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17・王女

 御老体、いや老神官の他にお付きの神官が一名と他に騎士が二名、それに俺達三人のこじんまりとした団体で王都アルメリアを目指す事になった。

 途中イースの町や他の村にも立ち寄るらしい。

 移動は馬車だが見た目も質素な造りで、とても大聖堂に努める程の人物が乗っているようには見えない。民衆から反感が出ない様にする為だろうか。

 泊まった宿は治安こそ良いがあまり立派と言えるほどのものではなく、食事も質素なものだった。

 成程、民衆の目があるから悪い噂が出ないように徹底してるなと思ったのだが、どうやら違うようだった。


「道中を倹約するので随行する騎士や冒険者達に、出発前に出来るだけもてなすのが恒例なのですよ」


 老神官が親切に出発前日の大騒ぎについて、そう説明してくれた。


「元々教会と冒険者ギルドとの友好的な行事なのですよ。その昔、各地へ帰る司祭をモンスターから護衛したのが始まりだとか、今では危険はありませんし冒険者達へのサービスにもなっているようです」


 人の良さそうな騎士が気さくにそうに教えてくれた。ふむ確かに俺達冒険者は基本貧乏だし、安全な道のりの護衛で報酬が貰えるなら、それに越したことはない。

 騎士が居る事を考えても、教会だけではなく国も絡んでの冒険者への救済処置の一環なのかもしれないな。

 それにちゃんと町や村に立ち寄り、無償の治療や場合によっては施しもしていた。もっといい加減かと思っていたがしっかりしたものだ。


 道中俺も暇だったので、老神官に手伝いを申し出た。

 何、ちょっとくらいは勇者らしい行動をしてみるのも一興かと思ってな。

 幸いにして回復魔法が使えるので怪我等を治してやればいいだけだし、何も難しいことはないしな。

 そんな俺の行動を見て、クラリッサが両手を胸の前に組み目をキラキラさせていた。

 ……ふっ、流石は陸様ですってか? 馬鹿か、そんなおだてに乗る俺ではないぞ、白々しい。

 まぁとは言え、町人や村人から感謝されるのは悪い気分ではないがな。


 各村や町に滞在してゆっくり移動しても、エルザードからアルメリアまでは一週間くらいだ。あっという間に俺達は王都へ到着したのだった。

 老神官一行は城に入り、俺達は指定された宿で一休みだ。

 報酬は老神官が城から出て来てから貰える手はずになっている。

 あの老神官なら約束を違える事は無いだろうと思う。万一の時は、セーラに文句を言って報酬をふんだくればいい。


「おお、陸様、この部屋凄いな、こんな良い部屋使ってもいいのか?」

「ああ、大丈夫な筈だ」


 中々の高級宿なのに奴隷同伴でも構わないとか、多分老神官が手を回してくれたのだろう、ありがたいことだ。

 以前みたいに俺達だけで奴隷を連れて泊まろうとしたら、殆どの宿はNGだったに違いない。また町外れの宿に泊まることにならなくて良かったよ。

 しかも宿の宿泊費は向こう持ちだし良いこと尽くめだよな。

 当然の如く、俺と女性陣は別部屋である。老神官は理由も聞かずに快く承諾してくれた。太っ腹である。

 ちなみに出された夕食もここの世界に来てから一番良い食事だった。至れり尽くせりだ……良い事が続くので、後で何か悪い事が起きたりしないか心配になるな……いや、考えすぎか。

 翌朝も何事もなく迎えることができ、美味しい朝食をいただいた。

 その朝食の席でクラリッサから何やら申し出と言うか、お願いを言われた。


「陸さん、私今日は魔法使いギルドへ行ってもいいでしょうか?」

「ん? ああ、構わないよ」

「ありがとうございます、少し用事がありまして……あ、そうだ、ひょっとすると陸さんに何かプレゼントが出来るかもしれません」

「へぇ、プレゼントって何だい?」

「ふふ、それは見てからのお楽しみです」


 ニッコリ笑ってクラリッサは魔法使いギルドへ出かけて行った。

 プレゼントか、期待する訳では無いが魔法の呪文書だと嬉しいものだ。

 ……期待して残念なものだったら嫌なので、貰えたらラッキーくらいに思っておこう。

 貰ったら困る物で嫌がらせされる可能性もあるしな。例えば呪いの魔道具とか……。

 いやいや、そろそろクラリッサの事を信用してもいいんじゃないか? 

 今だに何で俺の従者になったのか理由は分からないが、この後に及んで無実の罪で通報されて牢に入れられるなんてことはあるまい。


 さて、クラリッサと合流するまでブラブラしてみるか。

 そう言えばアルメリアの王都であるこの町を観光した事がなかったな。案内する者はいないが、適当にぶらつくのもいいだろう。


「リタ、せっかく王都まで来たんだ、何か食べに行くか?」

「いいのか陸様、行く行く!」


 取り敢えず屋台でも回ろうかと思っている。

 宿の朝食は上品過ぎて物足りなかったのだ。それに歩き回っているうちに小腹もすくだろうしな。

 リタのリクエストに応え、肉を中心にした食べ物を食べ歩く。

 ……そんなに食うと夕食が食べれなくなるぞ、リタ。


「くぅ、美味い、美味いよう陸様……」

「ん、どうしたリタ?」


 リタはベンチで俺と座りながら、美味しそうに食べ物を頬張っているのだが、何故だかうっすらと涙を浮かべていた。


「泣くほど美味かったのか?」

「違うよ、いや違わないんだけど……ただ、姉ちゃん達にも食べさせてあげたかったなって、あいつはこういうの食わせてくれなかったしさ」

「……そうか」


 あいつ、黒歴史君はやっぱりそういうタイプか。何の意外性も無い、思った通りのケチ臭い嫌な奴だった様だ。

 ……ん?

 気付くと俺達は周りを騎士達に囲まれていた。

 エルザードから一緒に来た顔なじみの騎士達ではない。

 その騎士達の中心に白銀の鎧を纏った少女が居て俺を睨めつけていた。


「そこのお前、奴隷を連れているな、しかも泣いているではないか!」

「……いや、それは」

「王族として見過ごせん、問答無用だ引っ立てろ!」

「はっ」


 騎士が数人がかりで俺を抑え込んで身動きができなくなった。何なんだこいつ等。


「陸様!」

「待てリタ!」


 剣を引き抜いたリタを制止させる。どう見ても王国の人間だし、あの少女自分で王族って言っていたしな。


「で、でも陸様」

「いいから、何かの間違いだろう。こいつ等に剣を向けるな」


 渋々剣を鞘に戻すリタ、良かった落ち着いてくれた様だ。

 奴隷のリタが王族に剣を向けて見ろ、殺されても文句は言えない。幸いにしてこいつ等の用があるのは俺の様だしな。


「いい心がけだ、一緒に来てもらおうか。そこの獣人の少女、貴女もです。可哀想に辛かったでしょう」


 何か壮大な勘違いをしている様だな、この王族の少女は。しかし今は黙ってついて行くしかない。何とか誤解を解かねばならないな。


 <>


 しまった、何処で選択を誤ったのか? いや、そもそも選択肢など無かったか……。

 俺はてっきり取り調べでも行われると思っていたのだが、そのまま地下牢に連れていかれ有無を言わせずに投獄されてしまったのだ。一体どうなっているんだ?

 財布代わりの金の入った袋を没収され、冒険者カードと舟券まで取られてしまった。勿論武具もだ。

 ちなみにリタはここには居ない、地下牢に連れて来られたのは俺だけだ。


「事情も聴かずにいきなり牢屋かよ」

「黙れ、貴様の様な人間の屑にはお似合いだ、我が国は奴隷を禁止しておらんが王都でこれ見よがしに奴隷を連れまわし、挙げ句の果てに泣かせるとは、とても許せる行為ではないわ!」


 要は自分が気に食わないから、法に触れなくとも地下牢に放り込んだって事だよな。ありえねぇ。


「待ってくれ、確か今日、エルザードの大聖堂から神官様が来ているよな、神官様から話を聞いて貰えば誤解は解け……」

「奴隷を買うような貴様の言う事など信用出来るか! アルメリア王国第三王女エリザベート アユ アルメリアを舐めるな!」


 とんだお姫様だった……。

 その後、俺の言い分も聞いて貰えずに、暗い地下牢で一夜を過ごすことになったのである。

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