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12・襲撃

 時間は昼過ぎ、突然村が騒がしくなった。何事だろう?

 村人の何人かが、何かに逃れる様に教会に逃げ込んで来る。むぅ、嫌な予感がビンビンしてきた。


「野盗です! 野盗が襲ってきました」


 逃げ込んだ村人達が口々にそう叫んでいた。

 俺の嫌な予感は的中したようだ。

 恐らく情報が野盗達に筒抜けになっていたのだろうな。村の守りが薄いこの時を狙って来たのは明白だ。


「野盗の規模は分かるか?」

「さ、さぁ、恐らく二~三十人くらいかと……」


 小さな町や村を制圧するには精鋭三十人から四十人いれば十分だと聞いたことがある。大きめの村といっても守り手が少ない上に制圧ではなく略奪だ、かなり分が悪いだろう。

 目的は? やっぱり金と女だろうな。

 村長の娘を要求したのも言う事を聞かない、単なる村長への嫌がらせかもしれない。

 討伐に行った奴等がアジトに野盗が居ないか、もしくは少ないのに気付いて、直ぐに引き返して来てくれればいいが……まぁ冒険者達が帰って来るのを信じて、この教会に引きこもって守りに徹するしかないか。


「陸さん、皆を、村人達を助けに行きましょう!」


 ……なぬ? 何を言い出すかね、クラリッサさん。


「行こうぜ陸様、くぅ~腕がなるぜ!」


 リタ、お前は俺のレベルで野盗の群れと戦えと言うのか? それ以前にお前は俺よりレベルが低いだろ?


「ここは私が守ります、村人を見かけたらここへ来るように誘導して下さい。私、守りには多少自信があるんですよ」


 セーラが大きな胸を張って、そう宣言した。

 そんなに自信があるなら俺を教会から追い出そうとしないで守ってくれよ。鬼かお前達は!

 教会の出入り口から外を見ると、汚い男に追われた少女が教会に駆け込もうとしていた。クソ、追いつかれそうじゃないか。

 咄嗟に俺は剣を引き抜くと、顔を願望剥き出しの嫌らしい表情をした男に切りかかった。

 ザシュっという音と共に手にモノを切った感覚が伝わり、悲鳴を上げ男は地面に転がり回る。

 うをっ人間を斬ってしまった! こいつも避けりゃいいのに、何でそのまま切られているのか、馬鹿なのか?

 ……うん? 何だか違和感がある。

 ……悪人とはいえ人を切りつけてしまった割には、罪悪感が薄すぎる。まさかこれも勇者の特性なのだろうか? うわぁ、もしそうなら怖すぎる……。


「流石です陸さん!」

「うわ、容赦ないな陸様!」


 違うぞ、俺は人を斬って喜ぶ趣味は無いからな。断じて戦闘狂では無い!

 それはそうと、追いかけられていた少女は無事に教会に逃げ込めたようだ。

 さて、俺も教会に戻ろうとしたら……バタンと扉が閉まってしまった。

 うをっ! 締め出されたじゃん!

 クラリッサとリタも既に教会から出てきていて、装備を確認していた。嘘だろお前等、何で野盗を討伐する気満々なんだよ。


「村人が来たら、私が教会に匿いますので安心して下さい」


 セーラが俺達にそう叫ぶ。

 俺が安心じゃねぇよ! しかし、もう後の祭りだった。

 村には俺達の他にも、まだ出発せずに残っていた冒険者も居た為に大惨事は免れている様だ。

 クラリッサもリタも野盗いえど人間が相手だ、行動不能にするくらいに抑えると思ったのだが、村の外のモンスターと同様に問答無用に倒しまくっていた。

 動かなくなった野盗の奴等は正直生きているのか、死んでいるのかは分からん……さっき男を斬った俺が言うのも何だが、無法者には容赦ないな、お前等。

 村長の家の近くを通りかかった時、カエルを潰した様な男の大きな悲鳴が聞こえた。


「お前達、こんな事して只で済むと思っているのか!」

「おやおや、まだ自分の立場が分かってないようだね、村長さん~?」


 縛られた村長がどこかで見た女性に無様に踏みつけられていた。

 そして村長の横には何故かイケメン君も縛られている……お前、野盗のアジトに行ったんじゃ無かったのか?


「アイラ、マイナ、ミーネ、何故君達が野盗に手を貸すんだ?」

「あら勇者様、まだ私達を信用してくれているのね。本当におめでたい人ねぇ~」

「勇者様と一緒だったから、と~ても都合がよかったわ」

「坊やは少し、人を信用し過ぎなのよ~」


 思い出した、あの女達イケメン君のパーティメンバーだった奴等じゃねぇか。

 そうかあの三人は野盗の仲間だったのか。イケメン君はまんまと騙された訳だ。

 クッ、俺も人事ではなかった。油断をしたらクラリッサ達もいつ俺に牙を剥いてくるか分からんからな。


 野盗は女三人の他にも屈強な男達が数十人いて、村長の家の中を漁っていた。

 家の外では縛り上げられた村長とその家族、イケメン君と更にもう一人縛られていた。


「や、約束が違います、こんな事はおやめ下さい!」


 イケメン君とパーティを組んでいた神官のハンソンだ。彼はオドオドと三人娘に反論をしていた。


「今更何を言っているんだい? 愛しのアンリちゃんを助けたいんだろ~?」

「ですがそれは、村長の悪だくみを暴こうとして……」

「ああ、そんな事まだ信じていたのかい。村長はね、確かに妾の娘には冷たかったけど、他は何のほこりも出てこないつまらない男だったよ」

「そ、そんな僕は騙されていたのですか……」


 その場で崩れ落ちるハンソン。いいように利用された様だな、これだから女は信用できないのだ。

 それよりここから逃げた方が良さそうだ。

 後ろを向くとクラリッサとリタが息を潜めて俺を見つめていた。その目はやる気と期待がこもっている……まさかあそこに突入しろって事なのか?


「陸さん、幸いにも私達は賊に気付かれていません。ここは奇襲をかけるべきです」

「そうだな、不意を付けば二~三人は先に倒せそうだぜ」

「……ああ、そうだな……」


 何でやる気満々なんだよ! お前達は多勢に無勢って言葉を知らないのか?

 

「なら、私とクラリッサさんで先制で睡眠と麻痺の魔法をかけましょう。人質も範囲に入りますが問題無いですね?」

「……何でここに居るんですか、セーラさん?」

「はい、教会に武器屋の親父さんと道具屋のお兄さんが来てくれたので、お任せしてきました。私も陸さん達に協力しますよ。ふふふ」


 女神の様な微笑みを向けるセーラ。

 駄目だ、この人もバトルジャンキーだ。

 彼女はメイスを握って嬉しそうにブンブン振り回している。しかもそのメイス捌き、実にキレがいい。

 ここで逃げ出したら俺がボコボコにされそうだ。正に前門の虎、後門の狼である。

 何故だ、何故こうなった? 

 いつの間にかリタが、野盗からは見えないギリギリの位置にまで近付き、身を隠しながら弓を構えていた。

 その距離は……確実に賊をやる気だ。リタはウインクをして、ニカッと白い歯を見せて笑った。

 それを合図にクラリッサとセーラが呪文を唱え始める。

 当然リタはクラリッサ達の魔法の範囲には入ってはいない。

 ……やるしかない様である。

 詠唱が終わると共に村長の家に突入をかけた。


「あれ」


 目の前にはグースカ眠っている奴とピクピク体を痙攣させている奴しかいない。

 誰一人俺に襲い掛かってくる奴はいなかった。見事にクラリッサとセーラの魔法が全員に効いていたのだ。

 いそいそと村長の家の中からロープを探し出し、野盗共を縛り上げた。

 リタは「ちぇっ、つまんないな」と愚痴をこぼしていたが、いやいや賊を全員無効化できてラッキーだったじゃん、と俺は思うぞ。全く血の気が多い奴だ。


「あら~皆に魔法が効いちゃったのね、残念~」

「本当ですね、こんな迷惑な事をしたんだから、一発くらい殴れればスッキリしたのに」


 セーラは肩に担いだメイスをポンポンと手持無沙汰に持て余していて、クラリッサは長杖を槍の様に振り回していた。

 もう嫌だ、この面子……。

 ちなみにイケメン君とハンソンそして村長は寝息をたてて眠っていた。全くこっちの気も知らないでいい気なものだ。


 <>


「御迷惑をおかけしました」

「本当にありがとうございました」


 ハンソンとアンリが仲良く手を繋ぎ、俺達に深々と頭を下げお礼を言っていた。

 今回の騒ぎで一番貢献したのが俺達だったのだが、アンリを嫁にするどころか仲間にもする気も無かったので、アンリの自由にさせてやったのだ。お陰で無事アンリはハンソンと結ばれた訳である。

 ただ、ハンソンは結果的に野盗に騙されたが手引きしたのは間違いないので、流石にこの村には残れず二人で村を出て行くとの事だ。

 セーラが上手く手を回してくれたようで、他の村の教会に移動になるらしい。甘い処分だが俺が口にする事ではないからな。

 野盗の討伐に向かった冒険者達は、アジトはもぬけの殻だったそうで稼ぐ事が出来なかったそうだ。

 野盗共はアジトに討伐隊が来ることを知っていて財宝等を何処かに隠してしまったようだ。

 その財宝を探すつもりなのか、冒険者達は村から出て行って殆んど残っていない。

 生き残って捕らえられた野盗はイースの町から呼び寄せた憲兵達に連行され、王都のアルメリアへ連れ去られて行った。当然あの三人娘も一緒にだ。


「俺が馬鹿だったんだ、言い寄って来る女を信用してしまうなんて……」

「ああ、そうだな」

「君も気を付けろ、君は俺のようになるなよ」


 俺はイケメン君と宿の酒場で男同士で語り合っていた。

 クラリッサ達は教会に行っている。今頃女子会で盛り上がっている事だろう。

 明日には旅立とうと思っているのでセーラとも今日までだ、女同士で別れる前に友好を深めておくのもいいだろうしな。

 ……ただ俺を貶める相談などをしていない事を祈る。

 イケメン君は委員長と違って金を取り戻していたので、直ぐにでもやり直しが可能だろう。

 しかし彼の不幸は他人事では無い、正しく明日は我が身である。彼の忠告は肝に命じておこう。


「俺が間違っていたんだ、やはり信用出来るのは裏切らない奴隷しかない……」


 ……ん? 今なにかイケメン君が変な事を言った様だが、聞き流しておこう。


 酔いつぶれそうなイケメン君を彼の宿泊している部屋に送り、俺は宿の自分の部屋に戻る。

 嬉しい事に冒険者達が去って行ったので、宿には空き部屋が出来ていて一人部屋を確保できたのだ。

 ふぅ、これで夜も安心だ。


 さぁ明日からまだ見ぬ場所へ行くことになる。

 俺は野盗を倒した報酬で、豊かになった金貨の入った袋を握りしめる。

 ……俺、何もしてないけどな。

 そんな些細な事はどうでもいい、それよりも今日は久しぶりに心地よい眠りにつけそうだ。

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