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43・変化

 クラリッサとセーラが俺の魔王城を目指していないという言葉に、二人揃って大きな声を上げた。


「何を言ってるんですか陸さん! 勇者が魔王を倒さないって」

「そうよ、それじゃあ私が育てたの意味なくなっちゃうじゃない!」


 ははは、それは君達の都合だろう? 知った事か。

 仕方がない、適当に理由をでっちあげるとするか。


「別に魔王を倒さないと言ってるわけじゃ無いぞ、最終的には魔王の城に向かう事になるとは思うが今じゃ無いって事さ。それに魔王を倒すのは俺じゃ無くてもいいだろ?」

「それはそうですが……」

「魔王を倒すのは陸さんじゃないと駄目です!」


 セーラだけは聞き分けのない駄々をこねていた。魔王軍の幹部の癖に大人気ないなぁ。

 俺はちらりと少し俯いているリタを見た後にセーラに向き直る。その仕草を見たセーラは「ああっ」と納得したように頷いた。


「そうね、そうだわ、行きましょうシーマの町へ。ね、リタちゃん」

「本当か、本当にいいのか?」

「陸さんも行きたいようですし、良いんじゃないかしら」

「そうですよ、私だけ里帰りじゃ申し訳ないわ」

「ありがとう、陸様、セーラ姉、クラリッサ姉!」


 素直にお礼を言って無邪気に喜ぶリタ、俺としても好都合だ。

 俺がこうやって寄り道を繰り返している間に、誰かが魔王を倒してくれたら楽でいい。それ以上に命の危険に脅かされる場所に行くのは、できるだけ遠慮したい。


 <>


 翌日、島の魔族側にある船着き場に見送りに来たサウス男爵だが、入れ替わりで別の勇者パーティが来客したようで、名残惜しそうに屋敷に戻って行った。

 よしよし、頑張ってくれ男爵。

 俺たち以外の勇者や冒険者をどんどん送り出して、俺を楽させてくれ。

 なるべく強そうな奴を頼む、魔王をちょちょいと倒せるくらいの奴なら尚更良い。


 小さな島と言っても男爵が二名統治する町があるので、それなりの大きさはある。

 町の門を出て船着き場までは結構な距離があった。日や時間によるのだろうが、船着き場には俺達の他には誰も居なかった。


「うう~ん、どうしたものかしら~」


 珍しくセーラが悩んでいた。

 人の都合をあまり気にしないで、自分勝手に物事を進める彼女にしては珍しい事だ。

 ふむ、一応聞くだけ聞いとくか……と、言うより聞いてほしい様だ。

 さっきからチラチラと、こっちを見ながらウ~ンウ~ン唸っていた。


「セーラさんどうしたんだ、何かマズい事でも?」


 俺がそう話しかけるとパァと顔を明るくして近付いて来る。

 どうも困った様子に気付いてくれた事が嬉しい様だ。そんなバレバレの態度なら誰でも気付くと思うが。


「実はですね、あちら側……つまり魔族領に人間のまま行くと結構大変なんですよ」

「そうだろうな、転移魔法を持ってる者ならその都度帰って来れるが、無ければ野宿だ。魔族領の都市や町には泊まれないしな」

「シーマの町に入るにも人間だとちょっと厳しいですね、あそこも中立地帯を称してますが、この島程安全ではありませんから、滞在は無理でしょうし」


 しかしこの島以外にも中立地帯を謳ってる地域があるのか。

 聞けば魔王領に渡った先の海側は元は人間の領地で、今でも中立地帯を宣言している町もあるそうだ。シーマはその中の一つという訳だな。まさかとは思うがそこにいる人間って、奴隷商人とかなのかな? 知らんけど。


 俺は自分達の姿を見てセーラに向き直った。


「冒険者、ましてや勇者だったら歓迎はされないよな」

「ええ、そうですね~、そ・こ・で」


 ニヤリと笑うセーラ。

 こいつ最初からどうしようか決めてたな、さっきのは只のフリか。

 ……意味の無い事をしやがる。構ってほしいという歳でも無いだろうに。 

 いやいや、魔族は見た目で年齢は分からない、若く見えて実は俺より相当歳上なのかもしれないな。


「また、変化の杖でも使うのか」

「残念、今回は違う方法をとりま~す」


 楽しそうだなセーラ。

 後ろでクラリッサとリタが「変化の杖?」と首を傾げていたが説明が面倒なのでスルーする。


「まず陸さんにはこれを~」


 黒いフルプレートメイルを、某青い猫型ロボットのポケットから出すように胸元から取り出す。

 毎回の事に、突っ込んだら負けの様な気がするので敢えて突っ込まない。

 後ろでリタが「おおっ」と歓喜の声を上げた、子供にはさぞ面白い光景に映るだろうな。

 成程こいつを着込めば怪しまれずに済むか。

 続けて黒いローブを取り出しクラリッサに渡す。


「着てみて、クラリッサさん~。あっ、ちょ~と後ろを向いてて下さいね、陸さん」


 誰も居ない船着き場の待合室で着替えているので、俺達の他に人の目は無い。

 クラリッサの着替えに、当然俺は回れ右を強制させられる。

 ふっ、下手に覗いて後で何か要求される事態は望んではいない。俺はそんな誘惑になどに惑わかされはしないから安心しろ。


「何だろう……女として釈然としない感じがするのですが……気のせいでしょうか?」


 クラリッサは訳の分からない事をブツブツと呟きながら着替えている。シュルシュルと布擦れ音がするが、当然俺には雑音と同じなのだ。


「凄いな陸様、あいつはあたし達が着替えてるところ、チラチラ盗み見してたけどな」


 ……あいつってリタ達を買ったあの黒歴史君か。やっぱり阿保だな、あいつ.……。


 着替え終わったクラリッサを見て俺は正直驚いた。

 そこには褐色の肌になり、耳が長くなったクラリッサが居た。


「黒妖精の衣って言ってね、ダークエルフに変化できるローブよ」

「はへ?」


 自分の姿が見えてないクラリッサは何の事やら分からないと首を傾げる。

 いつの間にかセーラが収納魔法で出した全身鏡をクラリッサに向ける。そして、どうぞご覧下さいのポーズをとっているセーラ。

 クラリッサは恐る恐る自分の姿が映り込んでいる鏡を覗き込んだ。

 一瞬驚いた後、嬉しそうに身体のあちこちを見ながらクルクル回っていた。

 いいのかダークエルフだぞ? まぁ、クラリッサが気に入っているならいいがな。


「リタちゃんはそのままでも大丈夫でしょう」

「ええ! あたしも何か変装したいよ、セーラ姉~」

「え、そう? じゃあ」


 自分の故郷に帰るのにお前が変装してどうするんだリタ?

 セーラは小さなイヤリングを取り出しリタの耳に付けると、一瞬にしてリタの茶色の髪と瞳が鮮やかな金髪とグリーンアイズに変わった。


「おおおっ! すげぇカッコイイ、ありがとうセーラ姉」


 クラリッサと同じように、鏡に映った姿にはじゃぎながらクルクル回り出した。

 俺?俺は勿論しないよ。鎧姿の男が鏡の前で浮かれて回るってどうよ?

 セーラは俺を見て残念そうな顔を浮かべる、だからしないって恥ずかしい。

 ……まぁ確かにこの黒い鎧はデザインが良くてカッコイイけどな。


「じゃ私も元に戻るわね~あんまり驚かないでね~」


 そう言うと否や、セーラは一瞬にして純白のローブから漆黒の軽鎧の姿に変わる。

 髪は金髪のままだが前が白っぽかったのに対し今は黒味掛かっていた。瞳は碧から紫に変化していた。

 そして何より違うのは頭に二つの立派な角が生えている所である、やっぱり魔族というのは本当だったのだ。

 今までかなり長い事一緒にいたが、セーラのこの姿を見たのは初めてである。


「わぁ、イメージが変わりますねセーラさん」

「うん、何かお姉様って感じになった」


 二人共セーラの初めて見せる姿にホゥと溜息をつく。


「ふふふ、どうですか陸さん」


 セーラはクネクネと腰をくねらせ俺にポーズを取る。だからそのあざとい仕草が下品だと言っているんだ、全く。

 だが今後の為にも褒めとくに限る。


「うん、凄く綺麗だよセーラさん」

「……へっ?」

「何だか凄く輝いて見える」

「ええええ――――!」


 ボンッという音が聞こえそうな驚いた顔をして、一気に赤くなるセーラ。両手を頬に当て後ろを向いて座り込んでしまった。

 何やってんだ、人間の姿の時には他の男達から同じような事言われ続けていただろう? 今更何を照れているんだか。

 いや、本当に綺麗だよ、その角。

 深い青黒で艶のある絶妙な曲線を描いた双角。本当に美しい。「触ってもいいか」と聞いたら、「まだ心の準備が~」と訳の分からない答えが返って来た。

 ひょっとして角を触るのは失礼に当たるのか? いや、そうだろうな、魔族の証みたいなものだろうし。

 その後クラリッサとリタから私達もどうですかとしつこく聞かれたので、「ああ、二人共とっても素敵で可愛いよ」と、適当に褒めておいた。

 はぁ本当に女って面倒臭いよな、俺の様な冴えない男に褒められても嬉しくないと思うのだが。

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