森の中の神域
祭壇ってどんなのなんだろう? という興味と共に、そこにアルセイス様がいるのか……なんて考えていると、ユノからあっけらかんとした声で否定される。
それに驚いたのは俺ではなく、アルネ。
そりゃ、今までここにアルセイス様がいると考え、祭壇を作って祀っていたんだから、驚くのも当然か。
「多分、エルフ達が集まって何かしている時は、アルセイスも見ているの。でも普段この森に来ている時は、別の場所……えっと……うん、わかった。――こっちなの!」
「そうなのか……いや、アルセイス様に祭祀が届いているなら、いいのだろう……そう考えておく」
誰か……おそらくアルセイス様と話している様子のユノが、俺達を案内するが、その行き先は洞窟の向こう側ではないようで、アルネは少しショックを受けているようだ。
まぁ、ちゃんとした祭壇を作って、そこにいると信じて祀っていたんだから、仕方ないか。
「……エヴァルト達には言えんな。洞窟や祭壇とは全然違う場所じゃないか」
「そうみたいだね……」
洞窟は集落から森に入って南側にあるんだけど、ユノは途中で東に向かって方向転換。
ユノの案内について行きながら、アルネが呟く。
アルセイス様と接触、というだけでなくユノの事も話す必要があるから、元々エヴァルトさんや他のエルフには内緒にと思っていたけど、別の理由で言わない方が良くなってしまった。
「うぉ……っと……」
「気を付けるのだわ。リクが頭をぶつけると、私もぶつかるのだわ」
「……だったら、明かりをつけてくれよ。さすがに森の中だと月明かりもほとんど届かないから、真っ暗だ。――というか、アルネはよく木に当たらずに歩けるね?」
「我々エルフは、森の民とも言われているからな。暗闇でも木にぶつかったりはしないさ。リクも知っての通り、意識を集中すれば木々の位置は把握できる」
「ふむ……だわ。――ユノ、いいのだわ?」
「アルセイスは森の静寂が好きみたいだけど、明かりくらいは大丈夫だと思うの……うん、大丈夫て言っているの。ちょっと森がざわめくけど、これくらいならまだ夜を楽しめるって!」
足元も見えないくらい真っ暗な森の中、月明かりがほとんど届かないので、気を付けていないとそこらの木にぶつかりそうになる。
ゆっくり歩いているからなんとか当たらないけど、早めに歩いたり走ったりしたら確実にぶつかっていただろう。
頭にくっ付いているエルサが、木にぶつからないよう注意して来るので、地下道を通った時などと同じように明かりをつけてくれと頼む。
それと同時に、アルネが平気そうに歩いているのが気になったので、そちらにも聞いてみると……エルフだからという理由らしい、そう言えば木々を通して魔物がどこにいるかを少しだけ探れたりもするんだっけ。
……夜目が効くとかではないみたいだけど、ちょっとズルい。
ともあれ、アルセイス様と話しながら進んでいるユノから、許可が出たので少しだけ安心。
森がざわめくっていうのは、明かりを付けたらそれを見た魔物や生き物が反応して、騒がしくなるという意味だと思うけど……。
あ、木々や植物は光合成をするから、そういう意味でざわめくとも考えられるか。
「だわー。……これでいいのだわ?」
「ありがとう。ずっと暗かったから、やっぱり明りがあると安心するね」
「エルフも人間も、光の元で暮らしているからだろうな。魔物や一部の暗闇を好む種族でない限り、そういうものだろう」
エルサが以前やってくれたように、魔法で周囲を照らしてくれたおかげで、周囲も足元もよく見えるようになった。
俺の頭にくっ付きながらなので確認はできないけど、相変わらず目を光らせているようだし、アルネやユノからはヘルメットに付いたライト……ヘッドライトのように見えているんだろうな、と思うけど今更か。
ともあれ、やっぱり明りがあると安心する。
木に限らず何かにぶつからないように警戒をしなくてもいいし、やっぱり周囲がはっきり見えている方がいいからね……アルネが言う、一部の種族って言うのが気になったけど。
「ここなの、ここにアルセイスがいるの!」
「ここだけ、開けているのか……ちょっと不思議な感覚、かな?」
「さすがにここまで来れば、リクも少しは気配を感じているようだわ」
「……こんな場所が森の中に? いや、もしかすると今の間に作られたのか?」
ユノが俺達を連れてきた場所は、森の中にありながら不思議と木々がなく開けている場所……なんとなく不思議な感じがする以外は、初めてエルサと会った場所に似ているかな?
あれは、エルサが大きい体のまま墜落して木々をなぎ倒していたせいだけど。
ともかく、俺が感じている不思議な感覚は、エルサが言うにはアルセイス様の気配のようだ……何かに遮られなく声が届くくらいの距離になって、始めて気配を感じられるくらい、希薄な存在と言う事なのかもしれない。
俺もそうだけど、アルネも周囲をキョロキョロと見まわしながら、何やら呟いているこの広場、感覚的な部分以外にもいくつか不思議な点がある。
まず、森の近くに住んでいたアルネ、そして森の民共呼ばれるエルフなのにもかかわらず、はっきりと開けているこの場所を知らなかった事。
特に目印があるわけではないけど、周囲十メートル以上にわたって開けている場所と考えると、木々が密集しているはずの森の中では、逆に目立つはずなのにだ。
さらに、森と広場の境目を見ると、急に別の空間になったような、そんな風にも見える……木の根や枝葉が、境目ではっきりと途切れているというか、この広場を避けているようにも見えるからね。
さらによく見れば、土もなんとなく違うような? これは、暗くてはっきり見えないし、広場には草花が咲き誇っているから少し見ただけじゃ、確認できないけど。
さらに言うなら、この広場だけ月明かりに照らされながらも他の場所よりも明るく、全体がよく見える。
広場に入る前、ユノに言われてエルサの明りは消していたんだけど、集落を歩いていた時の月明かりよりも明るいんだ。
なんというか、空からの光をここに集中させて集めているような、そんな不思議な光だ。
最後に、広場に入った瞬間から、少しだけ気温が暖かくなったような感じもある……暑いとかではなく、包まれているような、日向ぼっこをしているような、そんな自然な暖かさがある。
……夜なのに日向ぼっこしているような、という時点で不自然でもあるんだけども。
「……うん、確かにここが特別な場所だっていうのは、なんとなくわかるね」
「この広場は、アルセイスのテリトリーになっているの。だから、他とは少し違うの。アルセイス自身がこの世界に繋がるための準備、と考えればいいの」
「そうなのか……やはりここは、アルセイス様が作り出した空間という事か」
「アルセイスが出て来やすいように、ここだけ切り取った、と言うのが正しいの。今この広場は、一種の神域になっているの。だから、余計な魔物なんかは近寄らないし、リクも気配を少しだけ感じられたり、森の中とは環境が違うの」
アルネ達エルフも知らない広場が、森の中にいつの間にか出現していたようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






