表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

12. モブ、音痴を披露する

 早速今日から、梅さんの家で音楽レッスンがある。

 本当は梅さんの車に乗せてもらって行く予定だったけど、僕が先生に呼ばれたから、梅さんには先に帰ってもらった。

 自転車で行っても、梅さんの家まではそんなに遠くない。


 梅さんの家に行くのは久しぶりだな。

 少し緊張する。

 梅さんの家は大きいし、なんだか威圧感があるから。

 守衛さんに挨拶をすると、すんなりと中に通してくれた。


 そして、広い庭を歩いて、エントランスにたどり着く。

 玄関の前で瀬羽さんが待機してくれていた。


 僕は瀬羽さんに案内されて、梅さんの家の中を歩く。

 途中で大きなプールを発見した。

 これぞ豪邸って感じだった。

 全体的に白が目立つ家だ。

 内装も白塗りの壁で清潔さが保たれている。


 家の中が広すぎて、掃除とか大変そうだな。

 僕は自分の部屋を掃除するのも面倒で、よくサボってしまう。

 そうするとお母さんに怒られるから、仕方なく掃除している。


 あ、でも梅さんの家には掃除屋さんがいるよね。

 きっと僕の心配は杞憂だ。


 梅さんの家の中を歩き、目的の音楽部屋に着いた。

 僕は部屋の中に通される。


 室内にはグランドピアノがあり、その近くにはソファが置いてある。

 そして、梅さんがいた。

 梅さんと向かい合うようにミディアムヘアーの女の人が立っている。

 女の人は透き通るような白い肌の美人だった。


 二人は僕の存在に気づく。

 梅さんがぱたぱたと僕の方に駆け寄ってくる。


「灯都さん、いらっしゃい。本当は出迎えに行きたかったのですが、レッスンが始まってしまっていて。申し訳ありません」

「僕の方こそ、ごめん。ちょっと遅くなっちゃった」

「先生に呼ばれたなら仕方ありません。灯都さんは皆さんに頼られていますから」


 うーん、そうなのかな?

 先生にこき使われているだけな気がする。


「さあ、こちらに来てください」


 僕は梅さんに促され、ピアノの近くまで行く。

 すると、女の人が挨拶をしてくれた。


「はじめまして、春咲美花(はるさきみか)です。よろしくお願いします」


 美花さんは僕に向かって丁寧に頭を下げた。

 美花さんが顔を上げたときに、ちょっと良い匂いがした。

 大人の女性の香りだ。


「底野灯都です。よろしくお願いします」


 僕もちょこんとお辞儀をする。


「梅様のボーイフレンドは可愛らしいですね」


 美花さんがからかうように言うと、梅さんが顔を赤くした。


「灯都さんとは、そういう関係ではありません!」


 うん、僕たちはそういう関係じゃない。

 僕と梅さんは仲の良い友だちだ。

 それに、僕のようなモブと梅さんとでは釣り合いが取れない。


 うふふ、と美花さんは口を抑えて上品に笑った。

 僕は美花さんから大人の余裕を感じた。

 梅さんも大人っぽいけど、本物の大人には敵わないようだ。

 僕は、ぷくっ、と頬を膨らませる梅さんを可愛いと思った。


「では、灯都くんも来られたことですし、さっそく始めましょう」

「よろしくお願いします!」


 僕は元気よく言い、そして、美花さんのレッスンに臨んだ。

 普段ここでは、ピアノのレッスンをしているらしい。

 だけど、今日は僕のために、合唱のレッスンに切り替えてくれたのだ。


 なんだか、申し訳ない気持ちになった。

 梅さんはそれで良いのかな?

 そう思って梅さんを見る。

 梅さんは春の日差しのような笑みを浮かべていた。


 梅さんが嫌じゃないなら、僕は構わないよ。


「まず、灯都くんがどこまで歌えるかを聞いてみましょう」


 そういって美花さんはピアノの前に座る。


「あんまり上手くないんですけど……」

「大丈夫ですよ。そのための練習ですので。のびのびと歌ってください」


 のびのびかー。

 僕は音痴だけど、本当に良いのかな?

 僕の音痴で皆の耳を汚さないか心配だよ。

 でも先生が大丈夫と言っているなら、頑張って歌うことにしよう。


 ちなみに僕たちが歌うのは混声二部合唱だ。

 勇気を与えてくれるとても良い合唱曲だ。

 心に響く曲であり、辛いときに聞いたら感動すると思う。


 先生が伴奏を弾き、僕は歌い始める。

 最初は緊張していたけど、最後は気持ちも乗って上手く歌えたと思う。


 ふぅー。

 まあまあの出来かな?


 僕はそう思って梅さんを見ると、梅さんが驚いた顔をしていた。


「灯都さん……合唱の練習をサボっていました?」

「心外だな。僕はいつも真剣だよ」


 周りの人に音痴がばれないように、声は小さくしている。

 だけど、ちゃんと歌っているよ。


 美花さんは困った顔で僕を見ていた。


 もしかして、僕の歌ってそんなに下手なのか?

 合唱曲はそれなりに歌えていると思っていた。

 だって、お風呂場で毎日練習していたんだから。


「大丈夫です。まだ、卒業式まで時間があります。一緒に頑張りましょう」


 美花さんがぐっと拳を握って言った。


 僕は結構頑張らなきゃいけないぐらい下手なんだ……。


 その日、僕の練習がメインとなってしまった。

 混声二部合唱だけど、僕が下手すぎて梅さんの練習にならなかったのだ。

 凄く申し訳ない気がした。


 次回のレッスンは断ろうと思った。

 だけど、梅さんに引き止められ、美花さんも僕の音痴を放置できないと言った。


 というわけで、週に三回のペース。

 卒業式までの間、僕は梅さんの家に通うことになった。


 余談だけど、レッスンのお礼として、お母さんが作ってくれたクッキーを梅さんに渡した。


 僕のお母さんのクッキーは美味しいんだ。

 サクサクしていて、どれだけでも食べられてしまう。

 だから食べすぎには注意してね、と梅さんに伝えておいた。

 そしたら、梅さんは「灯都さんじゃないから、食べすぎませんよ」と笑っていた。


 僕って梅さんの中ではどういう評価なんだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ