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32・参上

 おっと、今はそれどころではない。一触即発の状態だしな。

 まんまと勇者空はクラリッサ達の策に乗せられていた。

 俺の推理が正しいならば……。

 空に俺を敵として認識させ、何らかの手段で空をアルメリアに連行し、以前の俺の様に全てを奪う算段をしているのだろう。

 そして空の恨みの先は、敵対した俺に誘導するつもりに違いない。

 なんて恐ろしいことを考える奴らだ、血も涙もないとはこの事だ。


 空は怒りを露わにして、おもむろに椅子から立ち上がる。阿呆がクラリッサ達の思惑通りに踊らされやがって。

 クラリッサもクラリッサだ、空の奴を煽り過ぎだ。恐らくアルメリアの奴らの言う通りに行動してるのだろうが、どうなっても知らないぞ。


「おい、お前等は冒険者だな。貴族でも無い奴が勇者に口答えをして、あまつさえ侮辱とは、いい度胸だな!」


 腰に差した剣を引き抜きクラリッサに向かって歩き出す空。

 おいおい勇者がそんな悪人みたいなこと言っていいのかよ。


「あ~あ、馬鹿ね空を怒らしちゃって~」


 空の相棒、アニーが呆れた様に吐き捨てる。それでも食事をやめないのは太々しいのにも限度があると思うがな。

 しかしこの阿呆勇者、お前も元の世界では只の平民だろ。なに勇者と持ち上げられて天狗になってやがるんだ。全く、浅はかな奴だよな。


「ちょっと、待ちなさい! 私の城の中で武器を抜くなんて、礼儀をわきまえなさい」

「そうだ、貴様は本当に勇者なのか? 信じられん!」


 クラリッサ達に歩み寄る空に、ヴィクトリアとエリザベートも彼に対し非難の声を上げる。

 構わず近づく空に護衛の騎士達が、クラリッサ達の前に立ちはだかり彼の行き先を塞ぐ。


「馬鹿が、俺を止められると思っているのか?」


 空が手にした剣を一振りすると、触れてもいないのにクラリッサ達を守っていた騎士達がバタバタと倒れた。

 こいつ何をした?


「陸さんアレは魔剣の一種ですね。使用者のレベルの方が高く、尚且つ差が大きければ大きい程に様々な悪影響のある状態異常が相手に付加されます。しかも触れる事無くですよ、悪質ですね~」


 セーラが俺の耳元に顔を近付け、小声で空の持つ剣の説明をしてくれた、悪質ってお前もそう変わらんだろ?


「な、何?」

「お、おいしっかりしろ!」


 この部屋にいる空に会うまでヴィクトリアとエリザベートは仲が悪かったのに、今は息がぴったりだ。共通の敵がいると人ってこうなるんだな。


「安心しろ殺しては居ない。そこの貴族の二人は後で痛い目に遭ってもらうが、俺に暴言を吐いた冒険者の二人は……ふん、そうだな、冒険者らしく俺の剣を受けてみせろ。死んでも恨むなよ?」


 空がそう言うや否や、高速でクラリッサとリタに近寄り振り上げた剣を振り下ろした。

 躊躇なしかよ、人間相手に何やってんだ、あの阿呆勇者!


「きゃっ!」

「うわっ!」


 標的にされた二人は空の動きに対応しきれず、クラリッサはリタを庇うように蹲った。

 だが空の振り下ろした剣は彼女等に触れる事無く、ガキンっと大きな金属音と共に空中で静止した。

 間に入った俺の剣が空の剣を受け止めたのだ。

 今の俺の姿は冒険者バーンだからな、助けても大丈夫だろうと思っていたのだが……。


「り、陸さん?」

「あ、陸様だ」


 あ、あれ、何で分かったクラリッサ、リタ?

 振り向くとセーラが「あ~あ」と溜息をついていた。


「陸さん言い忘れてましたが、強いショックを受けると元に戻ってしまうんですよ」


 俺と同じく元に戻ったセーラが俺に近付き耳元でそう囁く。お前まで元の姿に戻る必要は無かったんじゃないか?


「何故ここに? いや会いたかったぞ、陸様!」

「私に会いに来てくださったのですね、陸様!」


 俺に気付いたエリザベートとヴィクトリアが驚いた様子で俺に話しかけるが、ありがたい事に空のせいで俺に近付けないでいた。

 ん? 何故か俺達が別人に化けていた事がバレていない様なんだが、変化が解けた瞬間を見られてなかったのか? 

 ……ちなみに俺達をここに連れてきたバーンの仲間達は、とっくにこの場から逃げ出していた。

 まぁ変装していた事がバレていないのなら、その方がいいがな。説明が面倒だし。

 それより今、俺がここに居る不自然さを突っ込まないでいてくれると助かる……。



「クラリッサ、リタ大丈夫か? 王女と公爵令嬢の二人と一緒に下がっていてくれ」


 どの道全員邪魔なので、まとめて後ろに下がってもらった方がありがたい。


「貴様が陸か、俺の邪魔をするなぁ!」


 俺に斬撃を止められて暫く固まっていた空だが、俺がクラリッサ達を下がらせた事に気付き、怒りを露わにして襲い掛かって来た。

 こいつを見ていると勇者では無く、まるでモンスターの様だ。

 どうでもいいが俺の事を憶えてないのかね、元クラスメイトなのに。

 レベル差がほぼ無いのか、それとも俺の方がレベルが高いのか、空の魔剣による状態異常攻撃は、俺には効果を発揮していない。

 成程な、こいつは良くできた話だ。

 自分より弱い相手には圧倒的に強いが、同等以上ではそれなりの武器になってしまうその剣は、まるでこいつ、勇者空そのものではないか。

 可笑しくなって思わず口元が綻んでしまった。それを目ざとく見つけた空は更に怒りで顔を赤くして攻撃の手数を増やす。


「何を笑ってやがる、クソクソクソ何で当たらねぇ!」


 あれ? まさかこれが本気じゃ無いだろうな? さっき食事中に自分で俺より強いと豪語していた割には……その、何だ、弱いぞ?


「仕方ねぇ、俺の本気を見せてやるぜ!」

「おっ?」


 やっぱり奥の手を残してやがったか? 


「食らえぇぇぇ、絶技断空斬ーーーー!」


 は、恥ずかしい! 何だ、わざわざ技の名を叫ぶのかよ! 

 空は一旦間合いを開けると剣を大きく振りかぶり、渾身の力で振り下ろす。

 断空斬、一体どんな効果がある技なんだ?

 キィンという金属音が響き、さっきクラリッサ達を守った時と同様、空は俺に剣を止められた。


「ば、馬鹿な俺の断空斬が止められた……だと?」

「……断空……斬?」



 いやいやいや、アレは体重を乗せた只の大振りの一撃だぞ、とてもじゃないが絶技なんて大層なものでは無いぞ。

 こいつ本当は弱いんじゃないのか? いや、確かに人間側の者にしては強い方だが、正直言ってセーラの迷宮にいたセーラの配下達の方が遥かに強い。キングスで大羊に踏まれた近衛騎士隊長のガイよりもずっと弱い。


「おい、アニー手伝え、こいつ中々強いぞ……おいアニー?」


 相棒を呼ぶ空が彼女の方を振り向くと、アニーはセーラに絡まれ見動きが出来なくなっていた。何やっているんだ、知り合いなのか?


「セーラ、何でこんな所にいるのかな~なんて……?」

「あらあら、それはこっちの台詞ですよ~アニー、私は陸さんについて来ただけですから~」

「ま、まさか勇者陸ってセーラの……」

「ふふふ、そうですよ~だから邪魔しないで下さいね~」


 二人しか分からない会話をして、勝手に話が纏まってしまった様だ。

 しかし何だかセーラの方が立場が上の様に見えるのだが、まぁ気にしない事にする。


「空、帰るわよ」

「はっ? 帰るって俺はまだこいつ等に俺様の威光を……」

「いいから、帰るわよ! 今ならまだ間に合うわ、いいえ今しかないのよ」

「ど、どういう事だ……うわぁあああ!」


 では、皆さまごきげんようと言って、空の首根っこを掴んだアニーが部屋から逃げる様に去って行った。

 追いかける気も無いので放っておくことにする。

 不都合な事があるならとっくにセーラが何かしているだろう。セーラは性格的にああいう相手には容赦しない気がするし。

 恐らくだが以前セーラが言っていた、魔王を倒す為の勇者を育てている者が他にもいるってのは多分アニーの事なんだろう。そして育てている勇者は空なんだな。

 ……俺や空の他にもいるのだろうか?

 出来るだけ関わり合いになりたくないものである、だって面倒臭そうだしな。


 それはそうと、空を撃退したことで俺の推理した俺を陥れる為のクラリッサ達の思惑は回避できた筈だ。

 やっぱり俺の思い過ごし? 違うな、俺がクラリッサ達を空の剣から守った事で不幸な展開を回避できたのだ。

 ともかく、まずは一安心と言うと所だ……やれやれ。

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