魔物に襲われて壊滅した村と生き残り
「ちょうど次の見回りをする兵士が派遣される前、つまり前回の派遣から日数が経っていた。討伐されない魔物が増えたんだろう。冒険者に依頼しようにも、ちょうど増えた魔物が村近くの街道を遮るように陣取っていたようだ。そうして、私達や領主貴族の兵士が来る前に、魔物達は村へと襲い掛かり……」
「壊滅したんですね……」
「うむ。村の田畑はあれ、建物は原形を留めている物はなく……強力な魔物がいたわけではないのだが、数がそれなりに多かった。到着する際に現陛下には離れてもらい、私を含めた護衛の兵士達と討伐した。討伐そのものは、それほど手間取らなかったのが逆に堪えたな」
「手間取らなかったのがですか? 兵士さん達への被害も少ないなら、良かったと思いますけど……村の人達が犠牲になっているので、喜べないのはわかりますが」
魔物の討伐が順当に行ったのなら、喜ぶべき事だと思う。
兵士さん達に大きな被害が出なかったって事でもあるからな。
シュットラウルさんに言ったように、先に村の人達が被害に合っているため、手放しで喜べる状況ではないというのはわかるけど。
「我々か、領主からの見回り兵か、そのどりちらかが間に合っていれば……と考えてしまうのだよ。後悔というやつだな。もっと早くこうしていれば、もっと早く……など、色々と考えてしまうものだ」
「……そうなんですね」
そうか……もし強力な魔物がいて、兵士も手を焼くようであれば気休めだけど、相手が悪かったと諦める事もできる。
到着が早くても、少なからず村への被害は出ただろうから。
でも、そこまで手間取らなかったからこそ、間に合っていればと考えてしまうってわけだ……村が魔物に襲われる前に到着できていれば、被害がほとんどなかったのかもしれないから。
もし、という思いが浮かぶんだろう、俺ももしあの時……なんて後悔をした事はあるし、気持ちはなんとなくわかる。
「まぁ、そうやって村一つが壊滅させられた場所に、幼い陛下がいらしたのだよ。魔物を討伐した私達は、陛下がおとなしく離れて待っていてくれるであろうと思っていたのだが、静止の兵士を振り切ってな。王女で幼いながらも、上に立つ者として後ろでただ座して待つだけではいけない! と仰ってな」
「……そう、なんですね」
姉さんなら、となんとなく想像がつく。
別に前線で戦おうとか、自分が魔物を! というわけじゃない。
単純に、自分だけ守られていて後ろに下がり、魔物の討伐を任せるだけというのが我慢できなかったんだろう……村一つが壊滅状態である、と知っていれば尚更。
姉さん、よく漫画とかで戦争を扱っているもので、将が後ろに下がっていて兵士の士気が上がるはずがない、とか言っていたからね。
まぁ、大体姉さんが憤っている対象は、漫画の主人公達の敵軍……つまり負ける側だったりするんだけど。
大した能力のない指揮官が自分が傷付くのを恐れてとか、よくある話だね、物語の中でだけど。
とは言っても、何も考えず前に出るだけが良い指揮官というわけではないとは思う。
「そこからの陛下は、その場にいた全員がその時の事を忘れられない程だった。見ていられない程の嘆きようだったな」
「ね……陛下が……」
シュットラウルさんから聞くその時の姉さん。
魔物達は既に兵士さん達で全て討伐していたんだけど、崩れた建物、魔物達にやられた村の人達の遺体などを見て、泣き叫んだのだと言う。
初めてそう言った場面を見たからと、幼い子供には酷な状況だったんだというのは、想像に難くない。
しかも相手は魔物、人間同士、剣と剣で斬り合ったような状況ではない……つまり、村の人達の体は引き裂かれ……まぁ、色んなものがそこかしこに散らばっている状態のままだったとか。
兵士さん達も、魔物の討伐直後だったため、片付けとかもまだ始まる前だったらしい。
そういった状況を見た姉さんが、泣き叫び、時には吐きながら、それでいて決して目を逸らさなかったのが印象的だったと、シュットラウルさんは言っていた。
「誰の責任というわけでもない状況なのだが、陛下は自分を責めていたようだったな。そして、そうしているうちに陛下がある事に気付いたのだ」
「ある事ですか?」
「あぁ、生き残りの住人だ……」
姉さんがひとしきり泣き叫び、それでも目に焼き付けてのどが枯れ始めた頃、薄っすらと声を聞いたらしい。
その声の出所を探ると、作物などを貯蔵していたであろう大きめの建物の残骸からだと突き止める。
まだ生き残りがいる、との希望に姉さんが飛びつき、残骸の瓦礫をどかし始めたのだそうだ。
「そうは言っても、まだ幼い女の子。崩れた建物の残骸などをどうにかできる力もない。しかし陛下は、私達が止めるのも聞かず、手から血が流れても決して止めなかった……」
とにかく助けようとしたんだろう、止めても聞かない姉さんを、何人かで引き離して兵士さん達が代わりに、残骸の処理を始めた。
すると、声が残骸の中ではなく、地面の下から聞こえるのに気付いたのだそうだ。
作物を貯蔵するため、建物の中には地下があり、そこに村の一部の子供達を避難させていたらしい。
そうして助け出された、少ない子供達が唯一の生き残りなんだとか。
「切羽詰まっていたため、多くは避難できなかったのだろうな。助け出された子供達は、放心状態の子、陛下と同じように泣き叫ぶ子、意識を保っていられない子と、様々だった」
「いきなり魔物に襲われて避難して、出られたと思ったら……ですからね、仕方ないでしょう」
「うむ。子供達がそうした状況になるというのは、それなりの修羅場を見てきた私達でも厳しい物があったな。だが唯一陛下だけが、子供達に向かって行ったのだ。私達は、どうしたらいいのか途方に暮れていたのにだ。今思えば、宥めるや惨状から離して休ませてやる、といった対応が正しかったと思うのだが、冷静さを欠いていたのだろう」
「村が壊滅、魔物の討伐、それから子供達の救出と色々あったんですから、冷静になるのも難しいですよ」
「そうだな。だが陛下はただ一人……泣き叫び、惨状を前に吐き出していたにもかかわらず、一人だけ冷静だったのだ。いや、冷静じゃなかったから、そうできたのかもしれないが……」
「何をしたんですか? 子供達に向かって行ったと言っていましたけど……」
「子供達に向かって、地面に手を付いて謝ったのだよ。あなた達の村、親達を救えなくてごめんなさい、とな」
「そんな事を……」
さっきシュットラウルさんが、自分を責めているようだったと言っていた。
だからこそ、姉さんは後悔して自分ならできた事をできなかったと考え、子供達に謝ったのかもしれない。
「それでも子供達は落ち着きを取り戻さなかったがな。それも当然か、陛下は身なりは良くてもまだ幼く、子供達から見て誰かもわかっていなかったのだから。とはいえ、それを見ていた私達は衝撃でな。本来治める側、王女が民である子供達に頭を下げたのだ」
偉そうにふんぞり返る姉さんじゃないのは、俺はよく知っているけど……権力者側から見ると、自分に非がないのに子供達に対して頭を下げるのは、信じられない行為だったんだろう。
気軽に頭を下げるのは、上に立つ人としてはやってはいけない事でもあるからね――。
むやみやたらに下の者に頭を下げないのも、上に立つ者が威厳を保つのにも必要……な事もあるのかもしれません。
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