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44・対勇者

 それにしても、この三人と一緒にいる時間が長いせいで慣れてきたのか、こいつ等といる時は俺のコミュ症も顔を潜め普通に会話ができているみたいだ。むぅ、喜んでいいものなのだろうか?

 ともあれ船着き場の待合室で変装を終えた俺達。

 待合室に入って行った者達と、中にいる者達が違う人になっていた、なんちゃって怪奇現象の出来上がりである。


「この際だから、私の転移魔法で移動しちゃう?」


 姿は違えど、いつもの様子のセーラがそんな事を言い出した。

 どうやら同行する勇者が初めて行く場所には、セーラ達の転移魔法を使わないという決め事があるんだそうだ。

 先に進みたくない俺にはありがたいが、意味が分からんルールだよな。

 ただしそのルールは、魔王城へ行く為のルートの話であって、今回のような魔王城から遠くなる逆走するルートの場合は例外的にOKらしい。

 ……俺が思うにセーラ達が勝手にそう決めたルールなんじゃないか? その方が面白そうだからとか言ってさ……別にどうでもいいことだがな。


 船に乗る必要も無くなったので待合室から出ると、会いたくなかった人達とばったり出会った。


「あ~! こんな所で何をしてるのよ、セーラ!」

「あらあら、リリィじゃないの」


 セーラと同じに、勇者を育てている少女リリィがそこにいた。

 勇者海と四人のイケメンを引き連れている。こいつ等もこれから魔王の居る大陸に渡るつもりなのか。

 あっちはちゃんとルール通りに船に乗るらしい。意外と真面目だなリリィは。


「ん? あんた勇者を連れて無いの? ひょっとして捨てられた~?」


 口に手を当て馬鹿にした口調でセーラを煽る。


「馬鹿言わないでよ、ついさっきプロポーズされたばかりなんだから!」

「な、何ですって! キーッ、羨ましい!」


 おいおい、何時誰が何をしたって? いい加減な事を言うな! それと羨ましいのかよリリィ。

 ちなみに海を引きつれたリリィと、この前会った空を引きつれたアニーはセーラと同じ十二将だそうだ。見た目に騙されると痛い目にあう事なるのは間違いない。

 特に幼く見えるリリィは絶対に見た目通りの年ではないだろうしな。


「ま、まぁいいわ、あんな冴えない男となら羨ましくも何ともないわ、私には海とイケメンズが居るからいいのよ」


 イ、イケメンズ? 可哀想にあいつ等セット扱いなのかよ。


「リリィ様の傍にお仕えするだけで、至上の喜びです、な皆!」

「「「「勿論です」」」」


 勇者海がイケメンズと共にリリィをあがめる様に跪く。

 何だかなぁ……。


「で、そいつ等は新しい部下? ふ~ん」

「リリィ様、そいつ等魔族でしょう、どうぞ討伐の許可を」


 俺達を見つめるリリィに海がそう進言した。変装した俺達を魔族の手先と勘違いした様だ。

 海達はリリィから魔王の計画をまだ聞いてないのか?


「直ちにあの金髪の獣人の少女を保護しなければなりません」


 ……変装したリタを凝視しながら力説する。後ろのイケメンズもウンウンと力強く頷いた。

 魔王の計画とは関係なく単に変装した金髪獣人の少女のリタに興味があるだけだったようだ。

 やはりロリコンだこいつ等、死んだ方がこの世界の為だな。


「ふふっ、いいでしょう。いいわねセーラ? 貴方もそいつらが使い物になるかどうか、確かめたいでしょう?」


 少し悩んだ後にセーラはいいわよと、答える。


「「ええ!」」


 驚いたのはクラリッサとリタだ。

 そりゃあそうだろう、だが俺はそうなる事を予想してたので驚きはしない。ただ呆れてるだけだ。


「え~と、ランドさん相手をして上げて」


 ウィンクをして俺にそう言うセーラ。

 な、何故その名を……迷宮での中二病君との会話を聞いてやがったな。

 クラリッサとリタは首を傾げる。知る必要は無いぞ、こんな恥ずかしい名の命名の理由はな。


「下がってクーラさん、リタリタさん」


 こっちは安直で適当な名前の付け方だな。まぁ、誤魔化す為の名前に注文をつけるのも不毛か。

 自分たちの事だと気付いた二人はセーラと共に安全圏まで下がる。


「あら、勇者のパーティ相手にたった一人でとは、甘く見られたものねぇ」


 リリィは呆れ顔で肩をすくませる。


「ふん、僕としてもババァとはいえ女を相手にするのは気が引ける、悪いがお前には滅んでもらうぞ、黒い鎧の男」

「ババァって何よ、目が悪いんじゃない!」

「いえ、セーラさんアレは頭が悪いんですよ」


 海の暴言にすぐさまセーラが反発しクラリッサが真実を語る。

 もう面倒臭いのでさっさと終わらせてしまおう。

 俺は黙ってコイコイと手をヒラヒラさせた。それを馬鹿にしたと思ったのか、リリィを除く勇者海のパーティのイケメン共は俺に襲い掛かってきた。

 俺的にイケメンには手加減をする必要は全くない、むしろ滅びろ。

 大丈夫、決して無謀では無い。

 鑑定魔法により勇者海とイケメンズの戦闘力は把握済みだ。

 海はそこそこレベルが高いが、後の四人はそうでも無い。クラリッサとリタ二人でも四人のイケメンズだけなら十分に勝てるレベルだ。

 ふむ、海達は鑑定魔法を持ってない様だ。ちなみにこの黒い鎧、鑑定疎外の魔法がかかっている優れものだ、例えリリィであっても俺のレベルやステータスは見られないだろう。

 ついでに言うと、変装用のクラリッサのローブとリタのアクセサリーにも鑑定阻害の魔法がかかっているらしい。流石はセーラが所持してたアイテムである。


「行くぞ皆!」

「「「「応!」」」」


 勇者海とイケメンズが抜刀して間合いを詰める。

 戦闘前の強化も無い、戦闘開始時の敵への弱体魔法も無しだ。

 甘く見てるというか、舐め過ぎじゃないのかお前等?

 ちなみに俺はこいつ等が漫才の様な会話をしている間に、強化魔法を唱え済みだった。

 それどころか時間があり過ぎて、俺の目の前にトラップ型の魔法も仕込んでおいた。海達はそれに気付いておらず勢い勇んで突っ込んで来る。

 もう一つ、ついでに言うと五人全員で特攻して来ている。それもその筈だ、こいつ等全員が前衛職だからだ。

 戦士に拳闘士、盗賊に剣士か、普段はあのリリィが魔法を担当しているのだろう。魔法を使える勇者が強化&弱体を担当すればいいものを、仲間達の先頭に立って特攻して来やがる。


「う、うわっ!」

「何だこれは!」

「か、絡まる!」

「う、動けん!」

「おのれ卑怯者め!」


 相手が俺一人なんだから、一人ずつかかって来ないお前達は卑怯者じゃないのか?

 それにしても見事に罠にかかったな。地面から網状に飛び出した蔦に絡まり、身動きができずにいるイケメンの方々。

 すぐさま俺は勇者海に向かい呪文を唱える。


「クソ、こんな蔦焼き切ってや……!」


 沈黙の魔法でこの中で唯一魔法を使える勇者の魔法を封じる。

 口をパクパクさせて目を見開き俺を見つめる勇者。よせやい男に見られて喜ぶ趣味は無い。


「そんなに焼き切りたいのなら手伝ってやる」


 俺は手を翳し【轟炎】を唱えた。

 詠唱が終了するのと同時に、イケメン共が荒れ狂う炎の世界に包まれる。


「ぎゃー!海! イケメンズ――――!」


 叫び声を上げたのは余裕綽々だったリリィだ。

 自分の担当する勇者と仲間達が火達磨になって、慌てて呪文を唱えている。

 リリィの唱えた大量の水を呼び出す魔法で海達の延焼を鎮火しようとしたが、そのくらいでは最上級魔法の炎を消す事は出来ない。正に【轟炎】の魔法には焼け石に水だったな。

 これでも殺さないように範囲は勿論、威力もかなり落としたんだが……その下位の魔法【猛炎】で十分だったかな。

 【轟炎】が発動する前に、咄嗟にリリィが海とイケメンズ四人に魔法障壁を張っていたが、防ぎきれなかったようでそこらじゅうに火傷を負っていた。

 イケメンズは全員気を失っていたが、海だけは黒焦げになった剣を握りしめ俺を睨めつけていた。

 流石レベルがある程度高いと耐久力もある。

 すぐさまリリィが回復魔法を唱える。詠唱が終わる前に決着を付けなければいけない様だ。


「ぼ、僕は負けない、僕が守らねば、誰が少女を、幼女を守る!」


 うお、ドン引きだ。流石に海を助けに入ったリリィも引いているじゃないか。

 俺のかけた沈黙の魔法の効果が切れたのなら、何かしらの回復魔法を自分に唱えればいいのに……それどころか海は、リリィの高位回復魔法が発動する前に俺に切りかかってきた。こっちにしたら好都合だが。


「おおおおっ」

「……もう寝ろ」


 イケメンにしては大した根性だが、何せ俺とのレベルが違い過ぎる。

 カウンターの様に海の攻撃に合わせ剣を打ち込む。彼は良い鎧を着てるのか切れはしなかったが、剣は肩から大きくめり込んでいた。

 む、まともに入ったな、死んだか? いや僅かに生きてる様だな、しぶとい奴だ。

 万が一、死んだとしてもセーラが居るから、時間を置かずに直ぐに蘇生魔法を使えば大丈夫だろう。


「強い……何故だ……何故、僕よりつよ……」

「うわわっ、ちょっと海!」


 リリィがやっと詠唱を終了させて海に回復魔法がかかる。傷は治った様だがダメージが大き過ぎたのか目を覚まさない。リリィは倒れたままのイケメンズにも回復魔法をかけ回っていた。


「許さないわよ、そこの黒い鎧の男!」


 ……え~けしかけたのそっちじゃん。

 リリィを鑑定しても失敗する。これは俺よりレベルが高い事を示すのだ。よってこいつと戦うのは非常にマズイ。


「セーラあんたは手を出さないでよ、いいわよね? このままじゃ私の気が済まないのよ」

「ちょっとリリィ、それ滅茶苦茶よ?」

「いいから、あんたは手を出すな!」

「はぁ、分かったわよ」


 おいおいセーラ、俺を殺す気か? リリィもセーラと同じ魔王軍の幹部の十二将だろ?


「ただし、戦うつもりならり……ランドには私の加護を与えてからよ」

「なっ! セ、セーラ……こ、こいつにまだ加護を与えてない……の?」

「ええ、今でさえこの力よ。私の加護を与えたらどうなるかしら? 加護の種類によっては、どれ程の力を得るのかしらねぇ~、リリィ?」


 顔面蒼白になりながらガクガクと体を震わせるリリィ。

 加護って何だ? 話の流れからして、その加護ってやつに色んな種類がある様だが、付く加護によって力が変わってくるのか。

 セーラ、そんないいのがあるならくれよ、加護ってやつを。


「し、信じられない、素の状態でこの強さなの? 在り得ない、在り得ないわ……」


 ブツブツ独り言を呟くリリィ、一体どうしたのだろう?


「……貴方、きょ、今日の所はこれで勘弁してあげるわ、ありがたく思うことね!」


 負け犬の定番の捨て台詞を残し、リリィは転移魔法を使い勇者海とイケメンズを連れ去って行った。

 

「フッ、勝った……勝利の後はいつも空しい……」


 俺の台詞ではない、セーラだ。

 カッコつけている所すまないが、戦ったの俺な。

 最後の加護か何かの言葉の駆け引きでリリィ達は退いた様だが、あれを勝ちといえるのか?


 クラリッサとリタは完全に蚊帳の外だ……羨ましい、俺は観戦ポジションの彼女等と変わって欲しかったよ。

 何はともあれセーラの転移魔法で、リタの故郷シーマの町へ行く事にする。

 リリィや海達の様子を見るに変装は完璧だろうからな。

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