38・故郷
凄かった。何がって? 魔法だよ魔法。
そう賢者ケビンから貰った魔法は、この世界に来てからの俺の常識を一変させたのだ。
てっきりレベルが足りなくて魔法を覚えるのはまだ先かなと思っていたのだが、意外にも転移、収納、鑑定の便利な三魔法は今の俺でも習得が可能な魔法だった。レベルが足りててよかったよ。
ここ暫くの移動はセーラの転移魔法に頼っていたのだが、俺も同様の魔法を使えるようになったので利便性が一気に倍になった。
この転移魔法の弱点の一つが結構な量の魔力消費なので、パーティ内にこの魔法を使える者が二人以上居るのと居ないとでは行動範囲、行動時間が段違いに違う。
戦闘で使う分の魔力は残しておかないといけないからな。魔力を回復するポーションもあるがその度に使っていたらきりがないし。
それに何より、いざとなったら俺だけでも逃げれるしな……ふふふ。
それと遂に念願の収納魔法だ。これで金の入った袋を握りしめて眠る事もなくなったという事だ。素晴らしい!
収納量はお約束通りの無限では無かった、残念。
だが使用者の魔力量に応じて拡大する仕様で、今の俺の魔力量だと馬車数台分の収納が可能だ。
セーラは屋敷一軒分くらいって言ってたから、あいつの魔力量はどんだけあるんだって感じだ。流石は魔王軍の幹部である。
最後に鑑定だ、こいつも残念ながらゲームや漫画みたいに何でもお見通しになる訳では無い。
まず自分よりレベルの高い者に対する人物鑑定は難しい。少しくらい上ならいけるがレベル差が大きい場合鑑定が失敗するのだ。
その代わり自分と同等以下のレベルなら情報は正に筒抜けになる。プライバシーも何もあったものじゃ無い。
但し鑑定を阻害するアイテムも稀だがあるらしいので、必ずしも鑑定が成功するとは限らないそうだ。
物品等の鑑定はその物自体の詳細が分かる有り難い魔法だが、レア度こそは分かるものの市場の相場等までは分かったりはしない。流石にそこまで便利な訳ではない。
後、いくら鑑定でも嵌めようとか騙そうとか等、思考や気持ちまでは当然分からない。なのでクラリッサ達の動向は今後とも引き続き注意が必要だった。
注意と言えば、なるべくならもう会いたくも無いアルメリアのエリザベートやクインズのヴィクトリア等にも用心しないといけないな。更に気を引き締めると事としよう。
便利魔法を手に入れたと言っても油断をしてはいけないのである。
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魔法の都ケビンから出るとき賢者様から教えて貰った事がある。
ここより西南の方角に海があり、海峡を挟んで隣の大陸に渡れるのだが、その間にある海峡に島があるらしい。そしてそこはクラリッサの故郷らしいのだ。
クラリッサはこの魔法の都に賢者の弟子として修業に来てただけで、実家はこの島の中に在る男爵領にあるらしかった。
「父と母に紹介します!」
真剣な顔でそう俺に告げるクラリッサ。いや俺がお前の親に会ってどうするんだよ? 恋人でもあるまいし。
「お、お、お姉ちゃんはまだそういうの早いと思います!」
何故かセーラが反対をする、しかしいつの間にクラリッサのお姉ちゃんになったんだよセーラ。
「落ち着きなよ、セーラ姉にクラリッサ姉、陸様とつがいになるのはあたしの本当の姉ちゃんなんだからさ」
「「違います!」」
リタの冗談に息ぴったりで反論するクラリッサとセーラ。本当、仲いいよなお前達。
それにしても何だよリタ、つがいって人に向けて言う言葉じゃないだろ、わざと言って俺を馬鹿にしてるのか?
まぁ、そんな馬鹿話はどうでもいい。
ただ、その海峡の先の大陸には、いずれは行かねばならなかった。何故なら海峡の先の大陸とは魔族領なのだ。
セーラに頼めば元々自分の故郷である魔族領に転移魔法で海峡を飛び越えて行くことができるだろう。
だが冗談では無い。奥地に行けばモンスターのレベルは跳ね上がるし、誰が好き好んで過酷な地に行こうと思うのか。
勇者である以上どの道、魔族領の大陸には向かわねばならないが、順番というものがある。
物臭なセーラが転移魔法を使わず、まずは海峡の島町に行きましょうと賛成してくれたのは意外だったが、俺の希望と一致しているので文句はない。
後はクラリッサの両親に会わずに素通り出来ればいいが……何やら非常に面倒臭くなる予感がするのだが……。
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俺達のいる人間側の領地から、海峡を望むと魔族大陸側の対岸が遠くに見えた。あれが魔王の治める大陸だ。
海を挟んだ大陸間の丁度真ん中あたりに大きな島が見える、あれがクラリッサの故郷である男爵領との事だ。
ただあの島なのだが、少し変わった自治状態になっているのだ。
実はあの島は人間側と魔族側の中立地帯になっていて、島の半分だけが人間の領土の男爵領らしい。残りの魔族大陸側の半分は魔族男爵の領地になっているとの事だ。
「あの島、治安はどうなんだ?」
中立といえど敵同士が隣り合わせなのだから、当然治安が悪いと予想していたのだが……。
「数少ない物流の拠点になってますからね、両男爵の協力もあって普通の町よりは治安は良いと思います」
そうなのか? 凄く意外だ。
故郷を語るクラリッサは自慢げに胸を張る。故郷の自慢をしたいのは分かるけど、ちょっとどや顔が過ぎる気がする。
ここから乗船する舟券は、何とアルメリアの爺さんから貰ったフリーパスの船券が使えた。お陰でタダだ、ありがとう爺さん。
海流が強いらしく船の向きと進行方向がずれる程で、落ちたら只では済まないだろう。それ以前に俺は鎧を着けているので、落ちたらそれはもう勢いよく沈むがな。
渡航中に敵に襲われる事もなく、港に着いてからも特に何も問題は起こらなかった。クラリッサの言う通り本当に治安の良い土地の様だ。
……っと、ここで油断してまたアルメリアの時の様に、牢にぶち込まれる可能性が無いとは言えないので、気を引き締めて行こう。
慢心はご法度だ。
「さぁ、こちらです陸さん」
クラリッサがご機嫌で先頭に立ち俺達を案内する。いやクラリッサ、お前の家に行くつもりはないのだが……。
「仕方がないですねぇ~ここはクラリッサさんの御厚意に甘えるとしましょうか」
セーラがいつになくまともな事を呟く。いやここはいつもの捻くれ具合を発揮しろよ。何、真面目ぶってんだ?
「わぁクラリッサ姉の住んでた所か、楽しみだな陸様」
リタがキラキラした目で俺に同意を求める。クッ、仕方がない空気の読める俺はこいつ等に話を合わせる事にする。
「そうだな、クラリッサがここでどう育ったか気になるよな」
「り、陸さんたら……」
クラリッサが頬に両手を当てて顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
ははは、そんなに恥ずかしがらなくてもいいさ、嘘だからな。クラリッサも照れてる演技なんかしなくていいんだぞ?
この島を半分に分け、人間側の男爵と魔族側の男爵が二人一緒に治めている所なのだが、よく争いにならないものだと感心する。
セーラや空の連れてたアニーもあっち側の者だし、考えてみるとあながち在り得ない話では無いのかもしれない。
勿論、両男爵達が住んでいる屋敷はそれぞれの領土の方にあるし、民も同様だ。
だが島の中心部は完全な中立地帯になっていて、魔族と人間が普通に混在しており、今まで見た事のない景色が広がっていた。
そりゃあそうだ、なにせこの二つの男爵領の間には、仕切る壁や柵等がないのだからな。
「いつ来ても不思議な町だわ~」
「そうですか、私はここで生まれ育ったので、違和感がありませんね」
人間の国と魔族の国の両方を行き来しているセーラでさえ、珍しいと感想を述べている。やはりこの世界でも異質な場所なんだろう。
対するクラリッサには物珍しさが感じられなかった、故郷だから当たり前か。




