調査と指名依頼
組織の関与が疑われると、ベリエスさんに話した後、皆でどうするか考える。
さすがに何かあるのでは? と思える状況で、依頼を受けずにのんびり過したいなぁ……なんて考えている時じゃないからね。
「リクとフィリーナは、農地関係の用があるだろう? だから、個々は私とモニカ、フィネが動くのが一番だろう」
「うーん……クラウリアさんとかツヴァイの事があるから、ソフィー達だけに任せるのもなぁ……」
ソフィーの案は、俺とフィリーナが農地のハウス化をするために動いている間、残ったメンバーで魔物の討伐をしつつ、調査をする事。
ハウス化は、俺が結界を張らないといけないし、クォンツァイタを結界と繋げて魔力電池みたいにするのにはフィリーナが必要。
なので、俺とフィリーナは最低でも明日は動けない。
かと言って、もしツヴァイやクラウリアさんのような、魔力を与えられて通常よりも多い魔力量を持った人がいた場合、危険だ。
「だったら、私も付いて行くの。エルサはリクといないといけないから、私が適任なの」
悩む俺に、ユノが手を挙げて主張。
確かに、街と農地を移動するのにエルサも必要だから、空いているのはユノくらいだ。
「でも、大丈夫なのかユノ?」
「大丈夫なの。どんな魔力量だって、魔法が当たらなければどうという事はないの!」
自信満々に答えるユノ。
……地球というか、日本で知ったらしき台詞っぽい事を言っているし。
いやまぁ、どんな魔法でも避けてしまえば危険はないんだろうけど。
「ユノなら、エアラハールさんの剣すら簡単そうに避けるから、確かにできそうだな。だがまぁ、わざわざ自ら危険に近付く事はしないさ。調査はするが、危ない、私達だけではどうにもできないと感じたら、すぐに引く。無理はしない」
「うーん、まぁそれならいいのかな……?」
「それに、別行動にしてもどうせ訓練で合流するし、センテにいるからな」
俺とフィリーナが農地に行くとは言っても、エルサで移動だしハウス化をしたらセンテに戻って来る。
さらにシュットラウルさんと約束した、兵士さん達への訓練もあるから、ルジナウムとブハギムノングの時と違って数日離れる事もない。
ソフィーやフィネさんもいるし、本当に危険なら無理しないと言っているんだから、信用するべきかな。
「わかった。それじゃソフィー達に任せるよ」
「あぁ」
「こういう時くらい、リクさんに頼らずにやってみせるわ」
「リク様のお役に立てるよう、微力を尽くします」
「任せるのー」
頷いて、ソフィー達を見ながら伝えると、四人から頼もしい返事が返ってきた。
これなら大丈夫そうだ……心配し過ぎてもいけないね。
「話はまとまったぞ、ギルドマスター」
「まだ私から頼むとは言っていないんだが……」
「だが、頼もうとはしていただろう? でないと、この場で話す必要もない」
「まぁ、そうなんだけどな。リク様が直接ではないにしろ、協力してくれるのならありがたい。それに、ソフィーがいればこの辺りの事も詳しいだろう」
「長くセンテにいたからな。ここらは庭みたいなものだ」
ソフィーが言って、ベリエスさんが苦笑しながら頷く。
街中はまだしも、センテの南はソフィー以外行った事がないから、案内も兼ねてくれるのは頼もしい。
「それで、この依頼は……受付に戻ってから受諾すればいいか?」
「いや、私からの指名依頼とさせてもらおう。報酬も弾む。リク様がいるパーティだからな、他の冒険者と一緒の扱いではないだろう」
「ふむ……だが、ずっと魔物の討伐や調査というわけにもいかないからな。指名されるのはいい事だが、毎日かかりきりというわけにも……」
冒険者ギルドの依頼は、受付で依頼を受けるのが基本だから、ソフィーもそうしようとしたんだろう。
だけど、ベリエスさんからは指名依頼としてこの場で受けさせてもらえるらしい……特別扱いなのはありがたいけど、他の冒険者さん達に少し申し訳ない気もする。
ともあれ、指名依頼だとその依頼の遂行に集中しなければいけないため、兵士さん達との訓練に参加できなくなってしまうので、ソフィーが難色を示す。
直々に頼まれたのは俺だけど、ソフィーやモニカさん、フィネさんも参加する事になっているし、ユノなんて次善の一手を教えようとしているみたいだからね。
「何かあるのか? そういえば、訓練とか言っていたか」
「あ、俺もソフィー達もですけど、シュットラウルさん、ルーゼンライハ侯爵から頼まれて……」
ベリエスさんに侯爵家の兵士と訓練する事を伝え、毎日依頼にかかりっきりになるのは難しい事を説明する。
「領主様からとなると、こちらばかり優先もしていられんか」
「だが、冒険者でもある。貴族様からとはいっても、そちらばかり優先するのもな……」
訓練ばかりでも、冒険者として依頼を受けて……という事ができなくなるし、指名依頼だとそちらにかかりきりで訓練ができない。
「だったら、ソフィー達の自由が利く範囲で構わない。今のところ、他の冒険者達に任せていて大きな問題になっていないのだから、大丈夫だろう。協力してくれるだけでありがたい」
「いいのか? 明日は一日依頼のために動けるが、それ以降は短時間になったり、動けない日もある。できる時に受付で依頼を受けるようにした方がいいと思うが……」
「まぁ、そこはギルドマスターとしてなんとかしてみせるさ。ただ、報酬は減ってしまうが」
「ちゃっかりしているな。しかし、それは仕方ないだろう。なに、魔物を討伐して自分達で補填してみせるさ。ちょっと試したい事もあるからな」
結局、ベリエスさんとソフィーで話をまとめてしまった。
まぁ、実際に調査や討伐をするのはソフィー達なので、それでいいんだろうけど。
とにかく、指名依頼にはなっても動ける時に調査や討伐をする、訓練に参加するとしても、一日中でなければ空いた時間に……となった。
これが冒険者依頼を先に受けていて、後からシュットラウルさんの訓練話が来たのなら、冒険者は依頼を優先するべきだけど、先に約束をしたのはシュットラウルさんとだからね。
貴族というのもあるけど、先にした約束を反故にするのは良くない。
まぁ、シュットラウルさんもつきっきりで訓練をしなくても、とは言っていたので時間の余裕はあるだろう。
午前は魔物の調査、午後は訓練にしてもいいわけだからね……逆でもいいかな? まぁ、そこらはその時次第か。
これなら、俺も時間に余裕がある時は調査に参加できるだろうからね――。
――ベリエスさんとの話をまとめて、指名依頼を受けるため依頼書の作成や記入などを終え、正式に依頼を受けて部屋を後にする。
受付まで戻って来ると、身長差が結構ある獣人の女性の二人組がキョロキョロとしていて目立っているのを発見。
「もしかして、あれがシュットラウルさんの使いの人、かな?」
「だろうな。冒険者にしては身なりが良すぎる」
「両肩に、ルーゼンライハ侯爵家の紋章があしらわれています。間違いないでしょう」
シュットラウルさんの使いの人が、既に来ていたようです。
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