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14・条件

 クラリッサがモンスターに止めを刺し、取りあえずは一安心だ。


「うおおおっ、やった!」


 ちなみに俺が叫んだのではない。

 俺達に協力もせずに、こっそりとここを通り過ぎようとしていた黒歴史君が叫んだのである。


「やったじゃないだろ、お前知ってたのに黙ってたな?」

「さ、さぁな?」


 俺が追及すると黒歴史君は明後日の方角を向いて、吹けてない無い口笛を吹いた。この野郎は誤魔化すのが下手だよな。


「そんな事より先行こうぜ。お前達もアレだろ、舟券が目当てだろ?」

「……そうなんだが、納得いかないな」

「細かい事は気にすんなよ、良いじゃないか、全員無事だったんだからさ」


 細かくもないし良いわけでもないぞ、全く、この野郎は。


  う~む、しかし相変わらず黒歴史君の連れてる奴隷少女達は傷だらけだな。

 歩き出した黒歴史君について行こうとする彼女達を見て、奴を呼び止めた。


「おい、奴隷達の傷を治さなくていいのか? 足を引きずっている者もいるみたいだが?」

「ああ? いいんだよ、それぐらいじゃあ死にはしないさ」

「はぁ、お前も回復魔法を使えるんだろ、だったら彼女達を治してやれよ。仲間の体調をできるだけ万全にしておくのは当然じゃないのか?」

「はぁああ~?」


 黒歴史君は俺を見下した目で、やれやれとポーズを取りながら大きな溜息をつく。


「お前馬鹿か? 魔力は有限なんだぞ、自分が使う時に魔力がなかったらどうするつもりなんだ? それにこいつら奴隷は仲間じゃねぇよ、言わば道具じゃねぇか、ど・う・ぐ、違うか?」


 全く、開いた口が塞がらないとはこの事だ。

 仲間か道具かは個人の見解だから置いておくとして、共に行動をする者達を出来るだけ万全の状態にすることが、自分の生存率の上昇に繋がるんだろ。馬鹿なのはお前の方だよ、黒歴史君。

 俺が呆れて反論しないでいると、調子に乗った黒歴史君が奴の奴隷を指差しこう言った。


「なら、お前が治してやってもいいぜ、貴重な魔力を使ってな」


 はぁ? 何を言っているんだお前は?


 俺が黒歴史君の台詞に呆れていると、俺の味方のはずのクラリッサから追い打ちが掛かった。


「陸さん、彼女たちを癒してあげましょう。勿論あの勇者の為ではありません、彼女らの為です」


 おいおい、冗談……ではなさそうだな。クラリッサはリタを見ながらそう口にしたのだ。

 あの奴隷の少女達の中にはリタの姉もいるからな。リタも眉を下げ、両手を胸の前に合わせていた。

 はぁ、やれやれ仕方がないな。

 幸いモンスターとの戦いが終わった今でも、俺の魔力はまだ半分以上は残っていた。

 俺は獣人の奴隷少女達に近寄る。

 彼女らの中では年長者であるリタの姉以外は身を縮こまらせていた。

 リタの姉が年長者と言っても俺やクラリッサとそう変わらないか、もしかすると年下なのかもしれない。正直大変だなとは思うが、俺がどうこうできる問題ではないしな。

 俺は順番に彼女達に回復魔法を掛けていった。

 皆、治った傷を確かめたりして、僅かに喜んだ表情を浮かべていた。

 はぁ、この表情を見るに、今まで碌に回復魔法を掛けてもらえなかったのだろう。

 最後にリタの姉を回復魔法で癒してやる。

 じっくりと彼女の顔を見たことはなかったが、中々整った顔をしている。彼女は頬を赤く染め、僅かだが目尻に涙を浮かべていた。

 ……薄汚れている今でさえ、かなりの美少女だ。リタも成長したら彼女みたいになるのだろうか?

 彼女の口元が動くが言葉になっていなかった。

 口パクというやつだ。

 黒歴史君に聞かれたくないのもあるだろうが、彼女達は喋れないようにされているからな。声を出すとまた首輪が締まるので、そうするしかないのだろう。

 読唇術の心得はないが、恐らく「ありがとうございます。妹を頼みます」そう言おうとしてたのではないかと思う。

 俺は返事の代わりに彼女の頭を軽く撫でる。すると驚いたように目を見開いた後、穏やかに微笑んだ。

 ……くそ、歴史君の阿呆には勿体ない美少女ではないか。

 まぁ、俺が彼女を奴隷として手に入れても持て余してしまうことは間違いないが。

 ……いやいや、奴隷に落とされ、人間の勇者に買われてこの酷い扱いようだぞ、万が一でも奴隷から解放されてみろ、いい復讐の的だ。よって迂闊に近寄らない方が安全だろう。

 ん、何? 彼女達に酷く当たったのは黒歴史君だから、俺は大丈夫だろうって? いやいや、彼女達にしたら同じ人間で同じ勇者だぞ、そんな言い訳が通じると思うか? 俺は思わない、憎しみっていうのはそういう歪んだものだと思うのだ。

 回復した獣人少女の奴隷を引き連れて、俺達よりさっさと先行していく黒歴史君達。最後尾のリタの姉がすまなそうにペコペコと何度も頭を下げていた。


 さて、倒した熊のモンスターは解体しても荷物になるしな……直ぐにウノーの村まで帰るならいいが、今から爺さんに会いに山頂に行かねばならない。

 それ以前に毛皮が黒焦げだしな、なぁクラリッサ。

 仕方がない、勿体無いが今回は諦めるか。漫画や小説に出てくる収納魔法やスキルみたいな便利で都合のいいものはないのだからな。

 ……いや、こんな世界だから何かしらの便利魔法はあるかもしれないな。

 でもまぁ、現状使えないのなら無いと一緒だよな。


 戦闘で疲れた俺達の進行は思ったより進まない。既に小さくなった黒歴史君達を見て、何気なく気になった事をクラリッサ達に聞いてみた。


「獣人に魔法使いとかはいないのか? それとも奴隷だからいないのか?」

「それは両方ですね陸さん。獣人の魔法使いや神官はいない訳では無いのですが、稀で獣人の殆どが前衛系ですね」

「陸様、魔法使いの奴隷なんかいたら、高価過ぎて手が出ないと思うぜ」

「成程な、ではあの少女達は?」


 俺が黒歴史君達の奴隷を指差す。


「全員、只の獣人の少女達と思った方がいいと思いますね。最低限の装備さえ揃っていないので戦士とさえ呼べるかどうか……」

「まぁ、アレでも普通の人間の男くらいの腕力はあるぜ、体力はあるからなあたし達は」


 成程な、金貨十枚とか奴隷にしちゃ低いなと思っていたんだ。

 リタの言う通り魔法が使えたり、戦闘に特化した奴隷とかだったら、とても俺達が買えるものでは無いという事だろう。

 イースの奴隷商は少年少女の役に立たない奴隷を、何も考えてない勇者達に売りつけているのだろう。全くいいカモなんだな勇者は。


 結論、黒歴史君のパーティは勇者一名になんちゃって戦士系が五名か……バランス悪すぎる、やっぱり馬鹿なのかあいつ?

 俺達が山頂の館に着いたのは黒歴史君が到着したかなり後のようだった。


「こちらへどうぞ、勇者様」


 館の玄関で出迎えてくれたメイド服を着た妙齢の女性。魔法か何かだろうか? 俺達が来るのが分かっていたようだ。

 中に通されると部屋には黒歴史君達のパーティも居た。先に着いても待たされるだけだった様だな。俺を見ると「チッ」と舌打ちをしやがった、フフン、ザマァ見ろってんだ。


「ようこそおいで下さった、勇者とその一行よ。儂がこの館の主サリバンじゃ」


 サリバンと名乗った爺さんは少し小太りだが人なっこい顔をして俺達を迎えてくれた。


「ど、ども……」


 黒歴史君はまともに挨拶も出来ないらしい、俺もコミュ症の気があるが挨拶ぐらいはできるぞ。


「初めまして勇者をさせてもらってます、柏木陸と申します」

「陸さんの従者のクラリッサと申しますサリバン様」

「あたしはリタだ……です」


 ふぅ、やはり見ず知らずの人と話をするのは緊張するぜ。よく頑張った俺。

 ウチのパーティは皆ちゃんと挨拶は出来たな。

 黒歴史君のパーティメンバーは、やはり他の人と話せない様にしてあるみたいだ。何か喋ろうとしても声が出せず、無理をしたら首輪が閉まる様である。

 そんな不審な黒歴史君のパーティを嫌な顔一つせずに、サリバンは話を続けた。まぁ勇者にも色々いるしな、現に彼は色々な勇者と会ってきただろうし。


「では話は聞いておろう、儂の満足する料理を作ってくれたらパーティ全員分の無制限の船券を与えよう」


 ……なんですと?

 横を見ると黒歴史君も固まっていた、こいつも聞いて無かった様だな。


「では勇者様方こちらへ、キッチンへご案内します」


 にこやかな顔の館の主に見送られ俺達は厨房へ案内された。メイドさんの後をついて行くと、思いっきり無駄に広いキッチンスペースが俺達を迎えた。


「おい、お前料理できるのか?」


 黒歴史君が俺に問いかける。

 さっき自己紹介で俺の名前を聞いた筈なのに、まだお前呼びだ。さてはこいつ興味が無くて覚える気も無かったな。

 まぁ、俺も同じ立場なら憶える気はないので人の事は言えないけどな。


「俺の得意料理はお湯を注いで3分のアレだ」

「奇遇だな、俺もだ」


 昔、いくつか見た異世界の物語では、料理上手な主人公が多かったが現実は違う。中にはそういう奴も居るかもしれないが、異世界に来た男が皆、料理上手だと思うな!


「ここにある食材はいくら使っても結構ですよ、あと時間の制限はありませんから思う存分腕を振るって下さいね」


 そう言い残しメイドさんは立ち去った。今までここに来た者達もこの試練を超えたというのか。あのサリバンとかいう爺さんを料理で納得させなければ、舟券はもらえないのだろう。

 だが俺で無くても料理が出来るメンバーがパーティに居ればいいんだろ? 俺は期待を込めクラリッサの方へ首を向けた……が、クラリッサはニッコリと笑い首を傾げた。

 俺は思い出す、何度かクラリッサと外で食事をしたが、全て宿屋の弁当を持参していた事を。

 リタはキッチン道具を在り得ない持ち方をして首を捻っている。


「詰んだな……」


 俺は天を仰いだ。

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