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30. モブ、カフェテリアを利用する

 学園のカフェテリアは凄く綺麗だ。

 外装と同じ赤レンガの内装。

 英国を思わせるお洒落さがある。

 ここにいると、僕もお洒落になった気分になる。

 気のせいかな?


 木製の椅子の座面には皮製のクッションがある。

 天井には大きなシャンデリアがぶら下がっており、レトロな異国感を醸し出している。

 これが学校のカフェテリアなんだから、驚きだよね。


 どのメニューも高い。

 一番高価なコースは目ン玉が飛び出るほど高くて、びっくりした。

 普通の高校生が払えるわけがない。

 紅葉君なら毎日食べられるだろうけど……。

 僕はそんなにお小遣いを貰っていない。

 普段は弁当なんだけど、今日は午前中に試験が終わるということで弁当はなしだった。


 高等部のカフェテリアで食べるのは初めて。

 でも、中等部のカフェテリアと流れは一緒だから、問題ない。

 ちなみにカフェテリア以外にもレストランがある。


 レストランはここよりもさらに値段が高く、一流のシェフが作っているらしい。

 僕は高すぎて一度も行ったことがないけど、梅さんいわく美味しいらしい。

 あの梅さんが美味しいというなら、きっと本当に美味しいんだろうな、と思った。


 この学園には少なからず一般家庭の生徒もいる。

 だから千円ぐらいで食べられるメニューもある。


 昼飯で千円……。

 それでも高い気がするけれど、僕は一番安価なメニューを頼むことにした。

 普通の唐揚げ定食だ。


 座る席を探していると、楓君が一人で食べているのを見つけた。

 楓君は友達が多く、いつも誰かといるイメージだから、一人で食事しているのが珍しい。

 僕は楓君の近くに行く。


「前の席、座っても良いかな?」


 楓君は視線を上げて僕を確認すると、爽やかな笑顔で「いいぞ」と言った。

 僕は楓君の前に座る。


「今日のテストはどうだった?」


 僕は座ってすぐに楓君に尋ねた。


「いつもどおりだ。ほとんど中等部の内容だったからな。底野はどうだ?」


 楓君のいつもどおりは、いつもどおり完璧ってことだ。

 ほぼ満点近い成績を毎回のテストで叩き出す楓君は頭が良すぎる。

 加えて、一年生にしてすでにサッカー部のエースとなっている楓君は凄い存在だ。

 僕なんかとは次元が違う。

 その才能をちょびっと分けて欲しいぐらいだ。


「僕は……あんまりかな」


 今回はトップテンに入れないかもしれない。


「まだ始まったばかりだ、気にすんな」

「うん、そうだね」


 明日から頑張って挽回しよう。

 それから、僕たちはご飯を食べながら色んな話をした。


 楓君は生徒会に入ることが決まっており、


「底野も一緒にやらないか?」


 と誘われた。

 でも、


「僕は生徒会って柄じゃないから」


 と言って断った。

 楓君は中等部の頃も僕を生徒会に誘ってくれた。

 楓君曰く、「底野がいると、場の雰囲気が明るくなる」らしい。


 ホントかな?

 まあ、でも僕はゆるきゃらだからね。

 きっとマスコットみたいなもんだろう。


 楓君と話をしていると、カフェテリアで耳が痛くなるような笑い声が響いた。

 楓君が眉を潜める。

 僕は後ろを振り向く。


 お金持ちのお嬢様グループがいた。


「公共の場というのを理解して欲しいな……」


 と楓君がぼやく。

 彼女らは有名企業の社長令嬢らであり、下手に関わると碌なことにならない。


 紅葉君や梅さんのような強い立場でもない限り、注意するのも大変だ。

 僕が生徒会をやりたくない理由の一つに、彼女たちのような人がいることだ。


 家の権威や権力を振りかざして、横暴に振る舞う。

 彼らとは話が通じにくく、会話するだけで疲れてしまいそうだ。


「あそこに村崎さんがいるのが、意外だな」


 僕の言葉に楓君が頷く。

 お嬢様グループの中に村崎さんがいて。

 彼女は居心地の悪そうに座っている。

 どうみても、村崎さんがいる居場所じゃないと思う。

 だって、村崎さんだけ浮いちゃっているし。


「家の付き合いってやつかな?」

「そうだろうが……。面倒なものだな、子供の頃から社会での人間関係を気にするってのは」


 僕も同感だ。

 お金持ちの子息子女は裕福で羨ましいように見える。

 でも、そういう生活に慣れているから、お金を持っていることをありがたいと思わないらしい。


 お金をたくさん持っている代わりに、一般人にはわからないような苦労がある。

 特に人間関係は一番の苦労な種だ、と紅葉君がよく口にしている。


 だから、案外お金持ちよりも普通の家庭の僕の方が気楽で幸せなのかも知れない。

 他人と比べて自分の方が幸せなんて、あんまり考えないほうが良いんだけどね。


「楓君も人間関係を気にして生きてるの?」

「多少はな、出たくもないパーティーにも参加させられる」

「クリスマスパーティーとか?」


 クリスマスパーティーとは、その名の通りクリスマスの日に行われるパーティーだ。

 あ、でも僕の家で行うような小さなパーティーじゃないよ。

 華月学園で言われるクリスマスパーティーは、特別だ。

 お金持ちがたくさん集まるパーティー。

 華月学園の人からすると、そのパーティーに出るのが一種のステータスにもなっている……らしい。

 僕にはわからない感覚だね。


「そうだな……」


 と、楓君は頷いてから続けた。


「底野はクリスマスパーティーに出たことがないのか?」

「僕は一般家庭だし、そんなのにお金を払う余裕はないよ」


 一度の参加で何十万単位の出費になる。

 梅さんから額を聞いたときは驚きで倒れそうになった。

 この世にそんなに高いお金を払うパーティーがあるのかってね。


 クリスマスパーティーは豪華客船で開かれたり、超有名ホテルを貸し切ったりしてやるらしい。

 眩しい世界だね。


 僕たち家族でやるパーティーなんて、1万円もあればやれてしまう。

 飾り付けも家族みんなで作るお手製のものだ。

 そんな家でのパーティーを楽しいな、って思ってる。


「睦月や霜月が連れて行ってくれないのか? あいつらなら底野一人分のお金を払うぐらいできると思うが……」

「駄目だよ、そういうのは。僕は弱い人間だから一度友達にお金を払ってもらうと、次もって期待しちゃう」


 梅さんが「私がお金を払いますので、参加してみませんか?」と誘ってきれくれたことがある。

 もちろん断ったよ。

 他人のお金でパーティーに参加するのはおかしいと思う。

 それに、僕は友達とはお金で繋がっていたくないんだ。


 お父さんからよく言われるんだけど、お金で繋がった友達はお金がなくなったときに切れるんだ。

 だから、僕はみんなと対等な友達でいたいと思っている。


「そう言える底野は素直に凄い」


 楓君に褒められて、ちょっと嬉しくなった。

 楓くんは続けて言う。


「霜月や睦月は、普段から金や権威に群がる奴らを相手にしているから。だからこそ、底野みたいな純粋なやつを好ましく思うんだろうな」

「そうなのかな?」

「そうだ」

「そっか。それなら、僕はいままで通り彼らと接するよ」


 僕は一人の友だちとして、紅葉君や梅さん、それに蓮君と一緒にいたいと思う。

 あと、楓くんもね。

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