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15・料理

 到着したその日は俺一人で厨房に残り、試行錯誤して色々料理に挑戦してみたが、どうにかなる訳が無い。せめてレシピとかあればなぁ……。

 クラリッサとリタは途中まで俺と共にあれこれしてたが、諦めて宛がわれた部屋に行って休んでいる。

 黒歴史君達一行はそそくさと部屋に行ってしまった。あいつ、どうするつもりなんだ?

 翌日、目を覚ましたのは午前中の遅い時間だった。

 昨夜遅くまで試行錯誤したが結果、時間だけ無駄に費やしただけだった。


「よう、遅いお目覚めだな」

「ああ、昨日遅くまで色々頑張ったんだがな……お前はどうするつもりなんだ?」

「ははっ、どうするも何も、俺はもうクエストクリアさ」

「は? クエスト?」


 俺が意味も分からずポカンとしていると、自慢げに何かのカードらしきものを俺に見せた。

 ……ま、まさかこれは。


「奴隷の中に料理の得意な奴がいてな、楽々クリアさ。ま、後は頑張れよ、はっはっはっ!」


 呆然とする俺に高笑いを浴びせてくる黒歴史君。こんな事があって良いのか、否、良い筈がない。

 俺を尻目に勝ち誇った様子で立ち去る黒歴史君。

 残された俺の目の前に一人の獣人の少女がこっそりと歩み寄って来た。リタの姉だ、彼女は俺の手に何かを握らせ微笑みながら頷いた。

 何だろう? 開いてみるとどうやら料理のレシピの様だ。そうか彼女が黒歴史君のパーティで料理をしたのか。

 俺が困っているのを見かねて、せめてレシピだけでも教えようとしてくれたんだな。

 それより何故俺を助けてくれるんだ? 昨日の回復魔法のお礼か?

 ……いや、そうではないだろう。理由は簡単だ、俺が困れば妹のリタも困るからだ。

 ふっ、ここは彼女の妹想いの優しさを利用させてもらうとしよう。

 当然だ、結果として俺が助かればいいのでこれはありがたく貰っておく。


「ありがとう助かるよ」


 俺は精一杯の良い笑顔でお礼を言った。

 彼女はお礼に慣れていないのか、一瞬驚いた後に顔を赤くして、昨日俺に微笑んでくれた時よりも更に素敵な笑顔を返してくれた。

 流石姉妹だ、笑うとよく似ているな。


「おい、何をやっているんだ、行くぞ!」


 無粋な奴だな。

 黒歴史君に呼ばれ、慌てて外へ飛び出していくリタの姉。俺が手を振ると嬉しそうに手を振り返す。うん、本当に奴には勿体無い。


「あれ、陸さん、もう起きていたんですか?」

「おはよー、陸様ぁ~ふぁ」


 呑気だなお前等……。


「ん? 何やら陸さんの周りに、不穏なラブコメ臭が……?」


 何言ってんだクラリッサは、まだ寝ぼけてるのか?

 黒歴史君達が料理を作ってもう出て行ったと伝えると、思いの外クラリッサは憤慨していた。


「信じられないです、ここに着くのにあの兇悪モンスターを苦労して倒したのは、陸さん率いる私達なんですよ、まるで便乗詐欺じゃないですか!」

「ああ、あいつなら陸様と違って、気にもしないで当然のように利用できるのものは利用するだろうな~」


 おや、俺達全員があの黒歴史君に対しての評価は一致している様だ。

 これから先はあいつとはもう関わり合いたくないが、俺達の意志に関係なくあいつに振り回されそうな嫌な予感がする。

 いやいや冗談では無いぞ、俺は首を振りそんな予感を振り払った。

 そんな事より今はする事がある……そう料理である。

 俺はリタの姉から貰ったレシピを開いて、その通りに料理を仕上げていく。正確なレシピさえあれば何とかなるものだ。

 ……かと思いクラリッサとリタに簡単な下ごしらえをお願いしたが、及第点を遥かに下回る不出来だ。わざとやっているんじゃないだろうな?

 二人とも首を傾げて頭に?マークを浮かべていた……マジでやってこれなのか、使えねぇ……。

 特にクラリッサは酷かった、砂糖と塩を間違える人とか初めて見たぞ。わざと足を引っ張っているんじゃないだろうな……。

 彼女等を味見役に抜擢して調理から遠ざけると、クラリッサはかなり凹んでいた。彼女のこんなに落ち込む姿は初めて見た。

 きっと散々俺を陥れようと画策した報いだ。

 だってそう思うだろ? 今だにモテ要素が皆無な俺と行動を共にしてるのだ、絶対に何か裏があるに違いないからな。

 勇者で構わないなら俺の他にも、もっと扱いやすい奴が居た筈だ。例えばクラリッサが最初にパーティに誘われたリーダー君とかな。

 ……余計なことを考えていないで、今は料理だ料理。

 しかし三人で調理するより一人の方が早いなんて、何とも不思議な事もあるものだよな。


「出来たな」

「流石です陸さん!」

「おお、やるな陸様!」


 できあがった料理はどう見てもカレーだった。

 まぁ、レシピを見た時から気付いていたけどな。後、サイドメニューで二品程、別品を付けてある。

 しかしあるんだなカレー……。これもアレだろうか、以前に召喚された勇者が作ったのを、誰かが真似して広がったとか。


「何処かで食べた覚えがある料理だな、何か懐かしいような……」


 リタが味見をしながらそう呟く、目にうっすらと涙が浮かんでいた。そりゃそうだ、お前の姉のレシピ通りに作ったんだからな。


「美味しいです陸さん。いつの間にこんなに上手くなったんですか。昨日までは私とあまり変わらない腕でしたのに」


 いや、昨日の時点でクラリッサよりはかなりマシだったぞ。

 しかし何でリタの姉がチョイスしたレシピがカレーなんだろう?

 カレーは多少失敗してもそこそこ美味いものが出来るって聞いたことがあるな。まぁ、なんにせよ美味しいものが出来りゃ文句は無い。

 後はあの爺さんの口に合うかどうかだな。


「ほう、お主もカリィか」


 げっ、ひょっとして黒歴史君達もカレーだったのか、飽きたとか言わないでくれよな。

 それにしてもカリィってなんだよ、ここではそう呼ぶのか?

 爺さんはじっくりとカレーの入った皿ごと眺めた後、匂いを嗅いでからスプーンを差し込み一口頬張った。

 目を瞑りゆっくりと租借した後、ゴクリと飲み込んだ。

 暫し沈黙が流れる。

 顔を上げた爺さんの目には涙が溢れ出ていた、何事だ爺さん? そんなに辛かったのか。


「……う、美味い……何という家庭的な、いや懐かしい味じゃ、幼き日の母の味を思い出したぞい……」

「そ、そうだよな、あたしも故郷を思い出したよ、凄いよ陸様の料理は!」


 リタが思わず口を挟んだ。

 爺さんもその言葉に何度も頷きながらカレーをたいらげた。そんなに美味かったのかよ。

 俺はレシピ通りに作っただけだっての。

 第一昨日まで何の料理も作れなかったんだがな。精々果物を切ったり、出来上がっている惣菜を盛り付けるくらいの、料理とは呼べない事しかしたことがない。

 このカレーは俺の作れる唯一の料理になった訳だ。

 ふむ、そう考えるとリタの姉には感謝だな。俺にも異世界主人公ぽいスキルが身について来たという事だしな。

 多めに作ったので館のメイドさんにも振る舞われたが、概ね評価は上々だった。

 聞いたところによると、黒歴史君達とのカレーとは違った味付けだったらしい。どうやらリタの姉は料理上手らしく俺には若干違うレシピを渡してくれたようだ。同じ味の料理を爺さんに出したら評価が落ちる可能性もあるからな、中々気の利く娘だよなリタの姉は。

 ともあれ俺達は爺さんの課題はクリアしたのだった。


 <>


「良かったですね陸さん、船券が貰えて」

「ああ、本当にな」

「陸様、船に乗れるのか?」

「まだ先だぞ、リタ」

「いいよ、楽しみだな~」


 リタはウキウキでスキップしている、そんなに楽しみなのか?

 俺としては逃げ場のない船の中なんて不安しかないのだがな。

 爺さんの館からの帰りは、麓までの抜け道があるらしく安全に下山する事ができた。

 やっぱり館までの道のりは試練の為のものだった様だ。 


「このままウノーの村に戻りますか、陸さん?」

「いや、エルザードの町に行こうと思う」


 ウノーの村にはセーラがまだ居る筈だからな。情報をくれた事には感謝しているが、再会すると一緒に連れていってくれとか言われかねん。


「え~セーラ姉の所に戻らないの、陸様?」


 リタが何でだろうと言う顔で首を傾げる。

 クラリッサがハッと何かに気付き、独り言をブツブツ言いながら首を縦に何回も振っていた。


「そうよ、セーラさんがいると陸さんに手を出しかねません……」

「何か言ったかクラリッサ?」

「い、いえセーラさんは高位神官で忙しい身の方です。きっと邪魔になるのでお礼は今度会った時でもいいかと」


 いつもは礼を重んずるクラリッサにしては珍しい意見を言ったな。

 ふむ、何か意図があるのだろうか? まぁ、俺にしても都合が良いので同意しておく事にする。

 俺達は街道を西に向かい新たな町を目指す。今度の町は中々大きな町だそうだ。

 エルザードに着いたら暫くはゆっくりくつろぐとしよう。

 イースの町を出てからウノーの村では襲撃を受けたり、山頂の館では爺さんから課題を出されたりして、色々大変だったからな。

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