訓練がてら魔物の相手をする
クォンツァイタ安置所に近付いているらしい、アダンラダという魔物。
一番気を付けるのは、素早い動きに翻弄してからの爪だったかな。
確か、Cランクくらいの冒険者であれば、単独で討伐できるはずだけど……四体いるのが少し厄介だろう。
基本的に群れず連携を取る事はないけど、一体に集中していたら、別の固体から爪で攻撃されるとか、尻尾に掴って邪魔されるといった事もありえる。
とはいえ、兵士さん達は十人以上いるので、よっぽどの失敗がなければ問題なく討伐されると思う。
「怪我人くらいは出そうだが、問題という程でもなさそうだな。フィリーナ殿の集中を乱す可能性があるので、討伐までしばし待って欲しい」
「それは構いません。ここまで滞りなく魔法具化できているので、余裕もありますから」
特に急いでいるわけでもないので、討伐が終わるまで待機するとシュットラウルさんに頷くフィリーナ。
建物の近くで、魔物と兵士さんが戦っているとなれば、そちらが気になったりもする。
窓がなくても、音くらいは聞こえそうだからね。
「……シュットラウルさん、やっぱり怪我人は出ますか?」
「ちょっとした怪我をする者はいるだろう。魔物と戦うのだからそれくらいはな」
「うーん……それじゃあ、俺が行ってササッと倒して来ますよ。荷物を運んでくれたり、兵士さん達も頑張っていますから」
大きな問題はないとはいえ、魔物が相手だ。
こちらの方が数が多く、取り囲んで倒すとしても怪我をする人くらいは出そうだし、それなら俺が行って倒した方が良さそうだと思った。
兵士さん達に任せるのが嫌とかではなく、荷物を運んでくれたりで少し疲れてもいるだろうし、俺はここまで何もしていないから。
それに、積極的に戦って少しでも訓練代わりにしたい、というのもある……というか、それが一番かな。
「リク殿の戦闘を見られるのであれば、私も兵士も願ったりだが、良いのか?」
「構いません。訓練にもなりますし、そのための冒険者ですから」
「実戦を訓練と言い切れるのは、リク殿くらいだろうな」
そうなんだろうか? エアラハールさんとか、それくらいになるとアランラダくらいならあまり身構えない気がするけど。
もちろん、魔物が相手だし油断をするわけじゃないけどね。
「わかった、リク殿に頼むとしよう。だが……そうだな。――私の剣を持て!」
「畏まりました……」
「シュットラウルさん?」
了承してくれたシュットラウルさんは、少しだけ考えてすぐ、執事さんに声をかける。
剣って言ってたけど、もしかして戦う気なのかな?
「なに、リク殿に全てを任せるわけにもいかんからな。私も、少々体を動かしたい気分でもある」
「大丈夫ですか?」
「リク殿と比べれば、路傍の石のようなものかもしれんが、これでもそれなりに武器を扱えるのだぞ? 兵士達に厳しい訓練を課す以上、私もある程度はできねばいかん。アダンラダ程度なら、怪我をする事もないからな」
シュットラウルさん自身、武器を持って戦う事もできるようだ。
もしかすると、兵士さん達の訓練に混ざってたりしているのかもしれない。
「ルーゼンライハ様、剣をお持ちいたしました」
「うむ。たまには、こいつも使ってやらねばな」
執事さんが恭しく、シュットラウルさんに差し出した剣は、レイピアと呼ばれる細剣。
レイピアはアメリさんが持っていたのを見た事があるけど、それとは違って鞘や柄に装飾がされている。
受け取ってすぐ、すらりと鞘から抜いたレイピアの剣身はショートソードの半分程度の太さしかなく、だけど長さはロングソード並みだ。
綺麗な剣は、使っていないからというよりも手入れが行き届いているように感じられた。
「では、参ろうか」
「……わかりました」
レイピアを確認して、頷き促すシュットラウルさん。
それに頷いて、フィリーナや執事さん達を残して、建物の向こう側へ。
「侯爵様、私達も」
「行きますよ~」
移動し始めた俺とシュットラウルさんの後ろを、アマリーラさんとリネルトさんが追従しながら声をあげる。
二人共、それぞれ槍と剣を持っており、戦う気満々の様子。
ちなみに、アマリーラさんが槍でリネルトさんが剣だ。
「うむ。まぁ、アダンラダは私とリク殿で十分だろうが、お前たちは周囲の警戒をしてくれ。他にも魔物がいるかもしれんし、別の魔物が近付いて来るとも限らんからな」
「はっ、畏まりました」
「了解しました~」
シュットラウルさんの指示に、二人が返事をするのを聞きながら、建物を迂回して移動。
遠くの方に山や森が見える以外は、何の変哲もない草原が広がっていて、数メートル先にどう見ても人間ではない黒い魔物が四体、こちらの様子を窺うようにしていた。
他にも、兵士さん達はそれぞれ戦闘の準備を終えているのか、抜き身の剣や武器を持って魔物の方を見ている。
「お前たち、魔物は私とリク殿が受け持つ。アマリーラ達と協力して、他に魔物がいないか周辺を調べろ。それと、英雄リク殿が戦う場面を見られるいい機会だ。参考になるかはわからないが、警戒しつつも見ていろ」
「侯爵様……はっ!」
兵士さん達と合流後、すぐにそちらにも指示を出すシュットラウルさん。
迷ったりせず、素早く指示を飛ばす様子から、こういった事に慣れているように見えた。
指揮をする人が、的確に命令してくれると兵士さん達もやりやすそうだなぁ。
「してリク殿。……その剣で戦うのか?」
「はい、まぁ訓練の一環です。あ、別に手入れしていないからって言うわけではなくて、使い古した剣を使うっていうのが重要です」
「そ、そうか。リク殿なら問題ないのだろうが……通常なら、そんな装備で大丈夫か? と問いただすところだな」
どこぞのゲームだろうか? まぁ、シュットラウルさんが知っているわけないけど。
とにかく、俺が抜いた剣はエアラハールさんから使うように言われている、ボロボロで錆びている剣だ。
一応、いつも使っている魔法具の剣も持っているんだけど、訓練を兼ねるならやっぱりこっちだね。
「それじゃあそろそろ……シュットラウルさんが一体、残りを俺で」
「……四体だから、半々の二体ずつと考えていたが……わかった」
シュットラウルさんに声をかけ、アダンラダ討伐の分担を決める。
兵士さん達はアダンラダから距離を取りつつ、周囲の警戒のために広がり、さらにリネルトさんが走り回って他に魔物がいるかを調べている様子。
意外にも、大柄なリネルトさんは素早い動きだ。
小柄なアマリーラさんは、俺達の後ろで、槍を持って不動の構え……何かあれば、いつでも動き出せるように備えているんだろう。
なんとなく、見た目からは役割が逆な気がしたけど、人は見かけによらないというからね。
周囲にいる人達が万全の体制を整えたのを確認しつつ、俺とシュットラウルさんはゆっくりとアダンラダへ近付く。
こちらを窺っているアダンラダは、それぞれいつでも飛びかかれるように姿勢を低くしていて、その標的も俺やシュットラウルさんに定めている様子だ。
正面から剣を持って近付けば、一番の警戒対象になるよね――。
アダンラダもリク達を敵と認識したようです。
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