしない。
それは騎士や兵士の役目で勇者の仕事ではないからだ。
モンスターを討伐すれば結果的にその地域の人達を救った事になるのは間違いないのだが。
そんな英雄的な活躍をする勇者より、困っている町や村を救う勇者を私は好ましく思っていた。
今、目の前に居る困っている者に手を差し伸べる事ができる者が、本物の勇者だと勝手に思い込んでいたのだ。
その想いは今でも変わってはいない。
だが……そんな勇者を私は罪人として牢に入れてしまった。
幸いにして実際に罪を犯した訳ではなかったので、彼は翌日には解放された……但し彼の所有物と資金の殆んどを奪って。
「ああああ、私の馬鹿ぁあああ!」
私が勘違いするきっかけとなったのは獣人の奴隷だ。
噂に聞いていたのだ。
隣町イースで開かれている奴隷市場で大人の奴隷だけではなく、幼い少年少女も売買されている事を、そしてそれを勇者が買っている事も。
戦闘の役にたつ大人の奴隷ではなく、幼い子供の奴隷である。いくら獣人であっても看過出来ない。
特に酷いのは数人の奴隷の少女を引き連れて、何度も奴隷少女を入れ替えて回る、もはや勇者とは呼べない奴がいたというのだ。
その男と陸様を間違えてしまったのだ。
よく考えれば分かった事だ。
彼の連れていた奴隷はリタと呼ばれた少女一人、しかも彼女は汚れのない清潔で綺麗な容姿と、奴隷とは思えない素敵な服を纏っていた。
少女の奴隷を買う者の中にはそういった嗜好の者が居ると聞いていた私は、すっかりこの男もそうなのだろうと思い込んでしまったのである。
私の権限で奴隷から解放された彼女から、後日真実を聞くことになる。
私が投獄した男は殺されそうになった奴隷の少女リタを引き取り、あまつさえ奴隷から解放させようとしてた事を。それを拒否し恩を返すまで待ってほしいとリタ本人が望んだのである。
何と言う美談……私の視界は涙で歪みまくりだ。
それを勝手に私が良かれと思って奴隷から解放させてしまったのだ、彼の所持金を使って……。
もう彼に対しては何の申し開きも出来ない。覚悟を決めよう。
責任を取ろう、彼を私の伴侶とするのだ。
第一印象は私の思い込みで最悪だったが、疑いの晴れた今なら逆に好感が持てる。
確かに冴えない顔つきだがよくよく思い出してみれば、愛嬌のある可愛げのある顔だ。嫌いでは無い。
彼も誇りあるアルメリアの王族に連なる者となれれば喜ぶ筈だ。
勇者が王族と連なる関係になるのは珍しい事では無い。
実際に過去には王女を娶った勇者もいるし、何よりアルメリアの先祖には勇者が居たのである。
私の名前のエリザベート・アユ・アルメリアのアユは先祖の勇者の名前らしい。
勇者陸様はミドルネームに勇者由来の名前を持つ、私の運命の相手なのかもしれない。
うむ、俄然やる気が出て来た。何としても彼を探し出さなければならない。
私は彼の仲間だったリタという少女と、勇者召喚の儀の時に城で彼の従者となった魔法使いのクラリッサと共に彼を探す事にした。
クラリッサはキングス領にあるコナー男爵の令嬢らしい。
この娘もどうやら陸様に好意を持ってるらしいが相手が悪かったな、王族である私の相手ではない、残念だろうが諦めてくれ。
勇者陸様の行方は我が国の優秀な情報網をもってすれば探し出すのは容易だろう。
……そうタカをくくっていたが、予想外に彼の足取りはつかめなかった。まさかこの短期間の間に他国である、あちらの大陸に渡ったとは考えずらいのだが……。
ああ、何処へ行ってしまったのだ勇者陸様は……。




