4. モブ、美少女を家に連れ帰る
どうしようかな……?
僕は自慢じゃないけど、コミュケーションが得意じゃない。
うん、自慢することじゃないね。
前世の記憶があるから、人間関係は上手くやれるほうだ。
何か問題が起きたときの対処もちょっとだけ得意だ。
でも、普段の会話は苦手だ。
ちょっと離れた位置で皆に接してしまう癖がある。
冷静に考えれば、僕って友達少ないよね。
悲しくなってきた。
僕は散々悩んだ挙げ句、空を見上げることにした。
そして、ぽつりと言う。
「今日も月が綺麗だね」
空に浮かぶのは満月のお月さま、ではなく、中途半端に欠けた月だ。
それも曇っていて、全く綺麗に見えやしない。
やってしまった……。
僕のコミュニケーション能力の低さが露呈してしまった。
梅さんが、何いってんの? みたいな目を向けてきた。
僕は何を言っているんだろう?
かの文豪は小説の中で『月が綺麗ですね』を『愛している』という意味で使ったらしい。
僕の場合は、『月が綺麗だね』を『こんにちは』という意味で使った。
僕も文豪になれる気がしてきた。
きっと僕が死んでから百年後ぐらいには、『こんにちは』の代わりに『月が綺麗だね』と言うのが当たり前になっているはずだ。
僕は何を考えているだろう?
色々と恥ずかしくなってきた。
「灯都さんは……どうして、ここにいるのですか?」
それは哲学的な問いかけかな?
我思うゆえに我ここに居たり。
冗談だよ。
ちゃんと答えるよ。
「僕の家がこの近くにあるからだ」
「灯都さんも何か辛いことがあったのね……」
会話が噛み合っていない気がした。
僕のコミュニケーション能力が低いからかな?
なぜか僕は梅さんに同情されている。
僕の頭は絶賛パニック中だ。
買い物の帰りに公園に寄った僕は、もしかしたら不幸なのかも知れない。
そんなわけないな。
梅さんの考えが全く読めない。
どういう意図での発言かわからない。
昔から、そうなのだ。
華月学園の子との会話は、上手く噛み合わないことが多い。
きっと住む世界が違うからだ。
だけど、僕は機転を利かせて、梅さんの話に乗る。
「えっと、梅さんも何かあったの?」
僕は何もないけど、梅さんは何か辛いことがあったのだろう。
鈍感な僕でもそれぐらいのことはわかる。
梅さんが眉間に皺を寄せて、僕を見た。
うん?
怒っているのかな?
あ、でも梅さんが口を開けたり閉じたりを繰り返している。
これはきっと何か言いたいことがあるけど、言えないときの仕草だ。
僕はこういうときの対処法を知っている。
相手が言いたくなるまで待ってあげることだ。
僕は梅さんの横に座ることにした。
「僕で良ければ話を聞くよ」
梅さんは、ぽつり、と言葉を吐いた。
「家に帰りたくない」
なるほど、そう来たか。
どうやら、僕は家出少女を見つけたらしい。
まあ、なんとなくそんな気がしていたけどね。
だって、梅さんが一人で外を出歩くことなんてめったにない。
ひょっとすると、初めてなんじゃないかな?
つまり、今日は梅さんの大冒険なわけだ。
わざわざこんなところまで来るのは、よっぽどの理由があってのことだろう。
僕は梅さんの顔をしっかり見て尋ねた。
「何があったの?」
梅さんは首を小さく横に振った。
どうやら、これ以上は答えてくれないらしい。
無理に事情を聞き出すのは、紳士的じゃない。
僕は紳士だから、梅さんが話したくないなら聞かない。
うーん、でもどうしようか?
僕の知っている梅さんはもっと気が強くて凛としているのに、今日の梅さんは弱々しくてポキっと折れてしまいそうだ。
そんな梅さんを放置して去るなんて、僕にはできない。
「僕の家に来る?」
「……迷惑じゃない?」
「大丈夫。僕の両親は優しいから。それに梅さんのような可愛い子が来たら、きっと大喜びだよ」
「私は可愛くない……」
梅さんが俯いた。
僕が「可愛い」なんてキザなセリフを吐いたから、呆れてしまっただろうか。
深く反省しよう。
また、沈黙ができた。
そんなとき、ぐぅーっとお腹がなる音が聞こえてきた。
僕のお腹からじゃない。
それなら、音の出どころは一つしかない。
梅さんがりんごのように顔を真赤にしていた。
「僕のうちにおいでよ。お母さんの料理は美味しいんだ」
僕は立ち上がって、梅さんに手を差し出した。
梅さんは悩むような仕草を見せる。
でも結局、顔を赤くしたまま、僕の手を握った。
そうして梅さんを連れて僕は家に帰った。
なんか行動だけ見ると、僕って結構怪しい人だな。
公園で一人ぼっちの女子小学生を、食べ物でつって拉致したみたいだ。
まあ、僕も小学生だから、問題ないけどね。