2・狩り
賑やかな町を歩くと宿屋もそうだが、武器屋や防具屋などが結構あちらこちらに見かける。モンスターを狩って生活している者が多いということか。
ちなみに看板に書いてある文字が何故か読める。
言葉も最初から分かるしな、勇者の能力なのだろうか? その辺の説明は無かったな。
まぁ今は不便は無いし、そのうち調べる事にしよう……などと思っていたら理由をクラリッサが知っていた。
「この国の翻訳魔法は進んでいて、召喚時に翻訳が付与されるそうです」
「へぇ、便利なんだな」
「過去に何度も異世界から勇者様を召喚して、言語に困っていたので翻訳魔法が早々に発展したそうです」
過去に何度も? やはりこの国は何度も異世界から人間を拉致……ゲフンゲフン、召喚しているらしい。道理で手慣れている筈だ。
俺達が向かってる先は冒険者ギルドだ。
この世界に来た勇者が必ず最初にしなければいけないのが、冒険者ギルドで冒険者登録をすることなのだ。いわゆる強制イベント的なものだと思えばいいか。
冒険者ギルドの中に入ると既に、他の勇者達が受付に群がっていた。
流れ作業のように次々と登録を済まされる俺達。
まず指の先に針を刺し僅かな血を採取される。そして何かの魔道具らしい水晶に手を触れた後に、何故だか書ける異世界の文字で必要書類に記入をしていく。
文字が書けるのも翻訳魔法の副次効果だそうだ。
この便利魔法を作った奴は中々有能だよな。知りもしない魔法製作者に賛辞を送りたい気分だ。
しかし一斉にこんなに沢山の人間が受付に群がっても、スムーズに受付作業を行えるのは、勇者が召喚される度に行われる恒例作業で、マニュアルが確立しているからかもしれないな。
その後、広い部屋に集められて簡単な講義を受けて終了した。
「何かあっさり冒険者になれたな、緊張してきたのにちょっと拍子抜けだったよ」
「ふふ、勇者様は特別なんですよ。では私とパーティを組みましょう陸さん」
冒険者に登録されると、冒険者カードという自分の情報が記載されている手に入るくらいの板状のカードが与えられる。
そのカードはちょっとした身分証明替わりになったり、パーティを組む際にも必要らしい。
クラリッサとお互いのカードを重ねると、カードにパーティを組んだと示す新たな印が表示される。
俺とクラリッサがパーティだと認識されたようだ、これで色々な効果などが共有される筈だ。
万が一があった場合にパーティを組んだままなら、ある程度の場所なら分かるようになっているらしい、捜索などをされる際に利用されたりもする。残念ながらGPS程の性能ではないらしい。
冒険者カードに表記されたクラリッサの情報を見る。
名前と職業、そしてその職業のレベルが表示されていた……驚いたな、予想はしてたけど、まさか本当にゲームみたいだとは思わなかった。
ちなみに各種能力のステータスや、スキルみたいなものは冒険者カードには記載されてなかった。
レベルがあるくらいだしステータスの情報もあると思うが、誰でも見られる冒険者カードに記載される事はないみたいだ。
ふむ、一応個人情報だし、冒険者カードで直ぐにわかるような緩い管理にはなっている訳がないか。
「クラリッサは魔法使いなんだな、しかもレベルが高い」
「以前から冒険者をしてましたから、最初の方は私が陸さんをエスコートしますね」
「ああ、よろしく頼むよクラリッサ」
安全にレベルアップできるならそれに越したことは無い、彼女の行動理由がまだ分からないが、今は当てにさせてもらおう。
冒険者ギルドを出たとき、クラリッサをジッと見つめる男がいた。ああ、クラリッサを仲間にしようとして断られたリーダー君か。
何となく彼を見ていたら俺の視線を感じたのか、リーダー君と目が合ってしまった。
むぅ、男と見つめ合う趣味はないんだがな。
彼は慌てて目を逸らし、彼の女子だらけのパーティメンバーと共に何事もなかったかのように立ち去った。
……ふむ、俺は隣にいるクラリッサを眺める。
彼はそんなにクラリッサを仲間にできなかった事を悔しがっているのか?
確かにクラリッサはこの世界に来てから見かけた女の中で、一番の美少女かもしれない。
俺の視線に気付いたクラリッサは頬を赤らめながら首を傾げていた。彼女の長い栗色の髪が揺れる。
「どうしたのですか、陸さん?」
「いや、なんでもないよ。ただクラリッサは綺麗だなと思ってさ」
「……え?」
ボンッと音が聞こえそうなくらい真っ赤になって、両手で頬を抑え蹲るクラリッサ。
しまった、つい口に出てしまった! 完全に無意識だ。
俺が意識的にこんな恥ずかしい事を言える訳がないだろ?
コミュ症の俺がこんな恥ずかしい台詞を口にしてしまい心臓がバクバクである。
え? コミュ症は無意識であっても、そんな事を言えるわけがないって?
はははっじゃあ何か、俺はコミュ症ではないと? そんな馬鹿な……。
しかし、俺のようなイケメンでもない男に言われても気分が悪くなるだけだろうに、わざわざ照れてる演技をするとは、侮れんなクラリッサは。
ともかく俺達もこんな所にいつまでもいても意味はないし、移動をするとするか。
クラリッサが立ち直るのを待ってから、俺達は冒険者ギルドからの移動を開始したのだった。
戦闘に慣れるという意味も含めて、町から出た近場でモンスターを狩ってみる事にした。冒険者ギルドで討伐依頼が出ているモンスターを中心に狩ってみる事にする。
俺はまだ戦闘経験が無いがクラリッサがいるので大丈夫だろう。
思ったより剣が振れる。
身体の動きも以前の自分からしたら、考えられない程に軽くて調子が良い。
これはアレか、勇者の能力ってやつか?
……だが、調子乗って過信しないように気を付けよう。こういう些細な事で足をすくわれたりするものだ。
それにしてもモンスターを殺すこの感触、慣れたら慣れたでどうかと思うがこの世界で生きてく以上どうしょうも無いだろうな。
クラスメイトの中には、モンスターを殺すことが出来ない奴も出てくるだろう……俺が気にする事ではないが。
モンスターを倒すとそれが消えてお金とアイテムになるなんて馬鹿なことは無く、しっかりと死体が残る。これを解体して売ったり食べたりするのだ。
クラリッサは戦闘で倒した、凶悪な角が生えた羊のモンスターを器用に解体していた。
ここで「解体なんて出来ませ~ん」と泣きを入れてくるなら、ここでお別れするつもりだったが、見た目と違いちゃんとサバイバル出来る逞しい少女だった。
クラリッサ曰く、狩ったモンスターは冒険者ギルドで買い取りしてもらえるそうだが、解体しないままだと解体費用分が差し引かれ、かなり損をするそうだ。
「すまんがクラリッサ、俺にも解体の仕方を教えてくれないか?」
「はい、では一緒にやりましょう、陸さん」
クラリッサは快く承諾してくれた。
俺は心の中でクラリッサに偉そうなことを言ったが、実際には動物とかを一から解体したことは無い。元の世界の人間なら普通はそうだろう。
ふっ……正直グロい。魚を捌くのとはまた違った抵抗がある。
しかしこれに慣れておいた方が後々便利だ、必要と思われるスキルは覚えておくのが基本である。
それにいつクラリッサが俺の下から離れるか分からんからな。習得できる技能は少しでも習得しておこうと思うのだ。
「クラリッサは凄いな、こんな事まで出来るなんて」
「いえ、冒険者なら当然です。綺麗にきちんと解体ができていればいるほど、売る時も高値で買い取ってくれるんですよ」
「しっかりしてるな、クラリッサはいい奥さんになりそうだ」
「え、ええっ! そ、そんな私なんて……」
クラリッサが凄いと思うのは本音だし、いい奥さんになれそうだと言ったのも本音だ。ただ、どんな奴の嫁になるのかは知らんがな。
素直にクラリッサを褒めたら顔を赤らめて俯いてしまった。
ふむ、これが演技なら大抵の男はコロッと騙されてしまうな。
普通は俺程度の男に、いい奥さんに……なんて言われたなら、キモイとかセクハラと言われるのが関の山だ。よってクラリッサのこの態度も、本当は気持ち悪いのに俺を油断させる為の演技の可能性だってある。
俺は考えを悟らせない為にニッコリと笑って誤魔化した。我ながら自分を殴りたくなる程の気持ち悪い行動だ。
「いや、本当にそう思ってるよ、クラリッサが居てくれてとても助かっている」
「そんな、私なんかに勿体無いお言葉です、陸さん」
勿体無いのはこっちのセリフだ!
普通はこんな美少女が一緒に行動を共にしてくれるはずがない、頼んでも確実に断られる。
落ち着け俺、冷静になって考えよう。
これは恐らく勇者の称号があっての事なのだ、決して俺が魅力的な訳では断じて無い。
あれもこれも勇者だという特別な人間であるからだと、ゆめゆめ忘れぬように肝に銘じておかなければ、いずれ痛い目に遭うことだろう。