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100/122

100・アナ 4

海を渡りキングス王都に着いた時です、そこには一人の勇者を探して大変な事になっていました。


「王が勇者陸を探しておられる様だ」

「あのアルティメイトモンスターを追い払った勇者の事か? そう言えば公都のクインズの者も、その勇者を探していたと聞いたぞ」

「確かその場にいた公爵家の娘の命を救ったとかで、本人が自ら探し回っているらしい」

「そりゃ凄ぇな」


 ……陸様はどうやら雲の上の存在になってしまった様です。

 やはりリタを彼に預けたのは正解でした。確かに強いモンスターと戦う事になるのは危険も大きいですが、私達といるよりはずっといいと思います、うん。

 勇者はニヤリと笑い、嫌らしい顔をして何度も頷きながら「いける」と呟きます。

 え、何を?


「お前達はここに居ろ、ちょっと出てくる」


 嫌な予感がします、絶対碌な事を考えていないに決まってます。

 そして……。

 予感的中です。

 勇者の腰には見た事のない、立派な剣がありました。


「へへ~ん、良いだろう、魔剣だぜ。勇者に相応しいのは聖剣の方だけどな、まぁ、魔剣でもいいか」


 ……そう切り出し、その後も聞いてもいないのに、ベラベラと喋りまくります。

 要約すると、陸様の名を騙り王様から褒美として貰った剣を私達に自慢してたのです。

 どうやら前回のアルメリアの件で味をしめたようです、もう呆れて口が塞がりませんよ。

 案の定、数日後にはバレたようですが、とっくの間に王都を出て既に魔族領の中立地帯に居ました。

 ですが、どうやら追っ手がかからなかったのは、クインズでも陸様の偽物が現れ、そちらの偽物と同一人物と思われた為だったようです。

 幸いその偽物は食事中に陸様と鉢合わせになり、陸様にやられて逃げ出したらしいのですが。

 しかし有名人に成り代わり、良い思いをしようとする不逞な輩は何処にもいるのですね。

 それにしても何故、この勇者はズルをしまくっているのに、罰も当たらずに得をするのでしょうか? 

 それは本来陸様が受ける筈のものなのに。


 <>


 ついにシーマに帰ってきました。

 帰るなり私達は奴隷商の本部に連れていかれ、勇者とはそれっきりになります。

 そうです、私達全員新しい奴隷を買う為に下取りとして売られたのです。

 やっとあの勇者から解放されたという安心感と、これから誰に買われるかという不安でいっぱいです。

 それにここまで一緒に来た四人の子達とも、お別れになるでしょうね。

 リタと別れてからは誰一人亡くならなかったのは、運が良かったとしか言いようがありません。

 私達五人は薄汚れてみすぼらしい姿でしたが、売り物にされる為に身体を念入りに洗われ身形を綺麗にされました。

 着飾った私達を見た奴隷商の支配人が「中々の上玉になりましたな、これならあのお方も満足してくれるでしょう」と、舐めるように眺めながら何度も頷いています。

 どうやら早速誰かに買わせる為に、身体を磨き綺麗な服を着せたのでしょう。

 私達は全員揃って別室に連れていかれます。

 そこで思わぬ人達と再会したのです。


「あ、姉ちゃん!」

「え……まさかリタ?」

「そうだよ、あ、こんな姿してるから分りずらかったのか、でも本物のリタだよ!」


 何故か髪と瞳の色を変えたリタがそこにいました。

 でも、あれ? 貴方は陸様と一緒ではないの?

 ……私達を買ったのはセーラ様という魔族の貴族様でした。

 その方は私達だけでなく、私達を売り込む為に部屋にいた全員の子供の奴隷を買ったのです。

 あわわわ、見た事のない明らかに高額な貨幣と分かるお金で支払うセーラ様。

 とても返済できる金額ではありませんよ!

 一般的に奴隷から解放される条件の一つとして、買われた時以上のお金が必要とされる場合が多い為です。

 ですが私のその不安は杞憂に終わる事になりますが……。


 シーマにある事は勿論知っていましたが、中に入ったことなどある筈のない超高級の宿の最上階に私達は招き入れられます。

 そこでリタがイヤリングを外すと元の髪と瞳の色に戻ります。どうやら変装をしていたらしいのです、そして……。

 セーラ様の横に控えていた黒い鎧を着た人が兜を取ると、そこには私の良く知る顔がありました。

 なんと陸様です、彼もリタと同様に変装をしていたのですね。

 そしてダークエルフの女性はローブを取ると陸様の従者の方でした。

 中立地帯といっても魔族領です、獣人はともかく人間は魔族のフリをしてた方が安全だったのでしょう。


 私達は部屋の中央に集められると、陸様とセーラ様が魔法を唱え奴隷化解呪の魔法で私達を奴隷から解放させてくれました。

 驚きです、奴隷から解放してくれた事は勿論、奴隷化を解除する魔法は凄く高度な魔法だと知っていましたから。

 凄いですね、陸様もセーラ様も。


 その後は色々ありまして、セーラ様はこの町の士爵様どころか領主の伯爵でさえ、ご自分の前に跪かせました……そうセーラ様は只の貴族ではなかったのです。

 魔王軍幹部の十二将のお一人でした……只の獣人の私からしたら本当に雲の上の方です、あわわわ。

 そんなセーラ様にセーラ姉と気軽に話しかけるリタ……うん、リタも凄いわね。

 セーラ様は奴隷の町だったシーマを元の兵士育成の町には戻さず、普通の町として立て直してくれました。

 その際に私もお世話になったラウドネルさんが士爵に任命され、この町を任せられる事になったのです。

 私もここで仕事を貰い働くことになるのですが、当然奴隷とは全然違います。

 ちゃんと賃金は支払われるし、休みも貰える夢のような環境なのですから。


 私は信用されていたのか、陸様達の今の状況を詳しく聞かせてもらいました……ちょっと信じられない話に私は唖然とします。

 魔族のセーラ様と勇者の陸様が一緒に居る疑問は解消されましたが、明らかにこの話は他言無用の情報です。

 万一誰かに話す事がある様なら、消されてもおかしくない程の……絶対に口外しませんけどね。


 それよりもリタには困りました。

 どういう訳か、私と陸様をくっ付けようとしているみたいなのです。

 嬉しいですが私では駄目です、陸様の傍らにいるのはリタじゃないといけません。何故ならリタは確実に陸様に恋してます、ただ自覚はしてない様ですけどね。


 <>


 私は獣人としては珍しく、神官としての才能があったようで、セーラ様直々に手ほどきを受けています。

 以前「陸様のお役に立ちたいですか?」とのセーラ様の問いに、迷う事無く「はい」と返事を返した私に、力を得るチャンスを与えてくれたのです。

 いずれ本格的な修行を約束してもらいました。

 セーラ様も勿論ですが陸様には恩を返さねばなりません。

 彼がいなかったら私達は、アルメリア王国でどうなっていたか分からないのですから。


 そんなある日、陸様達が獣人の奴隷を三人連れ帰ってきたのです。

 その中に……。


「ルナお姉ちゃん?」

「え? アナなの?」


 陸様達がセナラナの塔で保護した三人の戦闘奴隷の中に、私の、いえ私とリタのお姉ちゃんがいたのです。

 リタは憶えて無いでしょうが……。


 私達を売った勇者がシーマで新たに戦闘奴隷を手に入れたのは知っています。ただ、その中にお姉ちゃんがいたのは驚きでした。

 何てことでしょう……私達姉妹はあの勇者にいい様に振り回されていたのですから。

 伯爵の下で兵士をしてたルナお姉ちゃんは、伯爵の不興を買ったそうでそのまま奴隷に落とされたそうです。

 ここの元領主だった伯爵は、獣人を奴隷に落とす事を何とも思わない様な貴族だったらしいです。

 それは当時のこの町、シーマも長も同じだったですけどね。


 お姉ちゃん達の五人いた奴隷は二名が亡くなり、お姉ちゃん達も一度は命を落としたのですが、陸様達に蘇生させてもらったそうです。

 もう陸様には頭が上がらないですね。彼は私やリタだけじゃなく、ルナお姉ちゃんもあの男から救ってくれたのですから。

 勇者は私より年上のルナお姉ちゃん達には興味を示さなかった様ですが見栄えと、戦闘面を考えて傍においていたみたいです。以前の私の立場と同じですね。

 亡くなった二人の奴隷は戦闘奴隷ではなく、今のリタより幼い多少訓練を受けただけの只の獣人の少女だったそうです。

 亡くなった少女達に勇者は「どこが戦闘奴隷なんだ! 騙された」と暴言を吐いていたとか……考えれは直ぐに分かりそうなものなのに。

 ああ、でも亡くなった少女達が可哀想でなりませんね……。

 ちなみにあの勇者はセナラナの塔で行方不明……いえ、亡くなった様です。

 これも因果応報と言うのでしょうか。

 


 <>


 陸様の正室はセーラ様になるでしょうが、側室はリタになってもらいます。従者のクラリッサさんも狙ってる様ですがそれは構いません。

 だって英雄色を好むと言いますからね。

  私も可能ならばその末席にでも加えて貰えればいいなと考えてますが……それは別にいいですよね?

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