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23・クラリッサ 2

 隣町のイースに来た時です、勇者の女性が獣人の男性に襲われていました。

 その獣人は彼女の元奴隷だったそうで、奴隷解放をしたところ襲われたのです。幸いにも陸さんと私達が助けに入ったので事なきを得ました。

 そしてこの後、私は信じられない光景を目にします。

 陸さんが全てを失った女勇者様に、ご自分の金貨を貸し与えたのです。信じられません、こんなことをする人、見た事がありませんよ。聖人なんですか陸さんは?

 私は心底陸さんの従者になって良かったと思います。

 もし今リタが奴隷から解放されても、あの女勇者を襲った獣人みたいには絶対にならないでしょう。リタは陸さんが大好きですからね。


 ウーノの村で私的、大事件が起きます。

 セーラさんという女性神官が陸さんにちょっかいを出してきたのです。むむ、やはり陸さんの良さは分かる人には分かるのですね。

 このセーラさんという女性、ボンキュボンのナイスバディで恐るべきスペックの持ち主だったのです。正直、私大ピンチですよ!

 教会でセーラさんと話す機会がありました。

 それとなく陸さんのどこが好きになったのか聞いてみたところ、大変な答えが返ってきました。


「う~ん、一目惚れかしら」


 ガーン! 一目惚れ程厄介なものはありません。

 一見理由も無いのに惚れたのか、と軽く考えそうなものですが、よくよく考えてみると理由が無いのに好きになっているのです。これはもう最強ですよ、どうしょうもありません。

 ですがむざむざ陸さんを渡す訳にはいきませんよ。ええ、渡しませんとも。


 このウノーの村に野盗が襲って来たのですが、勇者の陸さんを中心にセーラさんの力を借りて見事に撃退しました。勿論私もリタも頑張りましたよ。

 これで陸さんの名声も上がったでしょう。

 セーラさんの様に陸さんに言い寄る人が増えるのは困りますが、陸さんが素晴らしい勇者だと認められるのはとても良い事です。このウノーの村では陸さんは英雄扱いですからね。

 幸いな事に陸さんはセーラさんを仲間にするつもりは無い様です。

 流石です陸さん、陸さんはセーラさんの容姿に惑わされる事など無かったのです。

 セーラさんの実力に文句は無いのですが、私としては一安心です。

 だってあの女性の魅力満載のセーラさんの色香に、いつ陸さんが惑わされるか分かりませんからね。

 え? 信じてますよ、私は陸さんを信じてます……ですが万が一って事もあるかもしれないじゃないですか……。


 舟を乗る為のパスをくれるという御老人の所へ行った時の事です。陸さんの恐るべき能力の一端を見せてもらいました。

 船のパスを貰うには御老人を納得させるほどの料理を作れという、無茶振りをされたのです。

 困りました、私達は三人共料理が出来ないのです。

 ですが翌日、陸さんは料理が出来なかったのに、たった一晩で料理を作れるようになっていました。驚きです、一体どんな魔法を使ったのでしょう?

 ちなみにここにはあのリタを苦しめた勇者が居たのですが、彼は綺麗になったリタに全く気付かなかった様です。逃がした魚は大きかったですね、ザマァですよ。

 だた、あの人に私達は利用されてばかりでしたけどね……。

 私達にモンスターを倒させたり、先に料理を作って抜け駆けしたり、本当に性格の悪い勇者ですよ、あの人は。


 エルザードの町で迂闊にもセーラさんに見つかってしまいました。

 大聖堂の依頼を受けたのですが、上手くセーラさんと行き先を別に出来たので良しとしましょう。セーラさんはまだ陸さんを狙っているようでしたからね。

 私達一行は年配の神官様を護衛しながら王都アルメリアへ向かいます。

 途中、イースの町に立ち寄って町の困った人達を助けて回りました。陸さんは嫌な顔一つせず、神官様のお手伝いをしています。本当に出来た方ですね、私も鼻が高いです。


 王都アルメリアに着いてから、私はある事を思い出し陸さんと別れ魔法使いギルドへ向かいました。

 確か新しい魔導書が出ている筈なのです。それは勇者の陸さんも使える魔法で、プレゼントすればきっと喜んでくれると思います。

 うふふ、陸さんの喜ぶ顔が目に浮かぶようです。


 夕方になっても宿に陸さんとリタが帰って来ません。何かあったのでしょうか? 仕方がないですね、少し探しに町に出てみましょう。

 日が沈む頃、リタを見つけました。

 どうやらリタも私を探していた様です。彼女は私を見つけると涙目で抱き付いて来て、意味の分からない事を喋りまくります。

 そして気付きました、彼女の首に隷属の首輪が無い事を。

 どういう事なんでしょう? 取り敢えずリタを落ち着かせます。そして順を追って何があったのかを、彼女から聞き出しました。

 私は目の前が真っ暗になりました。別に魔法をかけられた訳ではありません、言葉の綾です。

 何と陸さんが王国の騎士達に捕まってしまったとの事です。意味が分かりません、ええ分かりませんとも!

 リタを連れ城へ乗り込みますが、門前の兵士は取り合ってもらえません。如何に私が勇者の従者であっても、陸さんが居なければ私は一介の冒険者に過ぎないからです。

 きっと大丈夫、きっと何かの間違いだと自分に言い聞かせて、ここまで護衛で送ってきた神官様の指定した宿に戻りました。

 そうです神官様です。神官様が居れば私を城に入れて下さるでしょう。そして陸さんに会わせてくれるに違いありません、神官様は陸さんを気に入っていましたからね。


 翌日、城の正門の前で神官様を待ちます。

 万一、神官様が他の門から出てしまい、すれ違いになってしまったとしても、神官様は陸さんに報酬を払う為に宿に向かうでしょうし、宿には私達が正門で待っていると伝えてあります。抜かりはありません。

 神官様が城から出て来たのはその日の夕方でした。神官様は私達がゆっくり宿でくつろいでいると思っていた様です。


「何と、陸君が城の騎士に捕まっているとな?」


 神官様も知らなかった様です。

 私とリタは神官様に連れられ城に入ります。流石は大聖堂の神官様ですね、昨日は止められたのに直ぐに中に通されました。

 神官様が私達の代わりに抗議をしてくれましたが、詳細を調べると言って結局その日は何も分からずじまいでした。

 ただ今日は神官様のお陰で城に泊まっていく事になり、詳細が分かり次第、陸さんに会わせて貰える予定です。

 無いとは思いますが、いくら捕まっているとは言え、勇者である陸さんを牢屋などには入れてないですよね? そんな事を考えていると眠れそうにありません。

 いやいや、落ち着こう私。

 きっと大丈夫、陸さんは疑いをかけられたとはいえ勇者です。この城の何処かの部屋に泊まっているでしょう。


 その翌日、つまり陸さんが居なくなって三日目、私達は神官様と共に城の会議室の様な場所に案内されます。

 会議室と言っても王都の城にある会議室です。至る所に豪華で目も眩む様な装飾がされた部屋に、私が居るという場違い感がぬぐえません。

 部屋には何と宰相様と第三王女様がお待ちになっておいででした。勇者である陸さんを捕まえた理由を、この方達が教えてくれるのでしょうか?

 席に着くと、おもむろにリタが声を上げます。


「あー思い出した! この人……むぐっ」

「黙りなさいリタ、失礼でしょ。申し訳ありません、この子が失礼をはたらきまして、お許し下さい」


 私はリタが指を差した王族である第三王女に頭を下げました、勿論リタの頭も下げさせます。こんな失礼をはたらいたら切り捨てられても文句は言えないですからね。

 私は内心、汗ダラダラです。


「よい、気にするでない」


 少し顔が引きつって見えましたが、王女様は気にして無い様でした。ふぅ心の広い王女様で良かったです。


「それで勇者柏木陸様だが、どうなっておるのかのぅ?」


 神官様が早速陸さんの事を聞くために口を開いて下さいました。


「申し訳ない。騎士の中に勇者陸様を、奴隷を連れて虐待しているけしからん冒険者だと、勘違いした者がいた様なのだ」

「何と……」


 宰相様の言い訳の内容に流石の神官様も呆れ顔です、勿論私もですが。


「陸さんは優しくて、とても立派な勇者様です。共に旅をしてきた私が保証します!」


 一介の冒険者の保証など意味が無いかもしれませんが、言わずにはいられません。


「だが、泣いている奴隷を見かけた者がおってな」

「あれは前の主人の所に居る姉ちゃんを思い出していたんだよ、あたしだけ陸様に助けてもらって、こんなに幸せでいいのかなって……」

「えええーーっ!」


 リタの話に何故か王女様が大声を上げました。一体どうしたのでしょう?


「えっと、リタは前の主人に命の危険があるくらいに虐待されてまして、それを陸さんが引き取ったのです」


 本当は買い取ったですが、イメージが悪そうなので少しアレンジしました。この位は良いでしょう? 


「そ、そうなのか……」


 王女様の顔色が悪いですね、何処か具合でも悪いのでしょうか?


「彼は大陸に渡って活躍している勇者程ではないが、ウノーの村を襲う野盗を倒したり、困っていた同僚の勇者に手を貸したり、立派な勇者であり出来た青年でしたぞ」


 すかさず神官様が陸さんの行いを宰相様や王女様にアピールしてくれました。もっと言ってやって下さい神官様!


「それにな、大聖堂の聖女セーラ様が大変お気に入りでな、この事が公になれば教会との間に埋めようのない溝ができるやもしれんな……王国も聖女を……いや大聖堂を敵に回したくはあるまい?」

「あわわわわわっ」

「お、王女様?」


 第三王女はいきなり立ち上がったと思ったら、泡をふいて倒れてしまいました。やはり体調が悪かったのでしょうか……。

 慌てて護衛の騎士が王女様を運び出します。

 宰相様も神官様も目を丸くして驚いていました。王女様ご無事だといいのだけれど、心配です。


「ともかく、勇者陸殿の行方なのですが……」


 宰相様は凄く言いにくそうな顔をしています。城の騎士達は陸さんに一体何をしたのでしょう……。


「昨日の早朝、僅かな銀貨だけを渡し裏門より追い出したとの事だ。……も、勿論既に勇者様を探し出す様に兵を放っているのだが……すまぬ。この通りだ」

「あ、あの、冒険者カードを見れば勇者だと分かった筈ですよね? 宰相様」

「そ、それがな、騎士によると只の冒険者だと思い込んで、良く調べなかった様なのだ。その騎士も誰が指示したのか、はぐらかして口を割らん。だがすぐに吐かせよう、これは内々に済まされる問題では無いからな、儂の名に誓い必ず勇者陸殿の汚名を晴らそう」


 宰相様はそう言って下さいましたが、納得できる筈もありません。

 しかしここで私が暴れてしまっては、せっかく城の中に連れて来ていただいた神官様にご迷惑がかかってしまいます。


「あの、さっきクラリッサ姉に口を塞がれて喋れなかったんだけどさぁ、多分犯人はあのお姫様だぞ。あたし、あの人にナントカ管理事務所ってとこに連れてかれて、奴隷から解放されたんだよ。お金は陸様のお金を使ったって言ってたし」


 リタの暴露にここに居る私、神官様、宰相様が口をあんぐり開けたまま固まってしまいました。

 それが本当なら、断罪されるべき者は先程までここに居たのですから。

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