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彼女らの寄り道

作者:

「人生どうなるかわからないよね。」

「わかりますわ、お姉さん。私もいつの間にかここにいますわ。」

「その話し方、何とかならない?」

「ならないですわ。せんせいがかわいいって言ってくれましたわ!」

「あっそ。」

「それよりもお姉さん、それやめてほしいですわ?」


 私は、隣に座る少女の頬にトマトジュースを押し付けていた。

 てか、それを言うならずっと私のポニーテールで遊ぶのもやめてほしい。


「いや、やるっていったじゃん。飲めよ。」

「優しさから言ってくるのはわかるけど、うっとおしいですわ?」

「こら、私が世界で一番嫌いで大好きな飲み物だぞ。」

「大人はみんな難しいですわ。せんせいはもっと素直でわかりやすかったですわね。」

「で、その先生に会うために抜け出してるわけだ。」

「自由に抜け出せる時間は今しかないんですもの。」

「想像より悪ガキだな。」

「あら、お酒を買おうとしてるのを見ちゃったのだけど。」

「それを黙らせるためのこれだろ。」

「わたしもう12歳よ!?」

「ジュースじゃだめってか?」

「むしろなんで行けると思ったのかしら、お姉さん。」


 後ろから、葉っぱを砕く音がした。

「お酒~?脱走~?晶さんもう少し詳しく聞きたいなー?」


 あっ。

「あっ。」

「にゃっ。あきちゃん……?」


 やばい。詰んだ。


「はやく教室に戻りなさーい!!!」


 これが今の私、菫ちゃんの毎日。どう?退屈でしょ?





「ここが、今日からあなたが通う学校です!」


 そういって案内されたのは、なんかの事務所と塾がくっついたみたいな場所だった。


「でも私、馬鹿だし。いまさら学校なんて。」


 たしかに二か月前まではかろうじて高校生だった。

 しかし毎晩のお仕事だったりでろくすっぽ頭には何も入ってない。


「フリースクール?なにそれ、お母さん。」

 家に帰っていろいろあって、それから私は高校を辞めた。

 遠いってのもあるけどあの外道野郎が私のSNSをばらまく可能性があったからだ。

 そのあと、まあ多少センチメンタルに引きこもりでも決めてやろうかと思ったのだが、それはやめた。

 だって、そんなのかっこよくないじゃん?

 そこで、新たな行先としてお母さんはこんなところを紹介してきた。


「これから基本的に週に5回、ここに来てほしいです。」

「欲しい?」

「強制はしないよ、だってここはそういうところじゃないもの。」

「でもスクールってついてるじゃん。」

「ここに平日は毎日来てるけど勉強なんてまったくしてない子もいるよ?」

「へ?意味がちょっと。」

「そしたらあってみれば?ここはわりと社交的な子が多いもん。」

「は、はあ。」


 すると、中から小学生と中学生の間のような子が飛び出してきた。


「あきちゃん!私お腹がすいたのだけどお昼が食べたいわ!」

「ゆきちゃん、ちょうどいいところに。」

「あ、あの子が?」


 小学生のうちから不登校か、かわいそうだな。

 悪いけど、それが素直な感想だ。


「なにかしら?あら、新しいお姉さんだわ。こんにちは!」

「こ、こんにちは。」

「今日からここに来る今井菫さん、よろしくしてあげてね?」

「わかったわ!よろしくね!」

「え、あ、よろ、しく、ね?」


 素直な、あまりにも無垢な手はまっすぐとこちらに伸ばされている。


 五月蠅くしない物静かな子だといいなと思ったっがちょっと期待外れだ。


 でも、きっと、潤子さんならこの子にも優しくできるんだろうか。なら。


「うん、よろしくね。ゆきちゃん。」


 私は膝を折り、目線を合わせ挨拶した。


「よかった、ファーストコンタクトは悪くなさそうね。」

「まあ、このくらいは。」

「素直じゃないんだから。ああ、もうゆきちゃん行っちゃった。」


 そして、晶さん、いや、先生は私にこう聞いてきた。 


「お腹すいてる?カレー食べない?」

 悪くない気分で、さわやかな気分で。


「食べます!」


 私は、自分のものとは思えない明るい声で返して、中へと入っていった。





 あの女の子と二人仲良くカレーを食べてから、なんのタイミングか二人だけで教室に残された。

 最初に会った時よりは多少、仲良く話せるようになった。はずだ。


「それでね、いまこんぴにでね。」

「え、えっと。そのこんぴに、はコンビニのことだよね?」

「そうよ!私はこう呼ぶわ!可愛いもの!」


 子供のことはわからない。

 まあなんだ、語感がかわいらしいことはわかる。

 それにこんな笑顔で語るのだから。悪くないだろ。

 この一言を聞くまではそう思っていた。


「せんせいと使うコンドーム、とかいうのを買おうとしていつも止められちゃうの。酷いわ!」


 は?


「せんせいは大きくなったらっていつも言うけど、そんなの待てないわ!」

「そ、そうかあ。」


 私も大概だが、この子実はかなりヤバい子なのでは?

 私はゆきちゃん、いやそう呼べとお冠で言われた。のことを聞き出すことにした。

 共感したかったのかもしれない、なにか、なにかを変えたかった私はダメもとで晶さんに声をかけた。


 意外なことに、彼女はそれはもう真剣そうな顔で私にあの子のことを教えてくれた。


 曰く、彼女は家庭環境が一時期乱れていたらしい。

 曰く、彼女はそれを担任の先生に救ってもらったらしい。

 曰く、それがもとでその先生に強く依存してしまう恐れがありここにいる。


 似てるな、とはおもったのだ。

 けど、逆だ。


 彼女は手が届く、私は届かない。


 逆位置のようなものであった。


「ねえ、ゆき。先生とは最近会ったの?」

「毎週土曜日に小学校でお勉強を教えてくれてるわ!」

「そっか、いや。いいんだ。なら、それでさ。」

「好きな人と会える時間は多ければ多いほどいいのだけど。」

「いいじゃん、あえない時間も。」

「お姉さんにもいるの?好きな人。」


 少し顔を赤くして聞いてきた、かわいい。


「ああ、いるよ。大好きで仕方ないもうしばらくは会えない人が。もう会えない人が。」

「そう、なんだかごめんなさい。」

「いや、これでいいんだ。」

「え?なんでかしら?」


 私は、耳にそっと囁いた。


「一人は、もう死んじゃったんだ。でも、もう一人、彼女には、いつか必ず会えるの。それだけで私は幸せなの。」

「彼女?」

「————私ね、女の子が好きなの。変でしょ?」

 どこかあきらめたように言うと。

「そんなことないわ!」

 むきになったようにこう返してきた。


「誰かを好きになる気持ちはとっても素敵な物よ!それは、ただ、ただ素敵なの。それだけなのよ?」

「大人だね、ゆき。」

 胸をそらし、彼女はこう言った。

「ふふん、私、これでもとっても大変な恋をしてるのよ!おこちゃまね!お姉さんは。」


 ふふっ。


「そうだよ、私はおこちゃまさ?」

「でも、それもいいと思うわ?だってそれが悪いことなんてどこにも書いてないもの。」









 ねえ、潤子さん。私、元気だよ。前に進めるよ。そこに行けるよ。



 まだ、子供だもん。先があるんだから。


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