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26. モブ、告白してしまう

 蓮君に相談した翌日。

 僕は夕方のホームルームが終わると、真っ先に桜さんの机の前に行った。


 教室が静かになる。

 この雰囲気が嫌いなんだよね、と僕は思う。

 誰かが牽制しているような感じがする。


 でも、僕には関係ない。

 今日は話すって決めたんだ。

 蓮君が僕の背中を押してくれたし、僕が躊躇う理由はどこにもない。


 桜さんが僕を見る。

 僕も桜さんを見た。


 可愛い顔しているなーっと思った。

 素朴な感じで癒やされる。

 華月学園は派手な顔の人が多いから、桜さんの顔を見るとなんだか落ち着く。


 髪がピンク色なのは、もはや気にならない。


 平凡というのをこういうふうに表現するんだ、と僕は漫画作者の技量に感服した。

 って、そうじゃないな。

 僕は桜さんと話すために来たんだ。

 見惚れている場合じゃない。


 あれ?

 でも、何を話すんだっけ?

 文芸部入りませんかって誘えばいいのかな?

 僕と桜さんはまだ一度も話したことがない。

 なのに、いきなりそれを言うのもおかしな気がする。


 駄目だ、混乱してきた。

 教室中の視線が僕に集まっている。

 そんなに見られたら、僕は緊張してだめになる。


 あれこれと考えていたら、頭が真っ白になった。

 桜さんが不思議そうに見つめてくる。


 僕は軽く息を吸ってから言った。


「付き合ってください!」


 教室がしーんとなる。

 もともと静かだったんだけど、今は誰も話をしていない。

 本当の静寂が訪れた。 


 僕は唖然とする。

 何かとんでもないことを言ってしまった気がする。


 僕は今なんて言ったんだ?


 今からちょっとだけ僕に付き合ってもらえませんか、みたいなことを言おうとしたんだ。


 でも、焦った僕は色々と省いて言ってしまった。

 すると、どうだろうか?

 あら、不思議。

 告白の完成だ。


 うわー、やってしまったよ。

 僕は顔が一気に熱くなるのを感じた。

 きっと、りんごのように真っ赤だろう。

 恥ずかしい。

 穴があったら入りたい。

 むしろ、穴になりたい。


「いや、あの……これは……」


 僕はなんとか訂正しようとするけれど、上手く言葉が出てこない。

 パニックで頭が回らない。

 すると、余計に告白後の男子みたいになってしまった。


「ごめんなさい」


 桜さんは頭を下げた。

 僕の目の前に桜色のシュシュが見える。

 僕は振られたんだろうか?


 別に好きだったわけじゃないよ。

 それでも振られると傷つくのが純情な男子高校生ってもんだよ。


 僕はよくわからないまま告白して、よくわからないまま振られた人になってしまった。

 それもクラス中みんなが聞いている中でだ。


 僕はどうしたらいんだろう?

 救いを求めるように周りを見渡したら、梅さんが僕たちの方に歩いてきた。

 最近の梅さんは怖いことが多いけど、今日はいつもに増して怖い。


 梅さんは僕を一瞬だけ睨んだあとに、桜さんの方に目を向けた。


「桜さん、ちょっといいですか?」


 桜さんが梅さんのほうを向いて「はい」と頷く。

 梅さんは存在感に、桜さんはちょっとだけ気圧されているようだ。


「灯都さんが伝えたかったのは『今から時間ありますか? もし良ければ、少しだけ付き合ってください』ということです。誤解させるような言い方で申し訳ありません。私達は文芸部でして、現在部員を募集しております。そこで、部活動に入っていない桜さんを誘おうという話が出ており、話しかけた次第です」


 梅さんは僕のフォローをしつつ、部活動の勧誘までしてくれた。

 頭の回転がとても速く、僕は感心した。

 部長が梅さんをブレインと評するのがよく分かる。


 梅さんのおかげで、僕は『突然告白して振られた人』というレッテルを貼られずにすんだ。

 僕は女神を見る目で梅さんを見た。


 そういうことね、と桜さんは納得したように頷く。


「ごめん、告白だと勘違いしちゃった」


 桜さんが僕に視線を移して謝ってきた。


「僕の方こそごめん。桜さんと話したかったから、つい変なことを言っちゃった」


 僕がそういうと、梅さんがジト目で僕を見てきた。

 そして、僕に注意するように言ってきた。


「そういう発言が誤解を招くのですよ」


 誤解?

 僕は首をひねると、梅さんが溜息を吐いた。

 なんか、梅さんを困らせてばかりだな。

 ちょっと申し訳ない気持ちになった。


 梅さんが桜さんに視線を戻す。


「今から部室でお茶会をしますので、一度部室に来てみませんか?」


 桜さんは梅さんをじっと見た後に疑問を口にした。


「どうして私なの……?」

「桜さんは休憩時間によく本を読まれていますよね? 読書がお好きなようなので、きっと文芸部でも楽しくやっていけると思いました」


 梅さんは凄いなぁ、と僕は今日何度目かの感心をする。

 僕が勘で「桜さんなら文芸部に入ってくれる」と言ったのに対し、梅さんはちゃんと理由を付けて説明してくれた。


 桜さんは何かを考えるように、視線を斜め上に向けた。

 そして、一つ頷きを見せたあと、梅さんと目を合わせる。


「そういうことなら、部室に行ってみようかな」


 これでひとまず、桜さんを部室に誘うことに成功した。

 僕は梅さんに親指を立てる。

 グッジョブという意味だ。


 灯都さん、と梅さんが僕の名前を呼ぶから、はい、と僕は応えた。


「今度から何かあるときは必ず私に言ってくださいね」


 梅さんの冷ややかな視線に、僕はぶるっと体を震わせる。

 背筋が凍るような感じがした。

 さすがに今回の行動は軽率だったかもしれない。


 真っ直ぐにしか進めないにしても、次からはもっと考えてから行動しよう。

 僕はそう誓った。

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