ヤンさんへ簡単な事情説明
「農場というより、リクさんを見ておとなしくしていられなくなったのかもね。――でもヤンさん、どうして父さんがそこに拘わって来るんですか?」
モニカさんがヤンさんに聞くのに続いて、俺も疑問に思って首を傾げた。
……マックスさん、今でも現役Bランク冒険者として通用しそうではあるけども。
「いえ、リクさん達が王都に拠点を移した後くらいから、前ギルドマスターとマックスさんがよく話す間柄になったようで……おそらく、リクさんとの関係や、防衛戦で協力した事がきっかけだと思いますけど」
「あー、なんとなくわかりました。そこで、父さんが焚き付けたんですね。体を動かして鍛えておかないといけないとかなんとか言って……」
「さすがは、マックスさんの娘さんですね。その通りです。マックスさん自身は、獅子亭での忙しさを戦場と揶揄していますが、おかげで衰えなくて済むようなのですが……前ギルドマスターはそれを羨ましく思ったらしいのです。そこに丁度良く、農場ができるので農夫として働けば体を動かせて、維持できるだろうと。はぁ……元冒険者らしいと言えばらしいのですが、それなら現役冒険者に戻ればいいのに……と思ったりもしますね」
「そこも、父さんが拘わっていそうですね。父さん、一度現役を退いた以上、再び戻るのは矜持が許さん……とか私にだけ言っていた事もありましたし。まぁ、本当の理由は母さんと獅子亭を切り盛りするだけで精いっぱいだからなんですけど」
成る程……マックスさんが体を動かす事を推奨していたのかぁ……王都に来た時、ヴェンツェルさんと再会して筋肉の確認みたいな事をしていたから、それも影響しているのかもしれない。
そう考えると、元凶はヴェンツェルさんと言えなくもないかも? まぁ、それはこじつけが過ぎるだろうけど。
ともあれ、獅子亭は俺が手伝いをしていた時もそうだけど、前回見た時はさらに忙しくなっていたから、厨房で働いているマックスさんは訓練をしている程とは言わなくても、それなりの運動量を毎日こなしているんだろう……鍋とか人くらいのサイズに並々と沸かしたお湯や具材が入っていたりして、ものすごく重いし。
忙しいからというのとは別に、獅子亭を切り盛りするのが生き甲斐のようになっている部分があるため、マックスさんが冒険者として復帰する気はないのもわかるね。
「まぁ、前ギルドマスターはマックスさんからの影響もあって、急に止めて農夫になるために冒険者ギルドを離れました……」
「すみません、父さんが迷惑をかけたようで……」
「いえ、マックスさんとマリーさんとは、長い付き合いですからね。それに、もしかしたらギルドマスターの重責に耐えかねていた部分もあるのかもしれません……と納得していますよ」
「ははは、支部を一つ任されるわけですから、その責任は確かに重そうですね。ヤンさんは、大丈夫ですか?」
「私は、マックスさん達に鍛えられましたから、なんとか。のらりくらりとやる事を学びました……こう言うと不真面目に聞こえますが、程よく肩の力を抜くのも必要なのですよ」
モニカさんが自分の父親が理由の一つとわかって、恐縮しながら謝る。
ヤンさんの方は、それ程気にしていない様子なので問題はなさそうだけど……重責という部分なら、今まさにヤンさんに降りかかっているんだけど、大丈夫なのかちょっと心配だなと思ったら、なんとかやっているそうだ。
生真面目にも見えるけど、ヤンさんは飄々とした部分があるから、ギルドマスターとしての重責とかは受け流す事ができるのかもしれない……のめり込み過ぎてもいけないから、それくらいがちょうどいいのかもね。
俺も、状況は違うけど戦闘になったら緊張状態になり過ぎると言われているし、ヤンさんから学べることは多い気がする。
「私の話はこの辺りで。なんとかギルドマスターの職もこなしていると思って頂ければ。リクさん達の方はどうですか?」
「あぁ、すみません。今日は、特に用があるというわけでもなく……まぁ、さっきも言いましたけど、農場の様子見にヘルサルへ寄っただけなんです。それが終わったら、エルフの集落へ行くので……王都から離れているという事と、とりあえずヘルサルにいるというのを報せに来たってわけです」
「成る程……移動の際に冒険者ギルドに報告して、所在を明らかにしてもらえるのは助かります。所在のわからない冒険者というのも少なくありませんからね……生存すら確認されない事もあります」
ヤンさんが、自分の事で話し込んでもと考えたのか、話を戻して俺達の事に。
とりあえず、エルフの集落へ行く事を伝えつつ、王都から離れている事の報告をする。
深くうなずいたヤンさんによると、報告をしない冒険者も多いらしく、所在どころか生存しているかすらわからない人もいるらしい。
まぁ、魔物を相手にする事が多いから、常に命懸けだし……報告ができない状態だったり、そもそも帰って来られなかった人もいるんだろうな……。
「あ、こちらはフィネさん。冒険者でBランクです。あと……アルネはあった事がありますよね?」
「フィネです。本来はヘルサルではなくルジナウム方面で活動しておりましたが、折り合ってリク様に同行させて頂いております」
「アルネさんとは、エルフの集落で話したのを覚えています。そういえば、前回来た時にフィリーナさんがいましたが、今回はアルネさんが同行しているのですね。それと……フィネさん。Bランクですね……はい、確かに。リクさんのパーティには?」
「いえ、私は同行させて頂いているだけなので、パーティには入っていません。もし共に依頼をこなす事があっても、報酬は辞退するつもりです」
「ふむ、まぁ、報酬の分配などでもめないようであれば問題なさそうですね」
そういえばと、改めてフィネさんとアルネをヤンさんに紹介。
アルネとはやっぱり話した事があるらしく、今回がはフィリーナではなくアルネが俺に同行してエルフの集落へ行く事を確認するだけで終わった。
フィネさんの方は、冒険者カードをヤンさんに見せてBランクである事を証明しつつ、いくつかの確認。
パーティに入るかどうかは、一時的にフランクさんから頼まれているだけだから、フィネさんが望まない限りなさそうだけど、報酬はきっちり分けるつもりだったんだけど……。
まぁ、しばらく依頼をうけずにのんびりする、なんて宣言しているから確認していなかったけど。
ともあれ、実際に依頼を受ける時にはフィネさんへの報酬の分け前も、ちゃんと考えたり話し合ったりしないとね。
「それで、エルフの集落へ行くというのは? 王都で、何かの依頼を受けたのでしょうか? いえ、話せない事であれば話さなくても構いません。ましてや、リクさんはAランクで英雄……ギルドマスターとは言え、支部の者に話せない事もあるでしょう」
「あぁ、冒険者の依頼とかは関係ないんです。というより、依頼はしばらく受けないようにして、ちょっと休息する期間をとかんがえています。エルフの集落への要件としては……」
依頼ではない事をヤンさんに伝え、ちょっとの間のんびりする事も伝えたようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






