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19・迷宮

 貿易都市カインは思っていたよりも広く、人も多かった。

 流石都市と呼ばれる所だ、アルメリアの王都より都会ではないだろうか?

 ちなみに海を渡ったこの地は、アルメリア王国とは別の国になる。ここカインはキングス王国の一都市なのであった。

 都市カインの南には、このキングス王国の王都、国名と同じ名のキングスがあるらしい。


 ここで面白い話を耳にした。

 何でも都市カインから王都キングスの方へ向かった道中に、モンスターが生息する迷宮があるらしい。

 う~ん迷宮か……潜ればレベルも上げられそうだが、ソロじゃどうにもならん。

 自分からパーティを組めるなら最初から組んでいるしな、コミュ症を舐めてもらっては困る。

 そう言えばセーラはこのカインに来てたらしいな。

 あれから大分日数もたっているし、もう居ないだろうけど。今頃エルザードの町に帰っているだろう。

 カインにある冒険者ギルドの依頼掲示板の前で俺は腕を組みかなりの数の依頼書を眺めていた。

 ふむ、ソロの依頼は少ないな……。

 さて、どうするかと考えあぐねていたところ、見覚えある人物に声をかけられた。


「よう、久しぶりだな、アルメリアの城以来か?」

「ああ、久しぶり……お前、凄い人数を連れているな」

「はは、そうだろう照れるな」

「いや、別に褒めてはいないんだが」


 俺に声をかけてきた同じ勇者のこの男は、周りに数十人の女をはべらせていた。

 リーダー君より凄い光景だ、ちなみに奴隷ではなく全員ちゃんとした冒険者の様だ。

 ……この世界では勇者はモテるのだろうか?


「え~と君の名前は何だっけ?」


 彼からそう問いかけられる。

 やっぱり憶えて無いのか、俺もこいつの名前を憶えてないのでお互い様だがな。


「陸だ」


 面倒なので名前だけ名乗った。すると奴は何を思ったか、妙な事を口走った。


「陸、りくか……よし、君の事はランドと呼ぶ事にする。よろしくな」

「は、はぁ?」

「俺の事はキットと呼んでくれ!」


 ……キットって確か、某小説の主人公の名前だったはずだ。アニメ化もしている有名なやつだ。そう言えばこいつの恰好、その主人公の格好とよく似ている。

 ……格好だけだけどな、はっきり言って顔や背格好は全く似ていない。まるで残念コスプレーヤーの様だ。

 剣を背中に二本背負い、鎧では無く黒い服。

 防具を取り上げられた今の俺の姿を敢えて棚に上げるが、舐めているのかその恰好は? 鎧着ろよ。

 本人はキットと呼べと言っているが、俺は中二病君と呼びたい。うん、心の中ではそう呼ぶ事にしよう。


「ところで用はそれだけか?」

「いや、折り入って頼みがあるんだ」


 ほう、余程変な頼み以外なら受けるつもりだ。ここでうだうだしていても仕方がないからな。

 キットこと中二病君の依頼はこういう内容だった。

 彼はアニメの主人公気分で女の仲間を増やしたが、全員をパーティメンバーとして連れていく事はできなかった。

 それはパーティメンバーの上限は何故か六名と決められているからだ。つまり俺を雇って二つ目のパーティとして、ここに居る全員を連れて行こうという訳だ。

 なら女だけでパーティを組んで連れていけばいいと思ったのだが、そうもいかないらしい。

 今から行く迷宮には勇者のパーティしか入れない特別な区域が一部存在するらしいのだ。

 勇者のいない冒険者だけのパーティでは行けない場所なのだが、何とかして全員が行けないか考えていたところ、都合よく俺を見つけ声をかけたらしい。


「OK了解した」

「そうか、よろしく頼むぞ」


 中二病君は謎ポーズをして俺に答えた。

 何故だが取り巻きの女達にキャーキャー騒がれている。

 この男、確かに顔は悪くはないが其処まで騒がれる感じの容姿じゃないんだがなぁ、この世界ではいい男の部類に入るのだろうか?

 当然彼が真似をしているアニメのイケメン主人公には遠く及ばない。

 さて、行く前にここカインで少し装備を整えていくか。先日のイケメン君のお陰で資金にも余裕が出来たしな。

 早速翌日には迷宮に向けて出発するらしい。


 <>


 迷宮の入り口前には、こじんまりした小さな町が出来上がっていた。

 基本的に最寄りの都市カインから人が迷宮に来るのだが、一々カインに戻るのも効率が悪いので、必然的に出来た町がここなのだ。

 宿屋や簡素な道具屋、武器屋、防具屋が連なっている。ちなみに相場は高い、こいつ等足元を見てやがるな……。


 無料の空きスペースで休憩を取ってから迷宮に挑む。

 俺の任されたパーティは中二病君のパーティと比べて、少し残念な娘が多い……口には出さないが彼のお気に入りでは無い方々の様だ。

 そして俺に対するパーティメンバーからのブーイング。仕方がないだろ俺だって美人が多いあっちの方がいいんだよ、少しは気持ちを汲んでほしいものである。


「行くぞ皆、俺から離れるなよランド!」

「……ああ、分かった、キ、キット……」


 ノリノリの中二病君の機嫌を損ねないように会話を合わす。一応クライアントだ我慢しよう……。

 しかし慣れん、ランドって何だよ、安直にも程がある。

 と言うかランドだと陸じゃなくて島だよな?


 この世界に来て初めての迷宮は中々斬新だった。

 明かりも無いのに中はほんのり明るいし、迷宮上層部だからか道幅も広くて割と綺麗な床と壁だ、大理石っぽいがよくわからん。

 中二病君達は何度か来ているので、迷う事なくどんどん中へ進んで行く。

 正直、来た事も見た事もない初めての俺は、不安で気が気じゃないのだが。

 やがて道の行き止まりに突き当たる。中二病君は壁に手を当てると正面の壁が動き、二つに割れた。


「これはエレベーターか?」

「フッ、察しが良いなその通りだ」


 またまた謎ポーズで答える中二病君、周りの女達から黄色い歓声が上がる。

 俺にはカッコイイと思えないのだが……本人と周りの女達が良いなら構わないか。


「これには俺達全員が乗れる。さあ、乗ってくれ」


 別にお前の物じゃないだろ、それに迷宮に来て下層の方に向かう奴はこのエレベーターを皆使っているんじゃないのか?

 階層にして五階程下り、そこから暫く歩きながら襲いかかってきたモンスター達を駆逐していく。

 この辺のモンスターの強さは舟券をくれた爺さんの山のモンスターより少し弱い程度か。これから階層を下っていけば更に強いモンスターと遭遇する事になるだろう。

 階層を更に三階分下りるとモンスターはかなり強くなっていた。

 俺が以前組んでいた三人だけのパーティではとても耐えられなかっただろう。

 今は二パーティで計十二人だ、数は力とはよく言ったものである。

 そして地下八階、ここまで来れるパーティは数える程しかいないらしい。腐っても勇者のパーティというところか。


「この下の階に降りるのに、勇者のパーティしか行けない別ルートがあるんだ」

「勇者専用って訳か」

「多分な」


 都度都度謎ポーズを決める中二病君、それはもういいって……。

 一旦小休憩を取ってから階下に降りる。

 直ぐに大部屋になっていて、何処からともなくベルが鳴り響いた。

 背後の降りてきた階段が姿を消し、俺達はこの部屋に閉じ込められたのだった。


「慌てるな、俺達ならやれる!」


 中二病君の声に女達が歓喜で答える。

 その根拠の無い自信は何処からくるんだ? あと女共、お前等無条件にその勇者を信じすぎだ。

 ああ、そうか、来た事があるのか。恐らく前回は勇者のいる一パーティしか入れなかったが今回は二パーティだから楽勝だって事だろう。

 俺達はカエルだか何だか形容し難い爬虫類系の巨大モンスターを相手に立ち回る。

 中二病君の動きは今一だったが、パーティメンバーの中に強い女が何人かいて、安定してモンスターの体力を削っていった。

 やがてモンスターは断末魔の絶叫を上げて、その巨体を地響きを上げさせて倒れた。


「皆、大丈夫か?」


 中二病君が皆に声をかける。モンスターは既に屍となって俺達の前に転がっていた。

 気付けば全員の体力が消耗されている様で、武器を杖代わりにもたれてる娘や膝をついている娘もいた。回復が追いつかなかったのだ。

 こりゃあ前回は辛勝だったのかもしれないな。成程このモンスターの強さなら勇者を仲間にして戦力強化を図りたいと思う訳だ。

 消えていた背後の階段が姿を現した。モンスターを倒せば帰り道は確保できるという訳か、中々親切な作りだ。逆に言うと今なら帰してあげるとも取れるが、さてどうなる事やら。

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