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21・最下層

 セーラが手をかざすと上への階段が消えて壁だけになる。

 丁度顔の辺りの高さにある壁の一部が左右に開き、十個のボタンが現れた。セーラはそのボタンをリズミカルにピッポッパッと打ち込みをする。

 ……暗証番号入力かよ! 

 その後石像の部屋に戻ると、そこはさっきまでの宝箱と石像のある部屋では無く、下層階へ行くエレベーターのある部屋に変わっていた。


「じゃじゃ~ん」


 セーラがドヤ顔だ。はいはい、自慢したいんだな。


「凄いな、こんな所にエレベーターか。凝ったギミックだな」

「ふふふ、秘密ですよ~」


 満足気なセーラに連れられて下層階に向かう。

 ……かなり長い時間エレベーターは下に向い降りている。あ、あれ、もしかしてこの迷宮かなりの深さがあるのでは?

 地下何層あるのか聞くのが怖いので、別に聞かなくてもいいか、うん。


 しかし俺はこれから一体何をされるのだろうか? 普段と変わらないセーラが余計に不気味だ。

 扉が開くと明らかに人間ではない者達が、驚きの表情で俺達を迎えた。そりゃあそうだよな。


「セーラ様、その人間は何者ですか?」

「そこの人間、セーラ様から離れろ、殺すぞ!」

「セーラ様こちらへ、人間と一緒になど穢れてしまいます!」


 酷い言われようだ。まぁ、あちらの者達にしてみればそう言いたくはなるよな。

 セーラがにこやかな顔で一歩踏み出し、彼らに告げる。


「お黙りなさい、将来私の伴侶となる方に何て口のきき方ですか。もし彼に手を出して御覧なさい、本人はもとより一族皆殺しにしますよ?」


 彼らは全員ひれ伏してガタガタ震えていた。セーラってひょっとして結構、いやかなり偉い幹部なのか?

 それにしても伴侶とは何てことを言ってくれやがる。


「さぁ行きましょ~陸さん~」


 ニコニコな顔で俺の手を引き奥へ進む。

 ひれ伏していた顔を上げた彼らの表情は、俺に対して怒ったり憎んだりとかではなく、ただ羨ましいとか悔しいとかの顔つきをしているように見えた。

 こっち側でもセーラは人気があるみたいだな……この女、絶対に色欲の何とかいう女に違いない。


「どうぞ、お入り下さい陸さん」

「おおっ」


 通された部屋は迷宮地下とは思えない豪勢な造りだった。まるで貴族屋敷の部屋の様だ……貴族の屋敷なんて行ったことないけど。


「で、陸さん、式はいつにします? 子供は何人くらい欲しいですか~?」


 両手を胸の前に合わせ、俺の顔を覗き込む様に問いかけるセーラ。


「……冗談はその辺にして、説明して欲しいんだが」

「……冗談じゃないのに~」


 プゥと頬を膨らませて拗ねてしまった。俺にどうしろと?


「まぁいいです、陸さんも混乱しているでしょうから」


 今のお前程じゃねぇよ。


「ああ、じゃあ説明を頼む」


 フカフカのソファーに座る様に勧められ、腰掛けると秘書の様な魔族っぽい女が茶を持ってきてくれた。

 ……毒とか入って無いだろうな? いや入ってると思うな、だってその秘書は凄い目付きで俺を睨んでいたからな。

 秘書が出て行った後、セーラが俺に向ってニッコリ笑い……。


「実は私、この迷宮の主なんですよ~」


 さらっと爆弾発言が出やがった。所謂ダンジョンマスターってやつか?


「その迷宮の主様が大聖堂の神官も兼業してるのか」

「ふふ、順を追って説明しますね」


 セーラは「慌てちゃ駄目です」とウィンクをしながら指を左右に振った。

 一々色香を振りまかなければ気が済まないのか、この淫乱女。


 お茶目に振る舞っているがその姿に騙されちゃ駄目だ、俺の予想通りこの女は油断のならない女だったのだから。

 人は見た目によらないとはこの事だ、セーラは人族じゃなく魔族だったがそんな事は些細な問題だ。


「私、魔王軍の十二将の一人なんですけど、魔王様から特命を受けていまして」

「……セーラさん十二将ってまさか」

「はい、魔王様直属の大幹部ですよ~」


 はい、またまた爆弾発言頂きました。大幹部ですよ~じゃないぞ全く。


「魔王様は私を呼び出してこう仰りました……」


 突然セーラは真剣な眼差しを向けてそう語り始めた。


「我等魔王軍に対抗する為に定期的に勇者を召喚し続ける人間達、しかし前回勇者が我、魔王の下に現れたのはおよそ百年も昔になると」


 俺が気になったのは勇者を定期的にってところだ、一体どれだけの人間が召喚されたのだろう?

 ん、百年前だって? 勇者は百年間召喚されてないのか? アルメニアの様子からしてそんな感じではないのだが……。

 セーラは表情と口調を少しだけ和らげ、話を続けた。


「魔王様の下までたどり着けなくても、勇者が何とか十二将の一人を倒したのも、もう五十年以上前で、倒された十二将には既に後継者ができていて十二将に欠番は無しという有り様……それ以降は勇者が召喚されても、幹部までたどり着いた勇者は只の一人もいませんでした」


 ああ、そういう事か、勇者は本当に頻繁に召喚されているけど、魔王どころか幹部にも、ほぼたどり着いていなかったんだな。

 要するに現状、魔王軍は常に万全な体制なんだな。何の問題も無いように聞こえるが。


「……そして魔王様はこう仰いました」

「……」

「……ヒマだと!」

「……は?」

「だ~か~ら~暇なんですって、待てど暮らせど一向に勇者が来ないんですよ。まったく人間は何してるのよって感じですよね」


 セーラの表情は一転して明るいものになっていた。はぁ、こんな時に冗談なんて程々にしろってものだ。


「はぁ、それで?」

「だから魔王様は強者に飢えてるの、いっそ自分を滅ぼすくらいの勇者が来ないかな~何てことまで言い出してるのよ。私達が仮想勇者をして魔王様の相手をするのもしんどいんだから!」

「……それはすまんかった」


 まだ続けるのか……おれは溜息をついて肩を竦めた。 真面目に聞いて損した。


「で、本当はどうなんだ? 魔王の命令ってのは本当なのか? 訳も暇だって事はないだろう?」

「ふふふ、さぁ~どうなんでしょうね~、少なくとも半分は本当の事ですよ」

「それじゃあ半分は嘘って事じゃないか、全く……」


 俺の呆れる様子を見たセーラは、首を竦め舌を出してウィンクをした。

 なまじ綺麗なだけに破壊力抜群の仕草だ、やれやれ。

 はぐらかしているのか、ごまかしているのかは知らないが、急に下らない方向に話を振りやがって。喋れない事なら茶化さずに素直にそう言えよ、全く。


「本当の理由はどうあれ、魔王様が自分を倒せるくらいの強き者を求めているのは本当の事よ。その為には手段を選ぶ必要はない、必要なら育てろとまで仰ったわ。つまり勇者一行や冒険者を助けたり育てたりしてるのは魔王様の指示って訳なの」


 マジで大ボス直々の指示なのかよ。


「じゃあ、何でセーラさんは神官なんてやってたんだ?」

「ああ、あれね。この迷宮で色々冒険者達を助けたりしていたら、いつの間にか聖女様とか祭られちゃってね。それから是非にって大聖堂まで案内されたんだけど、何故か役職まで貰っちゃてさ。しかも一向に私が魔族だって気付かれないしね~」


 アカンやん、何してんだよ大聖堂の偉い人達は!


「まぁいいや、それでそこまで話したって事は俺をもう逃がさないつもりだろう? それで俺に何をさせるつもりだ?」


 話の流れから俺を育てるつもりなのか? 


「ふふふ、流石陸さん動じてませんね~、陸さん貴方にはここで強くなってもらいます」

「やっぱりか……」

「そして、私を娶ってもらいます!」

「それは断る!」

「ええ~いいじゃないですか~!」

「何で俺なんだ、他に良い男がたくさんいるだろ? 理由を言え理由を」

「……一目ぼれ?」


 何で疑問形なんだよ。

 まぁ、ここで強くしてもらえるのは悪い話ではないが。

 くそ、それにしてもセーラの俺に対する本当の目的は何だ? 魔王を倒せるくらいに育てるつもりなら別に俺でなくてもいいし、有能な勇者は他にもいるだろう。俺を選んだ理由は何なんだ?

 そもそも魔王が自分を倒せるくらいの勇者を育てろと指示をしたって……そんな情報を鵜呑みできるか! それも嘘なんじゃないのか?

 第一、嘘をつくにも一目ぼれはないだろ、ふざけやがって。


 <>


 セーラに拉致されて約四か月の時が過ぎた。

 迷宮地下最下層付近のモンスターや時折セーラの配下達と戦いまくり、レベルもかなり上がった。

 いや正直、楽ちんパワーレベリングでもやるのかと思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。

 何度も死にそうな目にあって、その度に強制治癒を繰り返したのだ。これはもう虐めである。

 最初の内はセーラの配下に恨みを晴らされる様な勢いで叩きのめされ、毎日ボロボロにされていた。

 わざとかは知らないが、セーラがよく俺にべったりくっ付いてくるので、セーラの配下達の反感を買い余計強烈に叩きのめされるのだ。

 しかし今では集団でかかって来られない限りは、返り討ちできる程に成長した。

 勇者の成長速度はこの世界の一般の冒険者よりは早いらしい。

 セーラの配下達は俺を呼ぶ時は、最初は「おい人間!」だったが、最近では陸殿に変わっていた。

 俺の事を少しは認めてくれた証だろうか。


「腕を上げたな陸殿、しかしまだまだその程度ではセーラ様は渡せんな!」

「然り、セーラ様を欲しいのなら、我々全員を倒して見せよ!」

「……いや、そーゆーのいいから」


 最近こんな感じになってきたのだ。

 まぁ、こいつ等はセーラと違って裏表無さそうだしな、ある意味信用できる。ただセーラのフェロモンに頭をやられている事は、いただけないけどな。


「ふふふ、陸さんが私の為に強くなるなんて嬉しいです……私はいつでもOKですよ~」


 何をだ? 

 相変わらず何を考えているのか分からん女だ。冴えない勇者の俺相手に何を企んでいるのだ?

 魔王に対抗出来できる者を育てる事を、魔王自身が望んでいるという、そんな奇妙な状況を利用させてもらって俺は強くさせてもらっているのだが、何故俺が選ばれたのかが未だに分からない。そうセーラが何故俺を選んだのか。

 それとなく聞いても「陸さんだからですよ~」とよくわからない台詞で、はぐらかされるばかりだしな。


「陸さんそろそろ迷宮を出て外で力試しでもしませんか~?」

「お、監禁から解放してくれるのか?」

「監禁じゃありません! 修行です人聞きが悪い言い方は止めて下さい!」

「ははは、すまん。それで何処に行くんだ?」

「そうですね、取り敢えずはこの国の王都キングスに行ってみましょう、その後は他の十二将に会うのもいいですね~」

「ん、それはどういう意味だ?」

「ふふふ、だから力試しですよ~、それに運が良ければ他の陸さんみたいな人達に会えるかもしれませんよ~」


 ……おいおい、まさかセーラの他にも魔王軍側が力を貸して育てている勇者がいるって事か?

 まぁいいか、何時までもここに居ても仕方がないからな。

 そろそろアルメリアの事件のほとぼりがさめていればいいが……もう二度とアルメリアに行く気はないがな。


 久しぶりに外に出た。うん、いきなりここへ来て迷宮に入った為、全く景色に見覚えが無い。

 俺の横にはニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべているセーラ。

 ……まさかこいつが一緒に付いて来るんじゃないだろうな? 


「ふふふ、新婚旅行の下見もいいですね~」


 何か寝言を言っているセーラ。


「何でセーラさんがいるんだ?」

「ええ~、酷いです陸さん~」


 てっきり配下の誰かが見張りとしてついて来ると思っていたんだが、よりによってセーラ本人とは、しかも二人っきりかよ。

 それよりセーラ、お前迷宮の主だろ? 迷宮を放っておいていいのか?

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