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20・再会

 今回はやはり先に進むらしい。

 一休みして全員の体力を回復させてから、部屋の奥にある扉を開いた。

 ここから先は中二病君達も未知の領域だ。

 扉に入ると長細い通路になっていて、奥は広い部屋に繋がっていた。その部屋は奥行きが深い造りになっていて、最奥に宝箱が設置されていた。

 何か怪しいな。

 わざとらしく宝箱が置いてあるのもそうだが、その途中の左右に巨大な石像が立っている。

 これアレだろ、宝箱に近付いたりすると襲い掛かってくるやつとか?

 さて中二病君はどうするのかと見てみると、宝箱を凝視したままウキウキ顔で何の警戒もなしに近付こうとしていた。それをパーティメンバーのお姉さん方が止めに入る。

 ……ああ、こいつは仲間に恵まれたな。今まで彼女達に助けられながら来たのだろう。

 隊列を整え、一パーティずつ石像と向き合いながら少しずつ近づいたが何の反応もない。ああ、これは宝箱を開いたら襲ってくるタイプかもな。

 一応シーフのお姉さんが宝箱の罠を調べている。首を横に振っているところを見ると解除は難しそうだ。


「多分宝箱を開けたら起動する罠よ、私のレベルでは解除は無理ね」

「罠の種類や効果は分かるか?」

「ええ、恐らくあの石像が襲ってくるでしょうね」


 やっぱりか……シーフさんのレベルが足りなくて罠の解除が無理って事は、あの石像はかなりの高レベルのモンスターになるんじゃないのか?

 宝箱を開けるのはやめておいた方がいいと思うんだけどな、中に入っているのが良い物とは限らないんだし。

 俺の思惑とは反対に、宝箱を開けて石像を倒すことに決めた様だ、やれやれ。

 中二病君のパーティと俺のパーティそれぞれが一体ずつ石像の相手をすることになったのだが、戦力バランスが今一おかしい。


「なぁ中二……じゃ無くてキット、こっちの魔法を使える奴が少なくないか?」


 今まで二パーティ同時に連携しながら戦って来たから問題無かったが、別々に戦うなら話は別だ。


「ああ分かっている、出来るだけこちらを早く倒してそっちに合流するから、それまで持たせてくれ」


 いや、それこそ無理だろ。そんな俺の心の叫びを無視する様に宝箱に手をかける中二病君。いやいや、お前が開くのかよ?

 宝箱を少し開いたところで大きな音をたて石像が動き出した。ああ、やっちゃったか仕方がない覚悟を決めるか。


「キット様!」


 視界の片隅で中二病君を見ると、彼は宝箱にもたれて倒れていた。

 ひょっとして毒針とか麻痺の罠とかも併用して設置されていたのか?

 慌てて神官の少女が中二病君を癒そうと呪文を唱えると、その彼女を狙って石像の巨大な拳が神官少女を襲った。

 咄嗟の事に盾役の者が間に合わなく、壁に叩き付けられる神官の少女。それを皮切に中二病君のパーティが崩壊していく。

 あ~あ、中二病君が戦闘の始まる前にいきなり倒れたので、焦った挙げ句に全ての対応が遅れたんだな。

 俺は自分のパーティに指示を送るが誰も言う事を聞いてはくれない。当然か彼女達の主はあの中二病君なのだから。

 さっきの部屋とは違い、幸いにして背後の通路は閉じてはいなかった。宝物を諦め退却したけりゃしろって事か、ありがたい。

 石像は物理攻撃だけでなく魔法も使ってきた。ああ、こりゃあ俺達のレベルじゃ敵わないモンスターだ。

 俺は撤退を進言するが、中二病君のパーティメンバーは彼を守る様にかたまり移動しようとしない。

 いや正確には彼を抱えて逃げようとしているが、強力な石像はそれを許さないのだ。中二病君を見捨てれば助かるのに律儀な事だ。

 無論、俺はあいつ等が居る部屋の奥にある宝箱の近くではなく、入り口の通路まで引いている。恐らく通路に逃げ込めば石像は襲って来ないと思う。明らかに通路の幅が石像より狭いからな。

 既に半数以下まで人数が減った頃、一人の少女が石像に殴りつけられ俺の方に転がって来た。

 流石にこの状況で見捨てる程、俺も鬼ではない。


「た、助けなきゃ……キット様を、必ず……助け……な……」


 だが俺は彼女に治癒魔法をかけようとして詠唱を止めた。

 彼女は既に動かなくなっていた。

 中二病君の仲間達、彼を入れて都合十一人全員が動かなくなると石像は元の場所に戻り、少し口が開いていた宝箱がゆっくりと閉じていった。

 俺は通路に逃げ込んでいた。案の定ここに居れば襲われる事はなかった。


「……はぁ」


 さっさと逃げりゃ良かったのに、なにも全滅するまで戦うことはないと思うがな。

 どうやらあの石像は宝箱に手をかけたのを合図に起動し、それからはこの部屋にいる者に対してのみ反応していた様だ。

 俺の様に一旦この通路に逃げ込み、石像が元に戻ってから中二病君を助けに行けばよかったのだ。多分だが宝箱を触らなければ石像は動かない筈だ。

 中二病君が倒れて皆、冷静な判断が出来なかったのだろうか?

 しかしどうしたものか、あの中には気を失っているだけの奴もいる、死んでる奴も教会に連れ込めば生き返る可能性もある……らしい。


「陸さん、貴方は宝箱に興味は無いのですか?」


 宝箱がある部屋の反対側の通路の奥、つまり俺達がやって来た部屋の方から聞き覚えのある声が俺の名を呼んだ。


「いや、あるにはあるがアレは遠慮しておくよ、セーラさん」


 そこには相変わらず妖艶な空気を纏った美女が、困った表情で俺を見つめて立っていた。

 ここは迷宮の地下八階から下り、勇者パーティしか入れない場所の筈だ。通常の地下九階に降りる階段は別にあるらしい。

 ここにセーラが一人で居るのはどういう事だ? 

 勇者のパーティに参加し全滅して取り残されたのか?

 否、そうでは無いだろう。

 セーラを見るに、勇者パーティが全滅するほどの激戦を潜りぬけて生き残った様子には見えない。傷どころか汚れ一つない姿は、明らかに不自然だ。

 なら彼女は最初からここにいたのか? いやそれは無い、それなら俺達が通過した時に気付くはずだしな。

 なら、彼女は迷宮の中を自由に歩き回れるのではないのか?

 つまり彼女は……。

 ……やれやれ、あの妖艶さと美貌はやけに人間離れしていると思っていたが、本当に人間では無かったのか。


「一つ聞いていいですか? 陸さん」

「何だい?」

「そこの陸さんのすぐ近くに転がっている少女、どうして回復させてあげなかったのですか?」


 そこまで見てたのかよ。

 俺の近くに吹っ飛ばされて回復してやろうとしていた少女、実は亡くなっているわけではなく気を失っているだけだ。

 ひょっとして最初から監視されていたのかもしれないな。答えをはぐらかしても意味がないので正直に答える事にした。


「あそこで回復させても、また石像に向かって突っ込んで行くだろ。何も死にに行く必要は無いからさ、それに行っても行かなくても結果は変わらないだろ」

「ふふ、流石ですね~正解ですよ。結果、彼女は気を失うだけで済んでますからね~」

「で、そっち側のセーラさんはどうするつもりなんだ? 俺を殺すのか?」

「まさか、私は陸さんをお慕いしているのですから、それは無いですよ~」


 心底不思議そうな顔をして首を傾げるセーラ。本気なのだろうか?


「まぁ陸さんの言うそっち側、つまり魔族側の者なのは間違いないですけどね。でもこの人達も出来るだけ助けますよ~。そういう計画ですからね~」

「ん、計画? 意味が分からないのだが」

「ふふ、後でちゃんと説明してあげますよ、陸さん」


 セーラはニッコリ笑って頬に手を当て、少し顔を赤らめる。何か嫌な予感しかしないんだが。

 セーラは宝箱の近くで大惨事になっている中二病君の仲間達に近寄って行った。


「あらあら、これは無茶したわねぇ~」


 俺は驚いた。何故ならセーラはなんとその場で蘇生魔法を唱えたのだ。

 比較的外傷の少ない者達が息を吹き返した。しかし蘇生魔法なんて初めて見たな。


「うう~ん、この娘とこの娘、あ~あの娘達も駄目ね~」


 ミンチ状態の者達は勿論、頭が無かったり体が引き裂かれて欠損部分が多かったりしている者は蘇生不可能な様だ。


「気を失っているだけの人はこっちの勇者様含めて三人と、蘇生で生き返ったのが二人ね、まぁこんなものでしょう」

「セーラさん助かる。ただ俺は生き残った奴らを地上に戻す術がない。いやそもそも、帰り道も分からないんだが……」


 俺はこいつ等について来ただけで碌にマッピングする余裕も無くて、帰り道が分からないのは本当だ。


「この人たちはちゃんと地上に返しますから安心してくださいな。それと陸さんは私と一緒に地下に来てもらいますので、帰りの心配をしなくても大丈夫ですよ?」

「は?」


 何ですと? 俺は地上に戻れないのかよ。

 ……今の俺には拒否権が無いから大人しく従うしかないのだが。


「ふふふ、ところで陸さん、この宝箱の中身は何だと思います?」

「ん? どうせ何も入っていないんだろ」

「……何で分かったんですか! エスパーなんですか?」


 何でエスパーって言葉を知ってやがるんだ、それと本当に何も入っていなかったのかよ。


「正確にはこの宝箱を全開に開けると~」


 おもむろに宝箱を開け放つセーラだが石像は動かない。多分管理者とか所有者とかになっていて罠が発動しないとかだと思う。

 ここに居た中二病君達一行が消え失せていた、死体になった冒険者達も含めてだ。部屋の中は飛び散った血や肉も綺麗に消えていて、最初にここに入った時と同じ様に戻っていた。


「テレポーターか」

「正解です~、一瞬でちゃんと地上に戻れますよ」

「宝は自分の命か、皮肉だな」

「え~ちゃんと宝も用意してますよ、そこに隠し扉があるじゃないですか~」


 セーラが指さした方向は宝箱の後ろの壁だ。そこに隠し扉があって、そこそこのお宝が隠されているらしい。しかし良いのか?


「だから、それも計画の一つなんです」


 だ、そうだ。


「じゃあ、行きましょう」


 セーラは有無を言わさず俺の手を握り、ムフフとニヤつきながら元来た通路を抜け、上への階段がある部屋に俺を連れ戻って行った。

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