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102/122

102・加入

 俺達が根城にしているこの町へ来て、最初に泊まった高級宿泊施設は一部が領主館になり、残りはそのまま宿泊施設を続けてもらっている。

 但し、全てが高級ではなく一般客も泊まれる施設も用意してある。

 俺が向かうのは高級の方なんだが、ここの実質の親玉であるセーラが、こちらの最上階に住んでいるのだから仕方がないのである。

 元々一般人の俺は落ち着かない事この上ない。


 施設の入り口に足を踏み入れるとリタが突然飛びついてきた。

 リタはパーティを組んでいる時はこんなにボディタッチはしてこないのだが、ここに帰って来た途端、妙にベタベタと絡んで来るのだ。

 最初はナイフでも持って体当たりでも仕掛けて来たのかと冷や汗をかいたが、そんな事はなく普通に抱き付いて来ているだけだった。

 その行動は憎っくき勇者を刺すのはいつでもできると、暗に言っているのかもしれない。

 おお、怖いな。

 おかしな事にクラリッサが言うには、リタは助けた他の獣人の子供達が俺にちょっかいをかけているのを見て、焼きもちを焼いてると言うのだ。

 はははっそんな訳がないだろ。

 奴隷から解放されて建前上俺に恩を返す為にパーティの仲間になっているリタは、平和になった故郷に帰って来て知らず知らずのうちに気が緩んでいるだけなのだ。

 俺が刺されずに生きているのがその証拠である。

 しかし抱き付かれた時の、このモフモフ感がとても気持ちいいと思っているのは内緒だ。


「大変だ陸様! クラリッサ姉があの人と!」

「おいおい、落ち着けリタ」


 頭を撫でてやると落ち着いた様で暫くポヤンと呆けていたが、突然ハッと我に返り俺は腕を掴まれ宿の中に引っ張り込まれた。

 最上階にある部屋に入ると「ああ、成程な」と言う光景がそこにあった。

 テーブルを挟んで対面に座る二人の少女達、片方は勿論クラリッサだ。そしてもう片方は……お嬢、なんでここに居るんだ?

 おっといけない、俺の心の中の呼び名を口に出す訳にはいかないな、えっとお嬢の名前は確か……そう咲だ、エリート君とがり勉君がそう言っていた……だが苗字が思い出せない。


「咲さん、何でここに?」


 俺がそう声をかけるとクラリッサと睨み合ってたお嬢……咲がパァと花が咲いた様な顔で俺に振り向いた。

 何だ何だ? そんな顔をしても出せる物は何もないぞ! 

 それを見てクラリッサが不機嫌そうに俺に訴えかけて来た。


「陸さん、咲さんは勇者ですから敬意は払います、ですが仲間になるなら話は別です!」


 は? 何を言っているんだクラリッサは……。

 珍しくプゥと頬を膨らませて俺を見るクラリッサと、逆に少し頬を赤らめ照れるような様子の咲。


「仲間ってクラリッサ、俺は何も聞いて……」

「陸君、お願いがあります」


 俺の言葉を遮り、両手を胸の前に会わせズイッと体ごと俺に迫る咲。

 うおっ! 近い近い、顔が近いよ、君!


「お願いとは、仲間にしてほしいとか?」

「ええ、話が早くて助かります、流石陸君ね」


 流石も何も、話の流れから言ってそうとしか考えられないじゃん……。

 それにしても何で俺の仲間に? エリート君やがり勉君はどうした? あの二人が咲を手放すとは思えないのだが……。


「でも咲さんはアルメリア王国やキングス王国で支援を受けていたのではありませんでしたか? それにあの一緒にいた勇者のお二人が、よく出て行くことを許しましたね」


 あの二人、エリート君とがり勉君の事だ。この二人は苗字どころか名前も思い出せない。

 苗字の方は咲が何度か言っていた気がしたが……うむ、忘れた。


 咲は少し話しずらそうに自分に起きた事を語り始めた。

 咲の話を聞いてクラリッサの顔色と咲に対する態度が変わっていった。

 怒りの矛先はアルメリアの国の重鎮達と、それの支援を受けている勇者達一行に変わっていたのである。


「な、何ですって! そんなの酷い、酷すぎます!」


 さっきまで咲と睨み合ってたクラリッサが涙目を浮かべて、立ち上がりながらそう抗議した。

 当然ながら抗議すべき相手はここには居ないのだが。


「国には国の、彼等彼女等には彼等彼女等なりの言い分があるでしょう、流石に追い出されるとは思いませんでしたが」

「咲さん! 私達と一緒に頑張りましょう、陸さんは絶対見捨てませんから!」

「クラリッサさん……」


 クラリッサが咲の手を取って両手で堅く握りしめながら、勝手に話を進めてしまった。

 全くお涙頂戴な話に弱いなクラリッサは……あれ? クラリッサは裏でアルメリアのエリザベートと繋がっているから、その話は知っていたんじゃないのか?

 おかしい……これはどういう事だ?

 俺が思うに、エリート君やがり勉君に万一あった場合に多少の名声のある俺を抱え込もうとしてた筈だが、俺が魔王城に先に行ってしまった上に総司令官とやらかした事が報告されて、危険人物として見られてしまったのではないだろうか?

 咲が本当に国の支援を打ち切られたのかも怪しい。

 俺の監視の目を増やす為に、クラリッサだけじゃなく咲まで俺の所に送られたんじゃないのか? 

 ……在り得る……咲は勇者だ、国が都合が悪くなったと判断した場合クラリッサより容易に俺を消す事が出来るだろう。


 現実的に考えて、こんな美少女達が俺を巡ったりして争う訳がないしな。

 俺を信用させるために、ご丁寧に互い手を取り合い茶番劇を繰り広げているのだ。

 俺を陥れる為に全くご苦労な事だ。

 

「陸君、実は陸君を訪ねてこの町に来た時に、セーラさんから全ての事情を聴きました。正直に言うと魔王軍と繋がっていたと聞かされた時は、凄く驚きましたし困惑しました……ですが我々人間族が魔王を倒す為には必要不可欠なんですよね、私は陸君を信じます、ここに居る皆と同じように」


 ……咲さん。

 それって……私、全て知ってるよ。ばらされたくなければこれ以上、国の認める真の勇者であるエリート君とがり勉君の邪魔をしないでね、信じているからねって言っているのかな?

 咲にしてみれば十二将ピクラルに当時の仲間をやられているからな。

 魔王軍と繋がっていた俺を許す事など到底出来ないだろう。

 エリート君とがり勉君を立てろと言うならそうしよう、むしろ俺にとってはその方が都合が良いけどな。

 俺は勇者や救世主になりたい訳ではなかったのだから。

 むむ、だとしたら王国側は俺が魔王軍の一部と協力してるのを知っているのか? 分からん……が、気付かないふりをしているのが賢い選択だな、うん。


 ともかく、話の流れからしてセーラが咲を仲間として認めている様だ。

 セーラ達は魔王の命令で勇者を育てるのが目的だった筈だ。

 それが意味するもの、魔王自身が己を倒せる強者を望んでいることに他ならない。

 ……つまり勇者は俺や空、海じゃ無くてもいいのだ。

 エリート君やがり勉君でも、そう別に咲でもいい訳だ。

 あちらから魔王を倒せる候補が転がり込んで来たのだから、こんな良いことはないだろう。

 要は魔王を倒せる可能性がある勇者なら、諸手を上げて歓迎したいのは当然かもしれない。

 まぁ、それ以前にセーラは面白ければそれでいいと思っているのだろうけどな。あいつの性格からして。

 さて、真剣な目で俺を見つめている咲に俺は返事を返す。


「咲さんの意志は伝わりました。咲さんの期待にそえるように努めます、これからよろしくお願いしますね」

「は、はい……それと敬語は止めてほしいのと、私の事は呼び捨てで結構ですから」

「ん、じゃあ俺の事も呼び捨てでいいよ、咲さん……いや咲」 

「それは駄目です、仮にもパーティリーダーなんですから」

「そ、そういうものなのか……」


 何でパーティリーダーだったら呼び捨てが駄目なんだ? 意味が分からん。

 まぁパーティメンバーを組織として考えて、俺が指揮官と考えれば正しいとも言えなくはない気もするが……。

 余談だが、その後に俺が咲を呼び捨てに呼んでるところを聞いて、アナまで同じ事を言い出した。

 男に呼び捨てで名前を呼ばれる事が、女子の間で流行っているのだろうか?

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