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116・魔王戦 5

 クラリッサはセーラ達を安全な離れた後方の場所まで移動させた後、俺とアナ、リタを心配をして駆け寄って来た。

 ちなみにハンスの亡骸が放置されている大穴には、三人を入れなかった様だ。流石に良心が痛むか、ゴミ箱だしな。


 今俺が居る場所は魔王からかなり離れているので、戦闘に巻き込まれる心配はなさそうだ。逆に言うとアナはこんな所まで吹っ飛ばされたんだよな、良く生きていたものだ。

 

 ん? 視界の隅で騎士が三人集まり、慌てて何かをしているようだった。


「もう駄目だ、逃げるぞ! 早くしろ」

「ですが王子や王女方を見捨てるなど……」

「ここに居てはもう助からん、王女達は勇者と共に何処かに叩き飛ばされてしまった、探すにしても歪んだ床や柱が邪魔で見つけるのは困難だ……今は我々が助けを呼びに行かねばならんのだ!」


 言い訳にしても苦しすぎるだろ……特に最後の台詞の奴、言い訳に必死だな。

 やはり自分が可愛いのか、こんな自分勝手な説得で納得して頭を前後に激しく振る騎士。

 何をするかと思えば騎士達の前に何と人一人が通れそうな小さな転移門が現れた。

 え? ここ転移阻害されてるんじゃなかったのか?

 それより一人の騎士が持ってる銀色に白のラインが入った棒状の物、アレは転移アイテムなのか?

 そう考えて見ていると、転移門を潜ろうとした先頭の騎士が転移門にぶつかり派手に転んだ。

 ああ、やっぱり駄目か。

 しかし転移門自体は出てくるんだな。

 その様子を目聡く見つけた魔王は彼等近付き……。


「愚か者め、逃げ切れると思うか? 魔王城には転移防止の結界が張られている、我と配下将以外は自由に出入りすることはできん!」


 そう言って魔王は、一薙ぎで騎士三人を巨大な爪で吹き飛ばした。

 ありゃ死んだな。ハンス王子よりレベルは高いが、魔王の一撃に耐える力は無い。あいつ等大人しく隠れていれば良いものを、死期を早めただけじゃないか。

 しかしそうか、配下将がOKならセーラやアニーそしてリリィは転移できたんだな。俺達は弾かれるだろうけど……ん? という事は十二将は全員転移門を抜けられるのか?

 ちょっと閃いた……だが、それを実行するだけの魔力が無い。 


「アレをやるには魔力が足りないか……」


 つい口に出てしまった。それを聞いてクラリッサが俺に向き直り、ある提案をした。


「魔力があれば何か手があるのですか、陸さん?」

「ああ、確実に成功するとは言えないけどな」

「では、私の魔力を譲渡します」


 おいおい、お前もう魔力ないだろ? そう思ったが方法があるそうだ。


「私の体力を魔力に変換して、それを陸さんに譲渡します。ただ効率が悪くて私の体力の全てを使っても得られる魔力は微々たるものです。加えて譲渡時にも魔力をロスしますが……」


 俺の返事も待たずクラリッサは術を唱えると、俺の身体に魔力が流れ込み同時にクラリッサが倒れた。


「私の奥の手です……どうせ今のままでは役に立ちませんでしたから……私はお役にたちましたか、陸さん……?」

「ああ、十分だ。ありがとうクラリッサ」


 俺がそう言うとクラリッサは気を失った。

 本当は全然足りてないが、それを言うのは躊躇われた。

 俺が倒されクラリッサ達がこのまま殺されるなら、少しでも幸せな気持ちで亡くなった方がいいだろうからな。


「まぁ、出来るだけあがいて見せるか」


 周りを見ると既に空のパーティは彼以外は床に倒され、海のパーティのイケメンズも誰一人立ってはいない。

 魔王の周りには、空と海、そして運よくまだ致命傷を負ってないだけで、ボロボロな咲が居るだけだった。

 これはもう時間の問題だな。

 諦め気分で魔王に近付こうとしたところ、不意に視界に人影が映った。

 何らかの拍子で床が少し窪んでいるので分かりずらかったが、女性が二人確かに折り重なるように横たわっていたのである。

 近寄って見ると気を失っているだけで、大した怪我も負っていないエリザベートとヴィクトリアだった。

 さっきの転移魔法の効果があるアイテムで逃げようとした騎士達が散々探していたが、こんな所に居たんだな。

 はぁ、妙に静かだと思ったらこいつ等、こんな所で寝てた訳かよ。

 恐らくエリート君達を回復させた後に、範囲攻撃でも食らって伸びていたんだな。あの時はまだ魔王が瀕死になる前だったからな。

 俺はふと考える、エリザベートは一応クラスは騎士で回復や支援系の魔法が使えた筈だ、ヴィクトリアは魔法使いで当然魔力を持つ……。

 鑑定で二人を見ると満タンに近い魔力があった。

 ……こいつ等の魔力を頂こう、魔法の中には譲渡だけでなく魔法で強制的に魔力を奪う魔法が存在する。

 成功確率は相手とのレベル差が大きいほど高く、今の様に意識が無い相手なら、ほぼ確実に奪う事が出来る。

 傍かた見たら俺は悪い顔をしているだろう。

 俺は遠慮せずにエリザベートとヴィクトリアの魔力を頂いた。

 どうせ誰も見ていないしな、見ていても遠くてよく分からないだろう、くっくっくっ。

 俺とのレベル差が大きい為に、彼女等の殆んど全ての魔力を奪っても俺の全容量の半分に満たなかったが十分だ。

 念の為に彼女等の装備を漁ると、ポーションが何本も出て来た……なんだこいつ等、女神か天使か? ありがたく頂くとする。

 その時ガコンと大きな音が響いて俺の数メートル先に咲が転げ込んで来た。

 なんだよ、皆俺に向かって転がってきてないか? 気のせいなのか?

 ともかく駆け寄り咲を抱き起こしながら、さっきエリザベート達から奪ったポーションを差し出した。


「咲!」

「え? 陸君、これどうしたの?」


 体力がヤバかったのだろう、俺からポーションを受け取った咲は直ちに飲み干した。その後に俺にそう聞いてきた。


「ああ、そこに転がっていた王女殿下と公爵令嬢が持っていたので貰ってきた、勿論無断で」

「あ……あはははっ、それは助かるわね。あははは、悪い人ですね陸君は」

「ああ、知らなかったのか、俺は極悪人だぞ」


 さて、魔王を倒すには咲の協力がいる訳だが……。


「で、その極悪人さんには何か策があるのかしら?」


 流石咲だな、俺の様子を見てそう判断出来るなんて大したものだ。


「ああ、極悪人らしいお願いが咲にある……」

「囮にでもなれってことかしら?」

「何で分かった? あ、いや、その通りなんだが」

「それしかないじゃない。分かったわ、注意を惹き付ければいいのね」


 あっさり了承した咲。おいおい、いいのか?


「何て顔してるのよ、魔王に勝つためにはそれしかないんでしょう? それに私は陸君には借りがあるしね」

「……すまないな」

「いいって、私は陸君が助けてくれなければピクラルに殺されていたもの、それくらいお安い御用よ」


 ある程度ポーションで回復した咲はそう言ってウィンクをした。


「ありがとう、咲」

「じゃあ、もし生きていたら……」


 待てぇええええ――――っ! だからそれはフラグだって、お前は!


「うがああああああ――――!」


 咲が続きを言う前に、空の叫び声でかき消された。ナイスだ空……じゃねぇ、お前がやられてどうする!

 人手が足りないって言うのに。気が付けば海の奴もいつの間にか床に沈んでいた。マジかよ……とうとう俺と咲だけになってしまったのだった。


 この広い、広すぎる程の魔王の間に立っているのは僅か三名。

 セーラ達の力を吸収して回復した魔王も、俺達の再度の攻撃を受け続けかなり疲弊しているように見える。いや実際に疲弊しているだろう。

 だが、倒すには至ってはいない。

 おまけにこちらは三十六人中三十四人が倒され、傷だらけの俺と咲の二人だけだ。

 普通なら勝ち目は無いが、まぁ出来るだけあがいてみせるさ。


「さぁ、残念ではあるが、フィナーレだ。勇者よ……」


 距離の空いていた俺達にゆっくりと近付く魔王。

 彼も魔力を殆んど使い果たし、攻撃手段も直接攻撃しかない為に俺達に近付くしかないのだ。

 幸い俺は王女殿下と公爵令嬢のお陰で、魔力だけは十分にあった。


「そうだな魔王ギディオン……【轟雷】!」

「ええそうね魔王ギディオン……【猛雷】!」


 奴が近付くのを黙って見ているわけがない。

 俺達は奴の攻撃範囲に入る前にタイミングを計り、呪文を完成させておもむろに放った。


「ば、馬鹿な魔法だと?! 何処から魔力を補充したぁあああああ!」


 言葉の最後の方は叫び声になってしまった魔王。よもやこの時に魔法を食らうとは思わなかった様だ。

 【轟】系の魔法はあの十二将にも十分な効果がある、俺が使える魔法の最上級ランクの魔法だ。

 咲の唱えた【猛】系の魔法も、魔法障壁の無い今の魔王には十分にダメージを与えられる。

 相乗効果で威力もかなりある筈だ。

 もう数レベル咲のレベルが上がっていたら彼女も【轟】系の魔法を習得できていたかもしれない。今となっては準備不備だったと思うが、今更どうしょうもないよな。

 ちなみに空と海はレベルは足りていた様だが、魔法熟練度が不足していて【轟】系を使えないらしい。剣ばっかり使ってないでちゃんと魔法も訓練しろよな、熟練度はレベルとは関係なしに上げることができるんだからな。

 

 まだ魔法障壁がある序盤で攻撃魔法を使っていたら、そんなに期待できるほどのダメージを与えられなかっただろうが、今は魔王自慢の魔法障壁も消え失せ、まともにダメージを食らっていた。

 しかしこのくらいで倒される魔王では無い。これで倒れるなら苦労しないよ、全く。


「ぐああああっ!」


 範囲を限定し、そこに収束した雷が魔王を中心に荒れ狂う。

 通常なら攻撃の殆んどを弾く魔王の体表も、雷を防ぎきれずに黒い焦げ跡を残す。


「やああああ!」


 そこに咲が魔王に切りかかる。

 咲の一撃を爪で受け流し、すぐさまに反撃に移る魔王。

 数度の咲との打ち合いの末、レベル差が出たのか、咲が魔王の攻撃を食らい血を吐きながら数十メートル弾き飛ばされた。

 俺が頼んだ通りに囮をする為、魔王に踏み込み過ぎたのだろう。すまないな咲。

 だがこれで勝機が見えて来た。


 ザクッザクッ!


 魔王の背中に二本の剣が根元まで突き刺さる。間髪入れずライトハンドソードの【轟炎】を解放した。


「グァアアアアアアッ!」


 体内で【轟炎】が炸裂したのだ、只では済まないだろう。俺は振り落とされる前にレフトハンドブレードの【轟氷】を解放する。


「ググァアアアア!」


 今度は体内で【轟氷】が暴れまくる。氷は体表を突き破り外に飛び出し、尚且つ足場を氷が覆い身動き出来ない状態になる。


「ふっ、ふふふっ、良い攻撃だ……だが、少し……少し力が……足りなかったな……ん?」


 俺は二つの剣に封じられていた魔法を放つ際にも別の呪文を唱え続けていた。剣の魔法は呪文を必要としないからな。

 だが今俺が唱えている魔法は俺自身唱えないといけない。これが本当の最後の手段だ。

 魔王の上空に巨大な転移門が現れる。

 以前十二将アリアスから魔導書を貰い覚えた、アルティメイトモンスター型の十二将が配下と共に戦地に向かう為の、巨大な転移門である。

 転移魔法は魔力消費が多い。ましてやこの大規模転移門を作るのには更に大量の魔力が必要だ。

 だがそれは、俺が使える最強の攻撃魔法である【轟】系の魔法程では無い。


「この城からは転移魔法で逃げる事は出来んぞ、ましてや何処に転移門を開いて……」


 そこまで言った時、魔王が硬直した。信じられないものを見たそんな顔だ。


「ブモモモモーーーーッ!」


 転移門を抜けて落ちて来たのは、巨大な魔王のゆうに二回りは大きな超巨大な白い羊だった。

 ズドドンッ!


 足元が凍り付いて動けない以前に呆けて固まったままの魔王は、落ちてくる羊を見上げた体勢で、その落下してきた巨体の下敷きになって潰れたのである。

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