遅くなったヘルサル到着
「……思ったより遅くなった、かな?」
「そうね……」
特にこれといったトラブルもなく、ヘルサル付近に降り立って空を見上げる。
完全に暗くなって、夜空に星が輝いているのはいいんだけど、予想よりかなり遅めで寝静まっている人が多いだろう時間だった。
「夜遅くても、街の中って入れるんだっけ? 今まで夜に出入りした事がないから……早朝ならまだしも」
「門は固く閉まっているけど、夜間でも通れる小さな扉があって、そこから入れるはずよ。とは言っても、緊急性がない場合はよっぽどの事がない限り開けられなくて、通れないけど」
「センテもそうだが、外壁に囲まれている街ではよくある事だな。大抵の場合、門の外で野宿して一夜を明かし、夜が明けて門が開いたら中に入る事が多い。……私も以前、依頼の達成に遅くなって一夜を明かしたりもしたな……」
「それでも、森の中とか魔物が近付きそうな場所で野宿するより、街の前の方が安全だからね」
「そうなんだ。それじゃ、入れなかったら野宿するしかないね」
できれば門が空いているうちに戻って来て、中に入って宿を取りたかったけど……深夜の出入りは制限されているのなら仕方ないよね。
街の近くなら安全だろうし、何度も野営を経験しているから問題ない。
ちなみに、年に一度くらいの頻度で、いくつかの商隊が深夜に到着してしまって、門から続く街道で多くの人が野営をしたりする事があるらしい。
商隊なので、当然売買する商品を扱っているため、その場でちょっとした商談がされたり、陽気な人がお酒を飲んで朝まで踊り明かしたりする事もあるそうだ……ちょっと楽しそう。
街の近くで、もし魔物が出たり野盗などが襲ってきたら、門を内外で見張っている兵士さん達が対処する事になっているため、安全だからというのと、どうせ朝になったら入れるのだからと大らかに受け止めている人が多いそうだ。
「野宿するのに異論はないけど……荷物だけはどうにかしたかったわね……」
「まぁ、それは確かに……」
モニカさんも特に門の中に入れない事に対して、文句があるわけではないみたいだけど、持っている荷物を見て愚痴をこぼすように呟いた。
荷物というのは、俺達が普段持っている物ではなく、集落で受け取った魔法具。
俺が、メタルワームを右手に持ち、左手にいつもの荷物、さらに背中には紐でクールフトを一つ括り付けていたりする。
モニカさん達も、それぞれクールフトを一つ持っており、ユノは背中のがま口リュックに私物を詰め込み、両手にそれぞれクールフトを持っていたりする。
本当は背中にも背負いたかったらしいけど、クールフトがそれなりの大きさなので、ユノが背負うと片側が地面に付いたりバランスが難しかったりで、断念した。
しかし、メタルワームは試験的に作った一つだったのはともかく、クールフトが七個もあるとは……小型化に取り組むうえで、一度量産して製造するのに簡略化をするためとかカイツさんは言っていたっけ。
「クールフト、だったか。これが見た目ほどの重さでなくて良かった。そちらのメタルワームほど重かったら、全部持ち帰れなかっただろうな」
「そうね。まぁ、金属の筒のようなものだから、それなりの重さではあるけど、何とか持ち運べてよかったわ」
ソフィーとモニカさんが話す通り、金属製だからそれなりの重さはあるんだけど、見た目よりは大分軽いのがクールフトだ。
おかげで、訓練しているとはいえ細身なモニカさんやソフィーだけでなく、小柄なフィネさんも運べている。
ユノが両手に一つずつ持っているのは、特別だけどね。
「でも、リク様がメタルワームを持って下さって良かったです」
「あれを軽々と片手で持てるという事が、そもそもな……」
「まぁ、リクさんだから……最近は、その言葉で全て片付くような気がして来たわ」
「人を馬鹿力みたいに……間違ってないけど」
フィネさんが言うように、メタルワームはクールフトより小さいけど、被せるためのメタルカバーも装着した状態になるとかなりの重さになる。
元々が重い金属なのかもしれないけど、メタルワームとメタルカバーのそれぞれが一人でようやく持ち運べるくらいの重さで、それなりの距離を移動して運ぶのであれば、それぞれ二人がかりで運んだ方がいいと思われる程。
それを、右腕一本で持って運んでいるのだから、モニカさんやソフィーの言うように、馬鹿力扱いされてもおかしくないだろうね。
うーん、持っている俺としては、大きさのせいで一つしか持てないけど、結構軽く感じるんだけどなぁ。
「話してばっかりじゃなく、早く街へ向かうのだわー。はぁ、お風呂に入りたかったのだわ……」
「はいはい、そうだね。でも、元はと言えばエルサが原因で遅くなったから、お風呂に入れなくなったんだけどな?」
荷物を持ち、移動を終えて小さくなって頭にくっ付いたエルサが、のんびり動いていた俺達を急かすように言う。
野営をするとお風呂が好きでも入れないのは仕方ないんだが、そもそもにエルサが原因で、ヘルサルへの到着が遅れた。
理由は簡単、昼食と休憩を取った際に、エヴァルトさん達から包まれた料理やキューを食べたんだが……その量がかなりの物だった事。
それを一気に食べたエルサが、お腹がいっぱい過ぎて動けなくなった事が原因だ。
「そ、そんな事もあったりなかったりなのだわー」
「……まぁ、空を飛んで、俺達を乗せてくれることには感謝しているから、これ以上言わないけど」
「まぁまぁリクさん。荷物は多いけど、とにかく野宿して朝早くに街へ入りましょ。そうしたら、お風呂も入れるし、荷物も置けるわ。獅子亭に行けば、朝食や昼食だって食べられるわよ」
「はぁ、それもそうだね」
とぼけるエルサに、見えないけど頭上に向かってジト目をする俺に、モニカさんが窘める。
ともあれ、夜が明けてしまえば門が開くだろうし、そうすれば荷物を置いたり獅子亭の料理が食べられる……というのを慰めに、南門へ近付いて行った――。
「おかしいわね?」
「……そろそろ門が開く頃合いのはずだが」
翌朝、門が見える場所で野営をして一夜を明かし、日が昇ると同時に片付けて門が開くのを待つ。
だけど、早朝と言うには時間が経ち過ぎている頃になっても、門が開く気配がない。
モニカさんやソフィーだけでなく、フィネさんや俺、アルネも首を傾げた……エルサとユノだけは、まだ眠たいらしく、朝日を見ながらぼーっとしているけど。
「とにかく、様子を見てみよう。何かあったのかもしれないし……近く行ったり、門を叩けば兵士さんが気付くと思うから」
「そうね。けど、リクさんが叩くと、門を破壊しそうだから私達がやるからね?」
「無理に押し入るとかではないからな。私達がやった方がいいだろう」
「リクなら、やりかねんな……」
「いやいや、さすがに俺でもちょっと叩くだけで壊したりはしないよ? って、アルネまで……」
固く閉じたままの門が開く気配が全くないので、とりあえず近くまで行って様子を見てみようと提案。
荷物を持って、ユノやエルサを連れて移動しながら、モニカさん達と話す。
さすがに、全力で叩く事はないし、俺だって加減をする時はちゃんとするからね? 皆、冗談で俺をからかっているだけなんだろうけど……冗談だよね?
魔法の失敗なども考えると、もしかしたら冗談ではなく本気なのかも……?
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