45・発展
シーマの町に転移する前に、リリィとの会話で出て来た加護について聞いてみた。
お気に入りのポーズなのか、また両手を赤らめた頬に当て体をくねらせながら照れた様子で俺に語る。
セーラ、そこまで露骨に身体をクネクネさせると滑稽に見えるぞ?
「え~加護が欲しいんですか~、私としては結婚してからと思ってたんですケド……うふふふ」
冷や汗が噴き出て背筋が寒くなった……こいつは聞いちゃいけない話題だ。
「ああ、そうだな……それより早くシーマの町に行こう」
「え~、陸さんが良いなら今から加護を与えてもいいんですよ!」
だからその加護ってやつ胡散臭いんだよ! 俺の勘が絶対駄目だと警告音を鳴り響かせている。
「セーラさん、お戯れはそのくらいにして下さいね」
「そうだぜ、陸様が困ってるじゃないか」
「ええ~、私は本気なのに……」
だから何をだ?
クラリッサとリタが俺とセーラの間に入った事で、とりあえずセーラは落ち着いた様だ。心底、聞かなきゃ良かったと思う。
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セーラの転移魔法でシーマに移動をした。転移先はの町の外にしたようだ、いきなり町の中に現れるのもどうかと思うからな。
大きな都市なんかは対策として転移防止の結界とかが張ってあるらしく、特定の認めた者以外は転移では入る事ができないようになっているそうだ。魔族領は転移魔法対策が進んでいるな。
シーマはそんなに大きくない町なので町中でも転移可能らしいが、今回はちゃんと門から入ろうという事になった。
「あ、あれれ?」
「ん、んんん?」
リタとセーラの二人が眉間にしわを寄せ首を捻る。頭には?マークが浮かんで見えそうだ。
「セーラ姉、ここシーマだよな?」
「ええ、シーマの筈ですが……」
どうしたのだろう? 二人揃って頭を横に傾げる仕草は少し滑稽だ。
「あの~どうしたんですか?」
俺が聞く前にクラリッサが二人に尋ねる。
「うん、あのね、シーマの町は以前に私も来た事があるんだけど、ここまで立派な町じゃ無かったのよ」
「セーラ姉の言う通り、所々昔の面影があるんだけど違う町みたいになってんだよ」
聞けばこんなに大きく高い門や壁は無かったし、外からでも見える巨大な建造物は前には無かったそうだ。
何はともあれ町の中へ入ってみないと分からない。今回はセーラを主として配下役の俺とクラリッサ、そしてリタが後に続く。
「待て!」
十二将のセーラの顔を知らないのか、シーマの町の門番はセーラの前に槍を突きつけてその歩みを止めさせた。
……うう~ん、ここは無礼者って言うべきところなのかな?
だがセーラは偉そうな仕草一つしないで、丁寧に門番に話しかけた。
「あら、すみません。久しぶりに立ち寄ったのですが、中に入れてはもらえませんか~」
……あ~あ、いつもの病気だ。まぁ、こういう遊びは俺も嫌いじゃ無いけどな。
「ふむ、いい身形をしてるな……この町に入るには一人魔金貨一枚の入街税が必要なのだが」
「まぁ、以前は入るのにお金なんか取られなかったのに……仕方がありませんね」
セーラは門番に魔金貨を四枚ではなく、多めの五枚渡した。
魔金貨というのは魔族側の金貨の事だ。価値などは人間側の金貨とそれ程変わりないとか。
そうだとしてもかなりのボッタグリだと思う。金を持っていそうなので吹っかけてきたか。
「迷惑料として一枚多く渡しときますね~。ああ、それと私の様な者が泊まれる宿を紹介してもらえませんか~」
そう言って更にもう一枚魔金貨を渡す。
金の振る舞いが良いので町一番の宿を紹介してくれた。紹介と言っても場所を口答で伝えただけだが。
「困った事があったらまた来いよ」と嫌らしい笑みを浮かべて見送ってくれた門番達、また金をせびるつもりなんだろうな。
あ~あ、可哀想にあいつ等の命も風前の灯火だろうなぁ。
「何か違う町に来たみたいだ」
「私もそう思ってたところよ、リタちゃん」
この町に来たことのない俺とクラリッサは顔を見合わせる。そんなに変わってしまったのだろうか?
「おおっ」
思わず声が出てしまった。門番が言っていた宿はもはや俺の想像した宿では無い、高級料亭とか高級ホテルのレベルだ。
「これ王都並みに凄いんじゃないか?」
「少なくとも私の実家である男爵家の屋敷よりは立派ですね」
俺の呟きにクラリッサが呆れた顔で感想を述べる。
まぁ、この町程度にある規模の建物では無い。
宿に入ると綺麗なお姉さん達が出迎えてくれた。ふむ、中々のVIP待遇である。
ダンディな執事風の支配人が奥から現れ、セーラに深々とお辞儀をする。
てっきり魔王軍幹部十二将だとばれたのかと思ったが、そうではない様だ。
俺達がここに来る前に門番から連絡が来ていたらしい。「羽振りの良いカモが宿に向かったぞ」という所か。
セーラは支配人の勧められるまま最上級のスイートに通される。最上階の一フロア丸ごとの部屋だ、一体一泊いくらするんだ?
俺とクラリッサとリタはお付きの者と判断されたらしく、同フロアの入り口付近の部屋に案内された。それでも見た事ない程の良い部屋だ。
男爵令嬢のクラリッサが「ほぅ」と溜息を漏らす程だしな。
俺達を案内してくれた係の者が帰った後、別部屋に分かれずセーラの居る超高級VIPルームに集合した。
そこでさっき以上の溜息が出た。もはや王族クラスが泊まる部屋だろコレ。
「さて、これは面白い事になっているわねぇ~」
これから何が起こるか楽しみで仕方がないという様子の顔つきで、セーラがフフフと含み笑いを浮かべた。
ちなみにあまりの高級さにリタは呆けたままだ。まぁ、そうなるよな。
「ちょっと聞きたいんだが、元はどんな町だったんだ?」
「そうねぇ、町って言うより村に近かったわね。それが今じゃ都みたいになっているわね」
「どういう訳かいきなり発展してしまった町か、リタはどうする?」
「う~んそうだなぁ、取り敢えず町の外れまで行ってみたいかな。ここに居た時も町の中心に住んでいた訳じゃないし」
「では早速行ってみましょうか~」
ここに居ても情報は集まらない。外に出てみるのが妥当だろうし、リタの行きたい所へ連れて行ってやるのが良いだろう。
一階のロビーまで降りてくると支配人が飛んで来た。セーラを金持ちの特別なお客様だと思っている様だ。
「お客様どちらへお出かけでしょうか? 宜しければ案内をお付けしますが」
「ありがとう、でも必要ありませんわ~」
「そうですか。では牧場へ行くのでしたらお気を付け下さい、あそこは存外治安が宜しくありませんので」
「牧場ねぇ、分かったわ~」
セーラはそう言ってチップを渡す。支配人は深々と頭を下げ俺達を見送った。
元の世界でも平民の俺は、普通にチップを渡す光景を見慣れて無いのでセレブって凄いなくらいの感想だ。
リタはそれを見てまた呆けていた。リタにしてみれば見た事もない世界だろうからな。
それにしてもこっちの世界でもチップってあるんだな。
あと支配人が言ってた牧場って何だろう? 牛や羊でも放牧しているのだろうか?
町の中心を離れると急速に町の様子が寂れてきた。
どうやら王都の様な建物が建っているのは町の入り口から中心部にかけての一部であり、他は村と言っても差し支えないくらいの田舎町だった。
そこに住む住人、主に獣人だがあまり良い身形をしていない。この町自体が格差社会を体現しているように見える。
そして支配人が言った通り、絡んでくるガラの悪い奴等がちらほらと現れた。無論すべて俺が撃退をする。
成程ね、支配人の言ってた案内をつけるという事は、護衛をつけるという意味だったのだなと理解した。
そして町外れの牧場と思わしき場所に来た。
そこは残念ながら俺の知ってる牧場ではなかった。
牛や羊などはおらず、代わりに首輪を付けた子供から大人までの獣人達がそこに居たのである。




