ルーゼンライハ侯爵がいる部屋へ
「リク、絶対にハウス栽培を成功させるのだわ。キューが買えなくなってはいけないのだわ。場合によっては、私も協力するのだわ。……リクの結界より、厚いのは作れないのだけどだわ」
「はいはい、ちゃんと成功させるよう頑張るから、安心して」
キューを食べながらも、話を聞いていたエルサが意気込む。
相変わらず、キューに関する事になると必死だなぁ。
魔力量の関係上、エルサより俺の方が強固な結界ができるらしいから、協力できる事があるのかはわからないけど。
「……ありがとう、モニカさん」
「ふふ、これくらいは気にしないでいいわ。……リクさんのお世話って、ちょっと楽しいわね」
「フィネ、モニカが何か新しい方向に目覚めそうだ」
「まぁ、元々モニカさんは面倒見が良い人なので、不思議ではないですが……リクさんが特別という事でしょう」
エルサがキューを食べた時、よだれが頭から垂れるくらいになってしまったので、移動しながらモニカさんに拭いてもらう。
面倒をかけで申し訳ないと思うけど、モニカさんは楽しそうというかなんというか……。
後ろで、ソフィーとフィネさんがヒソヒソ話をしているようではあるけど、俺とモニカさんの名前くらいしか聞こえなかった……まぁ、こういう事はよくあるので今更気にする事もないかな。
「モニカ、私もなのー」
「はいはいユノちゃん」
「ふぬー、ふぬー……!」
ユノは、拭かれる俺を羨ましく思ったのか、わざと口の周りをキューで汚して、モニカさんに拭いてもらう。
モニカさんの面倒見がいいのはマリーさん譲りだけど、さすがにわざと汚すのはどうかと思うよ、ユノ?
案の定、ユノは口の周りを強めに拭かれて、目を白黒させているし……。
久しぶりのセンテで、ちょっと懐かしんだり寄り道をしながら、庁舎区画へと向かった。
街の中心から南へ行った先に、センテの庁舎区画があり、そこから全体を見渡すように建っているのが、センテ中央庁舎……らしい。
見渡すようにとは言っても、他より少し高い建物なだけの五階建てだ。
その建物の最上階が、センテの代官さんなど街のお偉いさん達がいるらしい。
領主貴族などが街に来た際には、特別な宿屋……というかほぼ屋敷を貸し切って寝泊まりするらしいけど、日中は行政の建物か、冒険者ギルドで執務をすると聞いた。
フランクさんは冒険者ギルドにいる事が多かったけど、ルジナウムは魔物の脅威に晒されていた影響で、ギルドと協力する必要があったからだね。
基本的には庁舎などの行政を司る場所にいるとか。
護衛の必要性だとかもフィネさんが言っていて、気軽に街中を歩くわけにもいかないらしい。
まぁ、貴族様が街をフラフラ歩いていると危ないし、お店の人達だってどうしたらいいか困ってしまうからとか。
「じゃあ、とりあえず建物に入って聞いてみればいいかな」
「そうですね。もし他の場所にいるようであれば、行き先も聞けるでしょうし……特に約束もない者なら、門前払いになる事もありますが、リク様なら問題ないでしょう」
フィネさんに話を聞きながら移動し、庁舎前に到着。
周辺も何やら人が出入りしていたり、他のお店が立ち並ぶ場所とは違う雰囲気だ……オフィス街の雰囲気に近いかも。
建物は、中心に五階建ての物以外二階建てくらいの物ばかりで、高層ビルなんてないけど。
五階建ての庁舎に入ると、まず目に入る入り口正面の受付……大きく「こちらで受付をして下さい」と書いてあるので、受付で間違いないだろう。
受付は楕円形のカウンターになっており、奥の左右には金属製の扉があった……厳重だ。
まぁ、行政を司る場所で、貴族が来る事もあるのだからこれくらいは当然なのかな? 常時冒険者がいたり、元冒険者がいるギルドとは違って、衛兵さんが警備していても基本的に戦えない人達っぽいし。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい、本日はどのようなご用件でしょうか?」
とりあえず、受付の女性に話し掛ける。
カウンターの内側には、女性が二人立っていてそれぞれ来た人たちに対応しているようだ……どこかの会社の受付嬢かな?
にこやかに対応してくれる受付嬢、もとい女性だけど、視線は俺の頭というか……キューを食べて満足そうに寝ているエルサに釘付けだ。
目立つから、そちらに視線が行くのは仕方ないか。
「こちらに、ルーゼンライハ侯爵はいらっしゃいますか?」
「……失礼ですが、お客様はどのような?」
「あ、すみません。俺はこういう者で……」
侯爵の名前をを出したからか、訝しがる表情へと変化する女性。
考えて見れば、用件も何もなく貴族の名前を出したら、怪しまれるか。
まずはこちらの身分を証明するため、冒険者ギルドのカードを取り出して見せる。
こういう時、身分証代わりになるギルドカードは便利だよね、最近使ってなかったけど。
「Aランクの冒険者カード……? 確認させて頂きま……リ、リク様であらせられますか!?」
「えっと……はい。そうです」
カードを受け取り、俺の名前などが記してある部分を見て、驚く女性。
隣にいたもう一人の受付の女性も、目を見開いて驚いている。
こういう反応にも、大分慣れたなぁ……なんて思いながら、頷く。
「た、大変失礼しました! リク様だとは知らず……」
「あぁいえ、先に名乗らなかった俺も悪いですから……」
すぐにガバッと頭を下げる受付の女性二人。
急に大きな声を出したので、周囲からの視線が集まっている……これにも結構慣れたなぁ。
俺の後ろで様子を見守っているモニカさん達の方を、ちらりと見れば、そちらは苦笑しているだけだ。
皆も、結構こういう状況に慣れているみたいだね、居心地悪そうではあるけど。
「申し訳ございません。リク様、侯爵様よりはお話は伺っております。ご案内いたしますので、ついて来て下さいますでしょうか?」
「はい、わかりました」
受付の女性に案内されて、建物の奥にある金属の扉の鍵を開けて中へ。
鍵かけてあったんだ……まぁ、不審者とか暴漢とかが入り込まないようにだろうけど。
ヘルサルは、ここまでじゃなかったと思うけど、その辺りは街ごとに違うものなのかもしれない。
「ここには来た事があるが……奥に行くのは初めてだな」
「一介の冒険者が、庁舎の奥に行く事なんてそうそうないものね」
「私は初めてなのー」
俺に続いて、モニカさんやソフィー、ユノも話しながらついてくる。
フィネさんやフィリーナは、黙っているけれどキョロキョロと周囲を見ているようなので、興味はあるんだろう。
「こちらになります。――ルーゼンライハ侯爵様、リク様一行が来られました!」
階段を上り、廊下を歩き、建物の五階の一番奥にある、大きめの観音開きになっている……これまた金属製の扉の前で立ち止まる。
受付の女性が、拳で強めに叩きながら大きめの声を出して中へと呼び掛けた。
……金属の扉だから、軽いノックや通常の声だと中に届かないからかな。
「な、なに!? は、入ってもらえ!」
「はい。失礼します……リク様方、どうぞこちらへ」
「失礼します」
中から、何かが倒れた音と共に、男性の慌てた声で入室を許可される。
結構重い物が倒れたような音がしたけど、大丈夫かな?
ともあれ、受付の女性が扉を開けて促され、中へと入った――。
何やら慌てている様子の侯爵様は、何をしていたのでしょうか……?
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