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26・リタ 2

 勇者の陸様はあたしの名前を元の名前に戻してくれた。

 正直ハーマイオニーって言われても誰だって感じだったし、元のリタに戻ってとても嬉しかった。

 綺麗な女の人、クラリッサさんはあたしがクラリッサ姉と呼ぶ事を喜んでくれたし、とても親切にあたしの面倒を見てくれた。

 奴隷にされてから手入れされて無かった髪を綺麗に整えられた後、今までは布の服で防具なんて着せてもらえなかったあたしに、新品の綺麗な青色の衣服に丈夫そうな胸当て、刃こぼれの無い短剣、そして得意だった弓まで持たせてもらった。

 お金を出したのは陸様の方だったけど。

 でも何だろうこの違いは……本当に同じ勇者なのか?

 この勇者陸様って人はいい人過ぎる、何でかあたしが守ってやらなきゃって気持ちにさせられるんだ。

 しかも陸様はあたしの事を可愛いって……あたしより姉ちゃんのほうが綺麗で可愛いと思うけどな……で、でも少し嬉しいかな……エヘヘ。


 それからあたし達はイースの町に来た。陸様は初めて来たみたいだけどあたしはもう何度もここに来てたし、第一この町で前の変態勇者に買われたんだからな。

 そこで陸様とは別の勇者と遭遇した。その勇者は女の人で獣人の若い男を連れていたんだけど、何を思ったかその獣人達を解放してしまったんだ。

 奴隷のあたしが言うのも変な話だけど、そう簡単に奴隷を解放しちゃ駄目だと思うぞ。

 心配した通り、その自由になった奴隷は女の勇者を襲っていたんだ。でもそれを助けたのが陸様でその女勇者は無事だった。

 あたしだって前の変態勇者の所でもし奴隷を解放されたら、絶対復讐する自信があるぞ。伊達にあいつに殺されかけてないからな!

 陸様? 陸様には勿論そんな事しないよ。あたしは恩を仇で返すような真似はしないよ。姉ちゃんにそう育てられたんだから。

 

 ああ、話は変わるけどイースの町であたしは陸様に服を買って貰ったんだ、とても女の子らしい真っ白な柔らかい肌触りの布に綺麗な青色が入ったワンピース。

 あたしにはちょっと似合わないかなって思ってたけど、買ってくれるんならそりゃあ欲しいよ? あたしだって可愛い服に興味がない訳じゃないからな。

 あたしの姿を見てクラリッサ姉が陸様におねだりしてたのには笑っちゃったけど。大丈夫なのかな、陸様のお財布は?


 次に訪れた場所はウノーという村だった。

 村って言っても結構大きな村で店や宿屋なんかも普通にあって、教会なんかもあった。

 そこの教会に神官のセーラさんっていう女の人がいて、何でか陸様に凄く纏わりついていたんだ。それを見てクラリッサ姉が不機嫌になってたけど、あれって焼きもちっていうやつなのかな? 

 でもその後に二人共凄く仲良くなっていた。あたしともセーラのお姉ちゃんは仲良くしてくれた。

 その際に「私の事もセーラ姉って呼んでもいいのよ~」と何度も言うので、きっとそう呼んで欲しいのかなって思ってセーラ姉と呼んであげたら、凄く喜んで抱き付かれてしまった。……苦しい、姉ちゃんも結構胸が大きかったけどセーラ姉はもっと大きかった。むむむ、姉ちゃんのライバルになりそうだよなセーラ姉は。


 そのウノーの村に野盗が襲って来たんだ。

 どうやら野盗を討伐する為に冒険者の人達が野盗のねぐらに向かったんだけど、裏をかかれて手薄になった村を逆に襲って来たって、クラリッサ姉があたしに説明してくれた。

 ここの村人達は奴隷のあたしにも普通に接してくれた上に、美味しいお菓子とかも食べさせても貰った。教会に居たあたし達は村を救う為に戦おうと決めたんだ。

 ……お菓子を貰ったから戦う訳じゃないよ? 本当だよ。

 教会の外を見ると、あたしくらいの女の子が嫌らしい顔をした野盗に追われていて、あわや捕まろうとしてた。

 あたしは慌てて矢を抜いて弓を構えようとしたけど間に合いそうにはなかった……今、襲われようとしていた女の子が、あたしの頭の中で前の主である変態勇者があたし達を追いかけ回す姿と重なる。

 早く助けなきゃ! 急げば急ぐほど照準が合わない……。

 次の瞬間、野盗は血を出しながら地面にへばりついていた……陸様がなんの躊躇もなく野盗を切り伏せていたんだ。

 女の子は無事に教会まで逃げ込みセーラ姉が抱きかかえている。

 改めて陸様を見ると少し視界が歪んだ、何で泣いてるんだろう? あたしは……。

 気を取り直して涙を拭いてからクラリッサ姉と共に教会を飛び出した。

 あたしも陸様みたいに村人を助けるんだ。クラリッサ姉もそのつもりみたいだしな。

 その後、応援に駆け付けたセーラ姉と一緒に野盗を討伐したんだ。殆んどセーラ姉とクラリッサ姉の魔法のおかげだけどね。

 でも陸様の最初の女の子を助けた行動が無かったら、あたし達はこんなに頑張って野盗と戦わなかったと思う。陸様は役に立たなかったなって言ってるけど、あたしはそんな事はないと思うぞ。

 そんな陸様を見てあたしは決めた。陸様には姉ちゃんをお嫁に貰ってもらおうと……その為にはまず姉ちゃんをあの変態から取り戻さないとな。


 <>


 あたし達は今、山に登っている。

 何でか? この山の頂上にお爺さんが住んでいて、そのお爺さんが船に乗る為の券をくれるらしいんだ。

 その山登りの途中で会いたかった人と会いたくなかった奴と再会した。


「お、おい何だその奴隷! 何処で買った?」


 あの変態勇者が、事もあろうにあたしを指差しそう言ったのだ。


「あ、あたしの事……むぐっ」


 陸様に口を塞がれてしまった。

 ……ああもう、わかったよ陸様、口を塞いだって事は余計な事は言うなって事だろ? でも腹立つんだよ、この変態勇者には!

 あいつの後ろには両手を組み涙を浮かべて何度も頷いている姉ちゃんの姿が……うううっ、今すぐにでも姉ちゃんに抱きつきたい。

 姉ちゃんを助けたいけど今は駄目だ、あの変態勇者が主のうちは下手な事は出来ない。殺されかけたあたしが言うんだから間違いないだろ?

 他の子達を見るとあたしの代わりに入ったのか、見た事の無い凄く可愛い幼い獣人の子がいた。

 変態勇者はその子を乱暴に引き寄せ陸様に自慢する。確かに可愛い子だけど目が少しはれていてしかも傷だらけで痛々しい。あたしが言うのも何だけどもう少し優しく扱ってあげろよな! フン!

 休んでいる変態勇者に引き連れられた姉ちゃん達を置いて先に進む。クソ我慢だあたし……きっと姉ちゃんを助けられる日が来る、いや来させる!

 少し進むと巨大な熊のモンスターと遭遇した。

 陸様の指揮下、見事に熊のモンスターを討伐したんだけど、モンスターが倒れた次の瞬間には、変態勇者が姉ちゃん達を連れてそそくさと先に行ってしまった。

 姉ちゃんは何度も謝る様に頭を下げていたが、姉ちゃんのせいじゃ無いだろ! 思い起こせばあの変態勇者はいつもそうだ、楽をして自分だけが得をする生き方をする奴、少しは陸様を見習えってんだ!


 山頂のお爺さんの屋敷に着いたら何と船に乗る為の券を欲しければ、料理を作れと言われた……。

 あたし料理なんか出来ないぞ? クラリッサ姉を見ると脂汗をダラダラと流していた。うんクラリッサ姉も駄目そうだね。この中で料理が一番できそうなのは陸様だけだった。ガンバレ陸様!

 三人で協力しながら頑張ったけどまともな料理が完成する気がしない……。

 眠そうなあたし達に陸様は先に休んでくれと言ってくれた。正直瞼がくっ付きそうだったからそうさせてもらう事にするよ……。

 頑張る陸様を調理室において部屋に戻ろうとしたら、廊下で小さな女の子を連れた姉ちゃんとばったり会った。

 クラリッサ姉は気を利かせてくれたのか先に部屋へ行ってくれた。

 あたしは奴隷になる前と比べて随分汚れて傷だらけになった姉ちゃんを見つめる。


「姉ちゃん!」

「……」


 姉ちゃんからの返事は無い。そうか、他の人とは喋れないようにされてるんだった。

 姉ちゃんはあたしに近づくと優しく抱きつき頭を撫でてくれた。懐かしい、とても懐かしい感覚だった。いつの間にあたしも姉ちゃんも涙でぐちゃぐちゃだ。

 見知った小さな女の子もあたし達の事を知っていたので、声もかけずに待っていてくれたんだけど、どうやらトイレに行く途中だったらしく、お漏らしをさせてしまった……ゴメン。

 奴隷の身分は変わらないけど、あたしだけあの変態勇者から解放されて他の娘達からは恨まれてないか不安だったけど、そんな事は無かったみたいで安心した。この娘達も出来れば助けたいけど……。

 いつまでも廊下に居る訳にはいかないので、名残惜しいけど姉ちゃんとは分かれた。必ず助けるからね、待っててくれよ姉ちゃん。

 翌朝変態勇者と姉ちゃん達はもう居なかった。姉ちゃんが料理上手だし困る事なんて無かったんだろうな。

 それより驚いたのは陸様が料理を作れるようになってたことだ。たった一晩で凄いよ陸様!

 姉ちゃんも陸様も料理が出来るし、子供にも優しい。中々お似合いの二人だと思うな、うん。


 船に乗れる券を手に入れたけど、先に大きな教会のあるエルザードという町に行くそうだ。

 そこで神官系の魔法の書を見て回りながら、暫く休暇にするんだって、あたしも知らない町だし少し楽しみだぞ。

 数日後、宿でゆっくりしてたらセーラ姉の使いっていう騎士が陸様を呼びに来た。セーラ姉ってひょっとして凄く偉い人なのかな?

 どうやら教会の出す依頼を受けてほしいそうなんだ。神官の護衛で何か所かに行き先別に別れるらしいけど、その中の一人にセーラ姉も居た。

 やっぱり陸様と一緒に旅がしたかったんだなセーラ姉は。

 でも陸様は隣の国に行くセーラ姉の所じゃ無く、アルメリアに向かうお爺ちゃん神官の元に行った。

 セーラ姉が見た事の無い様な情けない顔をしていた。完全に当てが外れたって感じだ。あたしとしてはセーラ姉は姉ちゃんのライバルになりそうなので、これでいいやとホッとしていた。ゴメンなセーラ姉。

 でも陸様はセーラ姉と一緒に行くべきだったと、後からあたしは後悔したんだ……。


 <>


 あたしは奴隷から解放された。アルメリアの第三王女と陸様のお金のお陰で……。

 でもあたしは嬉しくなかった。いや奴隷から解放されたのは嬉しいよ、でも陸様が王国の騎士に捕まってしまったんだ。

 陸様に何かの間違いだから騎士に剣を向けるなって言われなけりゃ、あたしは我慢できなかっただろう。

 でも凄く悔しくて涙が出て来た。そんな時クラリッサ姉があたしを見つけてくれて思わず抱き付いてしまった。

 それからここに一緒に来たお爺ちゃん神官様の力を借りて陸様の無実を証明したんだけど、陸様は既にこの国から追放された後だった。

 元凶の王女様はあたし達に床に頭を擦り付けて謝っていた。

 勿論そのくらいじゃ許す事は出来ないけど、王女様が平民や元奴隷にこんな態度を取る事なんて在り得ないって事は分かる。つまり心の底から謝罪してるって事だと思うんだ。

 陸様を探すなら王女様の力を借りるのが良いと思う、だって国の力を使うって事だろし。

 でも一緒に行動しててクラリッサ姉と王女様は、何だか空回りしている気がしないでもなかった。根拠はないけど何となくそう思ってしまっただけだけど。


 暫く探し回った後に陸様は海の向こうにいると報告があり、期待に胸を膨らませながらカインっていう港町に来た時だった。

 国の命令で陸様を探していた人から陸様の行方を聞いたんだ……でも……。

 陸様は迷宮って所で亡くなったらしい。 

 それを聞いてクラリッサ姉は倒れるし、王女様は悔しそうに眼に涙を浮かべていた。

 ……でもあたしは陸様が死んだなんて思ってなかった。絶対に何処かで生きてる、あたしの勘がそう言っている。

 確かに根拠がないから、数か月経った頃には自信が無くなって暫くベットに入って落ち込んでいたけどね。


 でもやっぱり陸様は生きていた。

 元気を取り戻したクラリッサ姉と王女様と一緒に再び海を越えて陸様に会う為に旅立ったあたし達だった。

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