ヘルサルは故郷のように歓迎してくれる雰囲気
「あ、エルサ。南側に行って降りてくれるか? いつものように西側だと、結界のある農場から飛んでいるのが見えるだろうから」
「わかったのだわー」
とりあえずの予定を決め、少しずつヘルサルが近付いてきた頃、エルサに指示を出して南側に向かってもらう。
農場の確認はしておきたいけど、エルサが飛んでいるのを見るのは驚かせてしまうからね……ヘルサルの人達なら、エルサの事を知っている人もおいから大丈夫かもしれないけど、念のため。
農場は王都がある西側だし、覆っている結界は透明で見晴らしがいいから、かなり離れていないと飛んでいるのが見られてしまう……というより、目を凝らせば薄っすらと見えるかもしれない距離だ。
そろそろ大きく南側に向かわないといけないだろう。
「リク様!? ようこそ……いえ、お帰りなさいませ!」
「えっと……戻りました」
南側に迂回して離れた場所へ降り、ヘルサルの門へ入る際に衛兵さんによるチェック……と思ったんだけど、俺の事を知っている衛兵さんだったので、驚いた後敬礼しながら迎えてくれた。
なんというか、ようこそと歓迎されるのも嬉しいけど、お帰りと言われるのもホームに帰ってきた感じがして嬉しいね。
ヘルサル出身というわけじゃないけど、俺にとって始まりの街だから尚の事かな。
とはいえ、さすがに詰所にいる衛兵さんが急いで整列までする必要はないんだけどね……最近入ったらしい新人さんは、俺の事を見て疑問顔だったし……隣にいる別の衛兵さんが教えていたけど。
「私はヘルサルで育ったから知っている人が多くて、確認されない事もあるけど……さすがにリクさんは別格ね」
「まぁ、今この街が何事もなく残っているのは、リクのおかげでもあるからな。さすが英雄といったところだろう」
「良きに計らえなの!」
整列した衛兵さんの前を通って、南門から中へと入る際、後ろの方でモニカさんとソフィーがヒソヒソ話しているけど……聞こえているからね?
まぁ、防衛戦準備の時や、ゴブリン達と戦った時の事もあって顔が知られていて、顔パスになっているのは楽でいいけど……。
あとユノ、多分姉さん辺りから聞いて真似をしているんだろうけど、それは高貴な身分の人が言う言葉だからな? 衛兵さんのうち数人が不思議そうな表情を浮かべていたから、辞めような?
……神様だったという事を考えれば、確かに王族どころかこの世界で一番高貴とも言えなくもないけど、知っているのはほんの一部だけだから。
ちなみにフィネさんとアルネは、ヘルサルが初めてだから特に何かを言う事はなく、周辺の様子を窺っているようだ……野生動物かな?
いやまぁ、初めての場所だからヘルサルがどういう街なのかを観察しているんだろうけど――。
「よし、それじゃまずは冒険者ギルドに行こうか」
「そうね。まぁ依頼を受ける事はないにしても、一応ヘルサルにいるという事を言っておかないと」
ヘルサルに入った後は、少しだけ懐かしい気もする街中を歩いて、アルネやフィネさんにそれとなく街の説明をしながら、中心部近くの宿に部屋を取って、併設されている……というより一階の酒場兼食堂で昼食を取ってから、冒険者ギルドへ向かって出発。
昼食を取るなら、先に獅子亭に行ってマックスさんの料理を……とルギネさんとの天秤にかけて、料理が勝った様子のソフィーに言われたけど、結局先に済ませてしまう事になった。
獅子亭に行ったら、丁度昼食時で混雑していそうで迷惑になりそうだし、ルギネさん達に絡まれる可能性だったり、マックスさんやマリーさんに掴まってしまいそうだったからね……特にモニカさんが、マリーさんに手伝わされると考えたようだ。
挨拶したり、手伝う事はやぶさかではないんだけど、それで時間を取られたら冒険者ギルドに行くのが遅くなるか、明日になってしまいそうだからね。
ちなみに街を移動した際に、冒険者ギルドへの報告義務というのはないんだけど、今はここに滞在していると言っておく方が好ましい。
もしなんらかの依頼で、把握している冒険者に依頼を任せようとした時に、指名されたりもするから、基本的にはギルドのある街へ移動した際には、報告しておくようにしている。
ヤンさんにも挨拶しようと思っていたし、ちょうどいいからね。
「途中でまたキューを買うのだわー」
「まだ食べるのか?」
「違うのだわ。リュックに入れておくだけなのだわ」
「俺も持っているから、また買う必要はないんだけど……まぁ、途中で買えばいいか」
「ほんと、エルサちゃんもユノちゃんも、そのリュックが気に入ったのね」
「うん、気に入っているの!」
「そ、そんなんじゃないのだわ……」
宿を出て、冒険者ギルドへ移動を開始してすぐ、俺の頭にくっ付いているエルサからの主張。
今は小さいから、再びがま口リュックを背負っているんだけど、その中身のキューはヘルサルに入る前に空を飛んだ自分へのご褒美として食べつくしていた。
だから、中身はもうお菓子くらいしかないんだけど……とにかくリュックにキューを入れておきたいエルサは、昼食直後で満腹なのにもかかわらず、キューが欲しいんだろう。
モニカさんがエルサとユノが背負っているがま口リュックを見ながら、少し感心するように言うと、素直に頷くユノと違い、まだ認めないエルサ。
頭にくっ付いているから見えるわけじゃないけど、モニカさんから顔を背けたような動きを感じた。
素直になれない女の子みたいな反応を……ツンデレさんかな?
ともあれ、リュックに入れる分のキューはエルサが自分の小遣いで買うので、使い道を制限しているわけではないので自由だし、途中の店で買えばいいかと、改めて冒険者ギルドへと向かう道を歩き出した。
「えーっと、とりあえずいつも通りまずは受付に聞こうかな?」
「そうね」
途中でキューを買ったり、ちょっとした寄り道をしながら冒険者ギルドに到着。
ルジナウムやブハギムノング、王都の冒険者ギルドに寄る事が多かった最近では、少し懐かしさも感じる……長く来なかったわけでもないんだけどね。
何人かの冒険者と思われる人達が、それぞれのグループで固まって依頼に関する相談をしているのを見かけるけど、新しく大勢で入ってきた俺達に視線を向けている人も結構いるようだ。
中には、俺の事を知っていて驚いている人もいるみたいだけど……あぁ、防衛戦で一緒に戦った人だね、受付に向かいながらそっと手を振って簡単に挨拶しておいた。
「すみません。ヤンさんは今いますか?」
「はい? あ……リク様!?」
もう何度目だろう……カウンターになっている、受付の向こう側に座っている女性に声をかけると、俺の事を見て驚かれるいつもの反応。
ヘルサルの受付カウンターは、それなりに見晴らしのいい位置にあるんだけど、暇だったのか隣の受付をしている人と雑談していて、俺達が入って来た事に気付かなかったみたいだ。
まぁ、この反応も慣れてきてしまっているけどね……最初は、呼び捨てだったり君やさんを付けられていたはずなのに、もうここでも様を付けられるようになってしまったなぁ……くらいの感想だ――。
様を付けて呼ばれるのも、さすがに慣れてきたようです。
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