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5. モブ、妹を可愛がる

 僕の家は駅近くのタワーマンションだ。

 セキュリティもしっかりしているし、住人は裕福そうな人たちばかりだ。

 でも、僕の通っている華月学園の方がさらに凄いから、タワーマンションが平凡に見えてくる。


 最近はこの考え方はやばいな、と思い始めてきた。

 華月学園の生徒たちと違って、僕は多分、普通にサラリーマンとして暮らしていくと思う。


 そう考えると、高級なものに慣れすぎて、普通の生活ができなくなる恐れがある。


 万札が紙屑のようにしか見えなくなる日が来るのかな?

 だったら怖いな。


 ありがたいことに、両親はこんな僕のためにお金に対する教育をしっかり施してくれている。

 そのおかげで、僕はまだ普通の金銭感覚を持つことが出来ている。


 家に帰るとお母さんが出迎えてくれた。

 お母さんはくるみ色の髪をしたおっとり系の美人だ。


 ちなみにお母さんの名前は底野君江(そこのきみえ)

 『そこのひと』よりも『そこのきみへ』の方が詩的っぽくて良い気がする。

 ちょっぴり負けた気分だ。


 お母さんは僕の後ろで僕の服の袖を握っている梅さんを見て、歓喜の声を上げた。


「灯都がお友達を連れてきたわ! それもお人形さんみたいに可愛い子を!」


 きゃー、きゃー、と騒いでいるお母さんの声を聞いて、ダイニングからお父さんが出てきた。

 お父さんは僕の名前を灯都にした大罪人だ。

 そんなお父さんの名前は底野剛志(そこのつよし)

 至って普通の名前だ。

 僕もそういう普通の名前が欲しかった。

 いや、ある意味僕の名前も普通かも。

 だって『そこのひと』なんだから。


「おっ、ませガキめ。その歳でガールフレンドとは、お父さんは灯都の将来が心配だ」


 お父さんはもともと細い目を、さらに細めて僕を見た。

 お父さんはワイルド系イケメンだ。


 僕の周りは美男美女が多い。

 おそらく、ここが少女漫画の世界だからだろう。

 モブですら美男美女に描くなんて、さすがは少女漫画の作者だ。


 僕は名前すら知らない作者に尊敬の念を抱いた。


 自分でいうのもあれだけど、僕も自分の顔はそれなりに整っていると思っている。

 けれど周りを見ていると、平凡だと感じてしまう。


 今、僕の後ろにいる梅さんなんて、超絶かわいい美少女だ。


「剛志さん、まだ灯都は小学生よ。まだ(・・・)、お友達よ」


 まだってなんだよ、まだって。

 これから違う関係になるみたいに言うなよ。

 僕と梅さんはお母さんが邪推するような関係じゃない。


「うん? そうか。灯都が友達を連れ来るのは珍しいから、つい勘違いしてしまった」


 僕が友達いないみたいに言うんじゃない。

 僕だって、遊ぶ友達ぐらいはいる。

 あれ?

 僕って友達いたっけ?

 紅葉君は……友達だと思っているよ。

 ちょっと立場が違い過ぎるから、なんか友達って気軽に言えないけど。


 僕は思考を切り替えて、両親に梅さんを紹介する。


「友達の梅さんです。お腹が空いているようなので、ご飯に招待しました」


 ちゃっかり、梅さんを友達だという僕。

 あんまり梅さんと話したことはないけど、ここまでくれば友達で良いよね?


「睦月梅と申します。よろしくお願い致します」


 小学生なのに、梅さんは丁寧な言葉を使う。

 梅さんは腰を曲げて頭を下げた。


 綺麗な姿勢で頭を下げるなー、と僕は感心した。


「あらあら、ご丁寧にどうも」


 お母さんが梅さんに向かって、おっとりと微笑む。


「ささっ、梅ちゃん。さっそく上がって頂戴」


 梅さんはお母さんに促されて、靴を脱ぎ、恐る恐る家に上がった。

 その後、僕は梅さんを連れてダイニングに入った。


 ちなみに僕の家は4LDKだ。


「適当に座って」

「それでは……失礼いたします」


 梅さんはソファに腰掛けた。

 そのとき、がちゃりと扉が開いて、小さくて可愛らしい女の子が僕たちの方にてくてくと歩いてきた。

 僕の妹だ。

 名前は底野瞳(そこのひとみ)という。


 なんで、そういう名前にするかな?

 僕はお父さんのネーミングセンスを疑う。

 お母さんもどうして反対しなかったのかな?


 まあ、いまさら言うことでもないけど。

 もし、僕が名前をつける場にいたら絶対に反対するよ。


 妹は僕の6つ下だ。

 まだちっちゃくて可愛い。

 これが大きくなって、「お兄ちゃん、うざい」とか言ってきたら、僕は絶望で死んでしまうかもしれない。

 どうか、妹は可愛いままでいてくれ。


 にぃに、おかえり、と妹が僕を出迎えてくれた。

 こんな可愛い妹がいてくれて、僕は幸せ者だ。

 よしよしと妹の頭を撫でると、妹は気持ちよさそうに目を細めた。


 僕と妹のやり取りを梅さんがじぃーっと見ていた。


「どうしたの?」


 僕が梅さんに尋ねると、なんでもない、と首を振られた。

 きっと瞳が可愛くて撫でたかったのだろう。

 しょうがないな。

 妹を僕一人で独占するのには、妹は可愛すぎる。

 だから、梅さんにも撫でさせてあげよう。


「この人は僕のお友達だよ。梅さんが瞳の頭を撫でたいって」

「そ、そんなこと言ってないわ」


 すぐさま、梅さんは否定を口にする。

 そんな梅さんに、僕は暖かい目を向けた。

 強がらなくてもいいんだ。

 妹の可愛さは全世界一なのだから。


 妹は可愛くて大きな目を梅さんに向けた。

 梅さんを見上げている妹の姿は、もう抱きしめたいぐらい可愛い。

 もはや地球という枠には収まりきらない可愛さだ。


 梅さんは戸惑ったように視線を彷徨わせて、僕の方を見る。

 何を迷っているのだろうか?

 きっと、あれだ。

 妹が可愛いから本当に頭を撫でていいか、迷っているのだ。


 僕は一つ大きく頷いた。

 妹の可愛さは、撫でられたところで減ったりはしないよ。

 むしろ、さらに可愛くなるから安心して撫でて欲しい。


 梅さんが恐る恐る瞳の頭に触れた。

 そして、ゆっくりと手を動かして、瞳の頭を撫でた。

 瞳は気持ちよさそうに目を細める。


 なんか、ほんわかする光景だな。

 お父さんとお母さんも優しい目で二人の様子を見ている。

 僕の心も暖かくなった。

 梅さんを連れてきて良かったなと思った。

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