1. モブ、前世を思い出す
幼い頃から、何かがおかしいと思っていた。
具体的に何がおかしいかはわからないけれど、僕はずっと違和感を覚えて生きてきた。
例えば、マスドナルドのロゴだ。
‘M’の形をしているが、僕の知識の中ではマスドナルドロゴは‘m’のように二つの山が曲線を描いているはずだった。
他にも、僕の知識とこの世界の常識がちょっと違うな、と思うことがしばしば。
こんなこと言うと、他の人には「大丈夫?」って心配される。
だから、僕は違和感を自分の中にしまい込んだ。
そうして、小学生の高学年になったときだ。
ふと、違和感の正体を突き止めた。
僕は前世の記憶を思い出したからだ。
前世の僕は理系の大学生をやっていた。
成人式を出た記憶があるから、二十歳にはなったのだろう。
だけど、就職した記憶がまったくないから、おそらく大学生のときに死んだのだ。
死んだときの記憶はないし、前世に対する未練もない。
それもそのはずだ。
前世は記憶でしかないから、ああ、昔そういう自分がいたんだな、程度にしか思わない。
それになにより、僕は僕だ。
生きているのはこの世界の僕だ。
こうして前世を思い出した僕は客観的にこの世界を見られるようになった。
そうすると、ますますこの世界はおかしいことに気づいた。
例えば、クラスにいる赤い髪の男子。
本当に、綺麗な赤色をしている。
うん、この時点でおかしいよね。
そんな漫画に出てくるような髪の子供は、普通にいないと思う。
そのことに誰もツッコミをいれないし、他にも白銀の髪の美少年とか、緑の髪の子とかもいる。
百歩譲って髪のことはいいんだ。
そういう髪の人だっているし、たまたま、同じ学校に集まっただけかもしれない。
さらに僕が違和感を覚えたのは、彼らがびっくりするほどハイスペックなことだ。
まず赤髪の少年。
日本人なら誰でも知っている財閥の御曹司らしい。
それも日本で最初に株式会社を立ち上げた財閥らしく、日本経済を牛耳っているといっても過言じゃない。
そんな凄い出の少年は、運動も勉強もできて、顔も良い。
性格は俺様系であり、ちょっとだけ近寄りがたいけれど、それを含めても皆の人気者だ。
白髪の少年は天才ピアニストだし、緑の髪の少年は大病院院長の息子でとても頭が良い。
他にも、大女優と大富豪の娘さんが同級生にいて、その子はお人形さんのような綺麗な顔をしている。
なんなんだろ?
次元が違いすぎて、僕には彼らが眩しすぎる。
そして、最も違和感を覚えたのが僕の名前だ。
僕の名は灯都。
一見すると、凄い重要なキャラっぽい名前に思える。
だって灯の都だよ?
なんとなく、かっこよくない?
でも、あいにく、僕の名字が底野なんだ。
組み合わせるだよ。
僕の名前は底野灯都になる。
『そこのひと』って、それはないと思う。
完全にモブキャラじゃないか。
通行人Aですか? いいえ、通行人Cです、って感じだ。
僕は両親のネーミングセンスを疑う。
底野っていう名字なのに、なんで、灯都という名にしたんだろう?
他にもいっぱい違和感があるけど、結論として、僕はこの世界が少女漫画の世界だと考えた。
でも、原作の知識はないから、原作ブレイクとかイベントフラグを折るとか、僕はそんなこと気にもしない。
僕はこの世界で平穏に生きていこうと思っている。