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8. モブ、卒業式が近づく

 僕の名前は底野灯都(そこのひと)

 どこにでもいるような小学生だ。

 通行人Aですか? いえ、通行人Cです、というくらいのモブだ。

 もはやモブっぽい名前過ぎて、モブではないかもしれない。

 モブを極めていたら、モブの中のモブになってしまい、モブを脱却したみたいな感じかな?

 うん、ちょっと意味分かんないね。


 そんな僕はとあることから、財閥の御曹司や大女優と大富豪の娘さんと仲良くなった。

 紅葉君と梅さんのことだ。

 梅さんとの一件があってから、しばらく月日が流れ、そして、僕はもうすぐ華月学園初等部を卒業する。


 二月も終わりに差し掛かり、残りわずかで卒業するというとき、僕は生徒会長に呼ばれ、生徒会室に来ていた。


 ちなみに、生徒会長は紅葉君ではない。

 紅葉君は凄いカリスマがあるけど、生徒会長をやるような人物ではないのだ。

 生徒会長をやっているのは、長月楓(ながつきかえで)という男子生徒だ。


 名前から推測できると思うけど、楓君はきっと少女漫画のメインキャラクターだ。

 なんか、この漫画の作者って花とか月が好きだよね。

 学校も華月学園って名前だし。


 楓君は紅葉君や梅さん、白銀の美少年などとは違い、普通の家庭である。

 勘違いしてはいけないのが、僕の言う普通とは、普通規模のお金持ちということだ。


 間違っても、一般家庭のサラリーマンを想像してはいけないよ。

 楓君はこの辺りで有名な病院の院長の息子であり、将来医者になるために勉強に励んでいる。


 医者の息子だからか、とても頭が良い。

 それはもう、めちゃめちゃ頭が良い。

 前世の知識を持つ僕でも、小学校高学年になる頃には楓君に抜かされていた。

 華月学園初等部は全国でもトップクラスの学業成績を誇る小学校だが、その中でも楓君は不動のトップだ。


 その上で、楓君は性格が良い。

 誰にでも分け隔てなく接するし、公正公平を体現したような人だ。


 そんな楓君の髪の色は緑だ。

 日本人が緑の髪をしていると、普通は違和感を覚える。

 でも、楓君は自然な緑なんだ。

 ほんと、どうやったらそんな髪の色になるんだろう?

 染めたわけではなく、地毛らしい。

 うーん、謎だ。


 ちなみに、僕は楓君と同じクラスになったことがない。


 先生たちから聞いた話では、僕と楓君が同じクラスにいると、クラスを纏める人がいなくなるらしい。

 僕にそんなリーダーシップを求めないで欲しい。

 紅葉君の方はよっぽどリーダーシップがあると思う。


 それを先生たちに言ったところ、紅葉君は違う、と言われた。

 その先生曰く、紅葉君はアクセルにはなるらしいけど、ブレーキにはならないらしい。

 うーん、いまいち、よくわからない。

 でも、僕はブレーキの役割を期待されていることはわかった。


 そんなことを考えながら、僕は楓君に目を向ける。


「どうしたの?」

「底野は蓮と仲が良いか?」


 質問を質問で返された。


 蓮というのは白銀の髪を持つ美少年のことだ。

 ピアノがめちゃくちゃ上手い。

 フルネームは葉月蓮(はづきれん)

 漫画の主要キャラだ。

 クールで孤高、そしてミステリアスな少年である。

 紅葉君と蓮君で女の子からの人気を二分しているらしい。


 僕もクールを目指そうかな。

 とりあえず、明日から無口キャラでいってみよう。

 ただのボッチが完成しそうだ。


「底野?」


 僕が自分の世界にトリップしていたら、楓君が僕の顔を覗き込んだ。

 楓君の長いまつげが見える。

 やっぱり、少女漫画のキャラはまつげが長いなー。

 なんてことを思いながら、僕は答える。


「ごめん、あんまり話したことないや」

「だよな……。底野なら、もしかするとって思ったんだが」


 楓君は手に顎を乗せて真面目な顔をする。

 僕が知る中で、楓君は最も大人びている小学生だ。


 紅葉君や梅さんはカリスマ的な存在。

 蓮君はミステリアスな少年。

 そして、楓君は大人。


 僕の予想では、楓君は紅葉君とヒロインを取り合うライバルになる。

 紅葉と楓って名前からしてライバルっぽいしね。

 安直かもしれないけど、僕はそう考えた。

 どっちが本当のもみじか勝負だって感じだ。


 勝つのはきっと紅葉君だろう。

 だって、あれだけカリスマがあって、財閥の御曹司で、男主人公感を出している紅葉君が当て馬なわけがない。

 そう思うと、楓君が不憫に思えてくる。


 僕の同情の視線に気づいたのか、楓君が「どうした?」と尋ねてくる。

 僕はなんでもないと言って首を振った。


「なんで僕が蓮君と仲が良いと思ったの?」

「霜月や睦月と仲が良いからだ」

「紅葉君や梅さんと仲が良いのが、関係してるの?」

「あんな癖のある奴らと仲が良い底野なら、蓮とも仲が良いかもと思ったんだ。霜月や睦月と同等に話せているのは、底野ぐらいだしな」


 類は友を呼ぶってやつかな?

 その理論なら、僕は紅葉君や梅さんと同じになるけど、それはちょっと恐れ多い。

 僕はモブだ。

 彼らのような独特なキャラクター性は持ち合わせていない。


「それで、蓮君がどうしたの?」


 実は、と前置きしてから、楓君は事情を説明してくれた。

 僕はうんうんと頷きながら、一通り話を聞いた。

 そして、頭の中で話を整理した。


 まず、僕たち卒業生は卒業式で合唱する。

 華月学園の生徒として恥ずかしくないようにしなければいけない。


 華月学園は音楽にも力を入れており、毎年、卒業生たちは感動の合唱を披露してきた。

 だから、僕たちの代でも失敗は許されない。

 そして、伴奏は天才ピアニスト少年と言われる蓮君だ。


 蓮君以上の小学生伴奏者は日本中どこを探しても見つからない。

 なぜなら、蓮君は全国ピアノコンクールを総なめにしている天才児だからだ。

 そんな蓮君の伴奏を楽しみにしている人も多いはずだ。


 だけど、その蓮君が伴奏を弾かないと言ったのだ。

 蓮君がそう宣言したのが、一昨日のことで先生たちは大慌て。

 そして昨日、生徒会長の楓君に情報が回ったらしい。


 なるほど、それは大問題だ。

 僕は大きく頷いた。

 でも、残念ながら僕にできることはなさそうだ。

 僕は蓮君と特別仲が良いわけじゃないしね。


 なんなら、挨拶を交わしたことすらない。

 だって、蓮君、他人と壁を作ってるんだもん。

 話を聞き終えた僕は申し訳無さそうに言う。


「力になれなくてごめん」

「いや、俺の方こそ急にすまん。時間取らせて悪かったな」


 楓君は爽やかに笑った。

 カッコいいな、と僕は思った。


 楓君はサッカー部の主将もやっているらしく、県大会までチームを引っ張ったらしい。

 生徒会長で、優しい性格で、頭も良くて、大病院院長の息子で、強豪サッカー部の主将で、イケメンで……。

 あれ?

 冷静に考えたら、楓君のスペックって凄すぎない?

 もしかしたら、楓君が男主人公かもしれない。


 こんなハイスペックな人が迫ってきたら、普通の女の子なら恋に落ちてしまう。

 さて、ヒロインは紅葉君と楓君のどっちを選ぶんだろうか?

 うーむ、迷いどころだ。

 きっと読者もドキドキしながら、展開を見守っているだろう。

 なんだか、僕もドキドキしてきた。

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