治癒魔法の絶大な効果
「ここが、怪我をして動けない人達が集められてる場所よ」
昼食を食べた後、俺はフィリーナにお願いして、怪我が酷くて広場に来られ無かった動けないエルフの居る所に案内してもらった。
「ここが……」
「ええ。全員というわけではないけどね。自分の家にいるエルフもいるわ」
案内された場所を見渡した。
そこは野戦病院のような有様だった。
怪我の手当をしている人達だろう、数人のエルフが走り回ってる
木で簡易に作られた小屋のような建物だけど、中は広い。
その中で、地面に藁で出来た敷物が敷いてあり、その上で数十人のエルフ達が横たわっていた。
「酷い有様ね」
「うむ……しかし、ヘルサルにリクが居なかったらこれより酷い事になっていたのかもしれないな」
「かわいそうなの……」
俺の後ろで、小屋の中を見て顔をしかめながら話してる三人。
確かに酷い状況だね……。
足が片方、または両方無かったり、腕も同じような事になっているエルフも何人かいる。
そこかしこで苦しそうな呻き声が聞こえる。
これが血の匂い……なのかな……あたりにはむせ返るような鉄臭い臭いが充満してた。
怪我をしたエルフを着替えさせたんだろう、血の付いた衣服を持ってるエルフが俺達が入って来た事に気付いた。
「リク様……ですよね。何故このような場所に? それに、フィリーナやアルネも」
「リクは今怪我をしたエルフを治しているの。だからここのエルフ達も治せるかもって思ってね」
「本当ですか!?」
血の付いた服を持ったエルフはそのまま俺に詰め寄った。
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
「落ち着きなさい。その持っている物がリクに付いてしまうわよ」
「……あっ……ごめんなさい」
俺に詰め寄っていたエルフはフィリーナの言葉で落ち着いてくれた。
「本当に、ここの皆を治す事が出来るのですか?」
「んーと、絶対治せるって保証があるわけじゃないんだ」
「でもリクの魔法は凄いわよ。骨が折れてても一瞬で治ったんだから」
「骨が……ですが、ここにいるエルフ達は……」
そう言って、そのエルフは小屋の中で横たわって動けないエルフ達を見る。
確かに骨が折れてても、すぐに治ったけど……部位欠損はどうだろう……自然治癒を活性化する魔法だから、そこから新しい足が生えて来るわけじゃないと思うんだ……。
自然治癒だけだと骨が折れてるのも正常に治らないんだったような気もする。
でも、効果もそうだけど一瞬で怪我が全部治ったのは予想外だったね。
とりあえず魔法が効くかどうかはわからないけど、やれるだけやってみよう。
「手や足を失ったエルフを完全に治せるわけじゃないと思います。ですが、傷口を塞ぐだけでも大分楽になるんじゃないかと」
「……そうですね。傷から体に悪い物が入ってもいけませんし、痛みを和らげる事が出来るかもしれません。苦しんでる皆を見るのは辛い……お願いです、その魔法を皆に使って下さい!」
「お願いされなくても、リクはやってくれるわよ。ね?」
「わかった。やれるだけやってみるよ」
「リクさんなら全部何とかしちゃいそうよね」
「いや、俺にも出来る事と出来ない事があるよ」
「本当か? 短い付き合いだが、今までリクが出来なかった事なんて見た事無いぞ?」
「リクすごいの!」
モニカさんやソフィーさんはそう言って俺を持ち上げるが、俺にも出来ない事がある。
マックスさんみたいな料理を作ったり、ヤンさんやクラウスさんのように組織を纏めたり、マリーさんのようにモニカさんをからかって遊ぶなんてことも出来ない。
まぁ、とりあえず今はここにいるエルフ達の治療だね。
変な事を考えて集中が乱れて失敗してもいけない。
今は治癒のイメージをしっかり固めておこう。
「……お願いします」
「わかりました」
まず、入り口に一番近い場所で横にされているエルフに治癒の魔法を掛ける事にする。
俺達の会話が聞こえていたのか、この場所で忙しく走り回って看護をしてたエルフ達が動きを止め、固唾を飲んで見守っていた。
俺は近づいたエルフの横で膝立ちになり、手をかざす。
そのエルフは、右手が肘から先、右足が膝から先が無く、痛みからか出血からか、意識も無かった。
苦しそうな表情で寝ているそのエルフに、俺は魔法のイメージを固め、先程の広場よりも魔力を込めて魔法を放った。
「っ……ヒーリング!」
俺の言葉と同時にかざした手から溢れた緑色の光が寝ているエルフを包み込む。
その光は広場で使った時よりも眩しく、魔法を掛けられたエルフを直視出来ないくらいだ。
さっきより多めの魔力を使ったけど、ここまで光るものなのかな?
その光は約1分くらいで収まった。
光が収まった後、寝ていたエルフを見て、さっき話していたエルフが歓声を上げた。
「すごい! すごいですよリク様! 手が、足が……治ってます!」
「やっぱりリクさんね」
「なんだろうな……普通じゃあり得ない光景を見てるのに、リクだからと納得してしまうようになったな」
「元気になったの!」
「ここまでの事が出来るなんて……もうこの集落のエルフはリクに足を向けて寝れないわね!」
俺の後ろにいた皆も、魔法の効果を見てそれぞれ感想を言ってる。
いや俺自身、酷い怪我だから少し強めに魔法を掛けただけだったんだけと……部位欠損まで治るなんて……本当に自然治癒……なの?
俺が考えてイメージした魔法だけど、ちょっと色々わからない事になってた。
「すごいです、リク様!」
手も足も、さっきまでと違ってちゃんと揃ったエルフの寝顔は、痛みを感じなくなったせいか、今は安らかだ。
俺の魔法を見たエルフ達は皆一様にすごいすごいと口々に言い、俺を称えるように声を上げる。
……まだ、一人目で治療しないといけないエルフが残ってるんだけど……。
少しして落ち着いたエルフ達が見ている中、俺は次々に動けないエルフを魔法で治療していった。
意識のあるエルフは無くなったはずの手や足が動かせる事を泣きながら喜ぶ。
怪我をしたエルフの家族と思われる人達も、それを見て涙を流して喜んでた。
日が沈み始める少し前、俺はようやく小屋の中にいるエルフ達の治療が終わった。
俺が小屋を出る時、治療されたエルフ数人が俺に、「この体、リク様のために!」なんて言ってたけど、自分のために使って欲しいなぁ……。
小屋を出た俺達は、噂を聞いて駆け付けたエヴァルトさんに頼んで、小屋にいなかった動けないエルフがいる場所へと案内してもらった。
日が完全に沈むまで集落のあちこちを周り、1日で何とか全ての怪我をしたエルフ達の治療が出来た。
まぁ、小屋にいなかった動けないエルフの数が6人くらいだったから助かった。
数が少なかったおかげで全部回りきれた。
エヴァルトさんやアルネの案内も良かった。
近道になる小道なんかを知ってたので、そのおかげもあって大分移動時間が短縮された。
まぁ、その近道を知らないフィリーナが、何故そんな道を知ってるのか二人に問い詰めてたりもしたけどね。
エヴァルトさんもアルネも、悪戯が見つかったような表情をしてたなぁ。
夜も深くなり、いつもならそろそろ寝る準備を始める頃、ようやく昨日泊まった石の家に戻って来た。
途中、食事を持って来ると言うフィリーナと、自宅に戻るエヴァルトさんとは別れた。
家までの案内はアルネだ。
さすがにあの複雑な道を一度通って覚えられないから助かった。
モニカさんやソフィーさんも覚えてないって言ってたしね。
アルネは今日も石の家に泊まるらしいから、そのついでと言って笑ってた。
魔法の効果にリク自身も驚いています。
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