105・気分転換
何やかんやで二ヶ月と数週間が過ぎた。
咲とアナは元々才能があったのかもしれない、今ではクラリッサとリタに追いつく位にレベルが上がり、戦力として問題無い程度にはなっていた。
勿論クラリッサとリタも更に強くなった。俺? う~ん自分じゃよく分からないんだよな。
そういやたまにアルティメットモンスターの十二将達と単独で模擬戦を行なってるし、確かに強くはなってるよな、うん。
最近じゃ暇を持て余したアリアス達と何時でも模擬戦ができる様と、奴等自身の近くに転移できる様に移動式の転移ポイントを設定させてもらっている。
へぇ、そんな事もできるんだな。
どうやらセナとラナが新たに開発した転移方式らしい。大規模転移魔法とかもそうだが相変わらず凄いカスタマイズをしやがるな、あの双子。
ちなみに『転移すれば何時でも模擬戦』はセーラの差金かと思ったら、アリアス達の希望らしい。あいつらもバトルジャンキーなのを忘れてたよ、やれやれ。
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さて、一段落ついたところで一旦訓練を終了することにした俺達。
何故か? それは三ヶ月に一度解放されるあのセナラナの塔に行く為である。
魔王城に行くまでは塔の転移システムを使うのが最も効率的ではあるが、その為には最上階に本人が行く必要がある。
今のままだと前回いた俺のパーティメンバーは問題無いが、咲は一歩手前の魔王城から百キロ程離れた場所に、アナは転移さえできない状態だからだ。
この二人の為に、もう一度塔に挑む必要がある。
まぁ、俺やセーラが転移魔法で魔王城まで飛べば良い話だが、ちゃんとクリアしておきたいと言う、咲の要望もあっての事だった。
アナも、なら私もと言った具合である。
確かに塔から単独で転移できる様になった方が、本人達も納得して魔王城まで赴けるのかもしれないな。見方によっちゃ魔王城まで行ける資格みたいな感じにも取れるからな。
だから無駄な行動かもしれないが、それは何となくわかる。
迷宮最下層にあるセーラのネグラ……いや本拠地から転移魔法でセナラナの塔まで飛ぶ前に、訓練でお疲れの咲とアナの為に、迷宮の入り口にある町で息抜きを兼ねた気分転換にぶらつく事になった。
本人達は大丈夫だと言い張っていたが、俺の見立てじゃかなり疲弊しているように見えるんでな。
俺は戦闘に挑む際には、仲間の状態をなるべく万全にしたいのだ。
咲とアナは「私達の事よく見てるわね」とか「お気遣いありがとうございます」とか言っていたが、感謝されるほどの事ではない。
本調子ではない二人を連れて行った事で、万一にも足をすくわれ命の危険に晒される事があったら馬鹿らしいからな。
何度も言うが、慢心駄目絶対である。
「う~ん、久々の外ね」
「はい、何だか懐かしい気持ちになりますね」
何だかんだ言っても迷宮の外に出るのは嬉しいらしい。
咲とアナが速足で迷宮一階層から町に続く、出入口から飛び出して行った。
ちなみに最下層から迷宮の転移システムを使って地上に上がった、咲がせっかく迷宮に居るのだから使ってみたいと言ってたからだ。
そんなものかねぇ……うん、そんなものか。
「さ、咲じゃないか!」
「無事だったのか、咲!」
「司馬君、大場君、二人も迷宮に?」
出入り口でばったりとエリート君とがり勉君のパーティと出会った。
エリート君とがり勉君の名前、そんな名前だったっけ。
「咲、今までどうしていたんだ、いきなり姿を消して……心配したぞ」
「そうさ、アルメリアの使者に咲は療養中だとか言われたが、何処にもいなかったからな」
「え……何も聞いて無いの?」
エリート君とがり勉君の後ろで数名の女性があからさまに目を逸らしていた。
彼女達が咲を追い出した者達なんだろう。
「今からでも遅くない、俺達と一緒にセナラナの塔に行こう」
「ああ、俺達が居れば問題無い、ここでかなり強くなったからな」
「……ごめんなさい二人共、私はもう陸君のパーティの一員だから」
「「え?」」
咲が後ろを振り向くと俺と視線を合わせた。
エリート君とがり勉君が信じられないという顔で俺を睨みつけている。
咲が俺を見るまで、俺がここに居た事にも気付かなかったようだ。この二人にしてみれば俺など眼中に無かったんだろうな。
「柏木、悪いが咲は返してもらうぞ」
「咲はお前程度の奴と居るべき人間じゃ無い、分かってるな?」
酷い言われようだ。それとあまり咲を困らせるなよ。
咲はお前等の為に俺を見張っているんだからな、国の支援する真の勇者様達。
……ひょっとして本当に何も聞かされてないのかもしれないな。こいつ等優秀な割に抜けていそうだし。
「それは俺じゃ無くて、咲が決める事だろ?」
「何! 柏木それは聞き捨てならないぞ、俺達は既に迷宮の十階を制覇したこれがどういう意味か分かるな」
「この迷宮で十階に足を踏み入れたのは俺達だけだ、咲を連れていけるのは俺達だけなんだ。そのくらい少し考えればお前でも分かるだろ? その頭は飾りか? 少しは考えろよ!」
……え~と十階か、前に中二病君達と潜ってセーラと再会したのが九階だった筈だ。当時の最高到達点から数か月で一階進んだ計算である。
ちなみにセーラのアジトがある最下層は地下百一階にある。まだ半分どころか十分の一だ。
この迷宮で最高クラスの百階のモンスターでも到底十二将程の強さを持ってるわけでは無い、エリート君とがり勉君のパーティの力量もおおよそ予想がつくというものだ。
……まぁ俺には鑑定魔法があるからエリート君達のレベルが分かるけど、正直偉そうに言える程のレベルじゃ無いよ、君達は。
あまりの力の差に咲は苦笑いを浮かべていた。そりゃそうだろう、咲は既にソロでも百階層のモンスターと対等以上に戦えるのだから。
「咲様はもう翔太様や良二様とは同じ立場では無いのです、察してあげて下さい」
「そうです、今は咲様の自由にさせてあげて下さい」
「無事と分かっただけでも良かったではないですか」
エリート君とがり勉君の後ろに控えていた女性連中からそう諭され渋々引き下がる二人。
……いや、がり勉君は納得いかない顔だ。
「俺は認めんぞ!」
な?
がり勉君のパーティは男が多いが、エリート君のパーティは女性が多い……現状俺のパーティは女性ばかりなのでエリート君の事を悪く言えないハーレム構成だよな、はぁ。
エリート君の腕を引いて、自分達のパーティに戻ろうとする女性に見覚えがあった。
確かピクラルと戦った時に助けた女だ、確か名は……。
「ロゼ……」
咲が悲しそうな顔で呟いた。
ああそうだ、ロゼと言う名で咲が泣きながら介抱していたんだった。。
あ~あ、エリート君を取り合うライバルになっちゃっていたのか。
咲が俺を監視する為にパーティから離れたので、これ幸いとエリート君に近付いたのだろう。
まぁ、彼氏を取られないように頑張れ咲。俺は人の恋路に口を出す気は無いからな。
「あまり感じの良い方々ではないですね……」
「あいつら、最初からあんな感じだったぞ、姉ちゃん」
初対面のアナの呟きに、リタが素直に答える。
それに対し咲が「ごめんなさいね」と謝ると、「咲姉に言ったわけじゃ無いよ」とブンブンと手を横に振るリタ。
リタの奴、咲にまで姉を付けて呼ぶんだな。根っからの妹気質なのだろうか?
……妹気質ってなんだよ? 俺、何言ってんだ?
エリート君達のパーティが去る中、取り巻きと化していた支援部隊の騎士の者が数人俺達の前に歩み寄って来た。
「勇者陸殿、及び勇者咲殿、貴公等とその仲間達にお話があります。勇者翔太様と勇者良二様と御一緒にアルメリアまでお越しください」
ええ~嫌だな。これって行かなくちゃならないのだろうか?
例の冤罪の一件があったからアルメリアの城には行きたくないんだよなぁ。
咲は肩を竦め、クラリッサとアナは困った顔で俺を見ている。
リタは……うん、相変わらず何も考えていないな。
セーラはニンマリと笑って乗り気だ……お前、何だか面白そうな事になりそうね~とか考えているだろ。
はぁ仕方がない、大人しくついて行くとするか。




